第12話 奇跡と好奇心

『相次ぐ高齢者自動車事故……20代二名重体』

『SNSでは今の高齢社会を風刺するこういった画像が……』

『最近の若者がーと言いつつ若者を苦しめてるのが最近の老人などと』

『被害者二名は手の一部が癒着していたとの情報が新たに』

『危険!!血液の接触から感染する病気とは?!』


ニュースを見ていると、簀戸先生がやってきた。


「やあみつゆき君。具合はどうだね」

「問題ないです」

「退院の目処がおおよそ一ヶ月後位に立ってね、そのことについてなんだが……」


私の身体はもうほぼ包帯も取れていて、骨もある程度戻っているらしいことは聞いていた。

けど事故からまだ一ヶ月しか経ってない。いくらなんでも早すぎるんじゃないだろうか?


「早くないですか?」

「現に左手以外はほぼ完治だろう?」

「そりゃまぁ確かにそうですけど……」


あれだけ重症、後遺症覚悟だったのにもう完治ですって。

ちなみに入夏も具合はだいたい同じか、私より元気っぽい。


「流石に筋力などは流石に衰えているし、まだどこか見えない不調があるかもしれないからリハビリはちゃんと通うように」

「はーい」


その後はこれから退院に向けて詳しい経過とかの報告が続いた。



「……先生」

「なんだね」


一通り、報告とか色々が終わって、質問がないか聞かれた時。


「私達って血液とかから病気感染してたりするんですか?」

「二人共、新たに発症する病気はなかったみたいだね。それぞれ検査した結果、お互い同じものを持っていたか、持っていなかったよ」

「そうですか……」


そんなことってあるんだろうか?

親とかから感染っているものとかあるだろうし……。

私の母親も祖父も結構な遊び人だったから、そんな事ないと思うんだけど。


「ただ、興味深いことが一つ」

「はい」

「どうやら君の血が癒着した手を通しているかさんに輸血された可能性がある」

「……それありえるんですか?物理的に」

「一ヶ月前の……事故当日にいるかさんの血液を採取した時に君の血が混じっていたんだ」

「?……なんですかそれ?」

「人の体とは不思議なものだな……痛感するよ」

「……それって私とあの子の血管が繋がってたということですか?」


ひっついていただけでなくて、一体化していたってことだよね?


「そこなんだが、つい最近の……三日前に検査をしただろう?そのときには君の血が混ざっていなかった」

「偶然という可能性もあるがミスは出来ない立場なんでね……当時は繋がっていたんだろう」

「……あの子への輸血が必要なくなったから、塞がった?」

「そうかもしれない。真相は神のみぞ知るといったところか」


入夏の血液型は知らないけど、輸血って結構相性あるとか聞いたことあるし……。


「というか輸血して大丈夫だったんですか……」

「互いの身体が勝手にやったことだ。拒絶反応も出ていないどころか平然としていただろう?」

「……命を繋ぎ止めるために起こった必然?だから?」


それはお伽噺とか、神話とか、そういうものの領域だと思う。


「故に拒絶反応も出ていないんだろうね。血液型の相性としては互いにO型だったことが幸運だったのかもしれない」

「O型なのが役に立つときが来るとは……」


親が両方B型なので普通はB型。ありえない組み合わせではないんだけど、私はO型。

ぶっちゃけ両親……父親と血繋がってねーだろとか思ってる。


「一番不思議な事があってだな、事故一週間後、目覚めたあの日、君からいるかさんの血液が見つかった」


輸血されたなら私からは出てこないはず?


「……どういうことですか?」

「恐らくだが……事故発生時、相手に輸血し、生命維持ができたあとは循環していたのではないかと推測する。傷口が早く塞がっていたり代謝がよくなっていることと関係があるかもしれない……が謎だ」


いや絶対ありますよねそれ……でも医学的に実証しにくいとかそういう理由なのかしらん?


「本当に早く傷を治すためにお互いの身体が連携した……んですかね」

「本来あの規模の事故で五体満足かつ後遺症がないのは誰が聞いても奇跡だ、実際運ばれてきた君たちはボロボロだった。完璧に処置できても後遺症は残り、神経へのダメージ等で経過次第では四肢の切断もあると判断せざるを得ないほどに」


そんなに酷かったのか……あの時目覚めた時点でそんなでもないと思ってたけど、処置と治癒のお陰だったんだな……。


「つながっていた手は超がつくほどの高熱で癒着したはずなのに、今となっては火傷の痕すらほとんど残っていなかったり、な。それが今ではただの骨折しか残っていない……これを奇跡と言わずなんと言おう?本当に大変興味深い現象だった。だがもうそれは確認できない。私としても名残惜しいのだよ」


まあ、同じようなことが起こるとして、その前提の、あの事故みたいなことが起こる事は早々ないわけですし。


「あはは……隠すの結構大変だったんですよ?もうお手洗いも一緒なのは勘弁です。男子トイレが一番です」


これは本音。正直いるかだからこそ大丈夫だけど、マジモンの他人だったら軽く死ねてる。


「もうその心配はない。それに一ヶ月後には自宅に帰れるだろう?」

「そうですね、そうだと良いんですが」

「何だ、問題でも?」

「入夏が転がり込んできそうで……」


この人には話していいだろう、そう思った。

というか回避策を考えてほしいな?


「それは良いじゃないか」


あ、私の味方居ないなさては?


「いや、私ら恋仲じゃないですって」

「四六時中一緒にいるからてっきりそうなのかと……」


いやそう言われたら傍目には恋仲にしか見えないでしょうよ!


「一ヶ月先とは言ったが、早く退院できるように願っているよ」

「はい。ありがとうございます」

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