第25話 入夏と初めての海

「外、明るいですね……」


当たり前なことを呟く。

朝ごはんを食べ終わって、食器類を片付け終わったところで、外では陽の光がアスファルトを燃やしている。


「体感四十度だって」


天気アプリを引っ張り出し、軽く絶望する。


「死にますね」

「家から出たくないでござる」


こんな日になぜ外へ出る必要があるのか。


「賛成です」


とりあえず座る。

ワンルームのこの部屋が私達二人の家。

二人もいればそこそこ家具も配置されてるわけで。

でも寝転がったりするスペースはあるから窮屈さは感じない。

……なので暇な時はこうやってだらけるのだった。


「ちなみに本日の予定は」

「ありません。家から出たくないです」

「了解」


……何をするでもない。

何もすることがない。


入夏とは付き合いこそ短いけど互いの腹の中を曝け出した仲だし、もはや家族である。

でもちょっと違うかな、生まれてから向き合ってきたもう一人の自分と言うべきか?


そんな人間と文字通り仕切りなしの生活をしていれば以心伝心なんてのもできてくると思う。

実際そうで、私が暇だからとクッションとタブレットPCを引っ張り出していると、入夏が近寄り、膝に座ったかと思えば私に体重をかけてくる。

私は抵抗するでもなくそのまますとん、と倒れ、2人でタブレットPCをいじることになった。


とりあえず通販サイトを開いてみる。

そして入夏が気になったものを選ぶ。

……今回は電子書籍になったらしい?


普段から見ているものの新刊を探す……けど見当たらないので次。

左上のロゴをクリックした先のトップページにはでかでかと映る黒い鯛の特集。

入夏がこちらを一切確認せずタップする。

これ女子力叫んでる系の女の子が見るやつじゃないんだけどな?

内容は最近釣れるものとか、環境の変化で回遊魚がどーのとか、新しい製品とか、インタビューとかとかとか。


「……ん」


入夏がページをスクロールしていた手を止めた。

船釣りでの外道として上がったアジなどの小魚を漁港で捌いて刺し身や天ぷらにして食べる、そんな記事だった

というか食べる方かぁ。


「黒鯛って美味しいんですか?」


入夏が口を開く。


「んー、場所と処理によるかなぁ……あんまオススメしない」


やっぱり食べることだったらしい。

朝ごはんあれだけ食べてるのに……たくましいこと。


「ふむふむ」

「ああ、こっちなら割と近いとこで釣れるよ」


『砂浜の女王、到来!』と大見出しがある魚を指差す。


「……えっ?船ですよね?」

「のんのん、砂浜からでいい」


船釣りでも釣れるがメジャーなのは陸からで。

というか砂地で浅ければいるので、砂浜での投げ釣りは割と有名だし簡単である、あの魚であれば。

……素人程度の知識でしかないけど。


「美味しいんですか?」

「たまに行く天ぷら屋の椿定食」


蓮根とか玉ねぎとかピーマンとかエビとかかぼちゃとか豚とかサラミとかイカとかが盛り付けられてるやつのこと。週イチくらいは行ってる気がする。


「え、天ぷらのお魚って」

「これが揚げる前の鱚(きす)だよ」


人の字になっており、その頂点に尾ひれがあるあれのこと。

揚げたてが絶品なのは入夏も知っている。


「行きましょう」

「……む?」

「釣り行きましょう」


火がついた様子。

釣り方は多分知らないよね……?


「……スーパーでもたぶん買えるよ?」

「釣りたての方が美味しいんですよね?」

「……この暑さの中、つらいよ?」

「問題ありません」


食い意地張ってるなぁ。


「ちなみに予算はどれほどあればいいんでしょう??」

「んー、一人五千円かな」

「五千円ですか……」


家族向けのセット品があるだろうからそれにするとして、あとは餌とバッカンと……まぁそのくらいかな?


「むむむ……」

「まあ悪くないんじゃない?釣竿とか置いとけばいずれ使えるんだし」

「そうですね、一食五千円という訳では無いですし」


多分使わないだろうけど。


「いつ行きますか?」

「今何時だっけ」

「九時半です」

「んー……」


とりあえず潮見表確認して……。


「五割の今日と七割の明日どっちがいい?」

「五割の今日でしょう」


思い立ったが吉日というやつ?

食べたくなったらすぐ食べたいよね。


「明日今日より三度低いです」

「明日行きます」


でもやっぱり外気温には負ける。

名前が入夏なのに夏が嫌いとはこれやいかに……。

道具は涼しくなってから……晩御飯の時にでいいか。


「確かソロキャンプ用のクッカーとかありましたよね」

「油持ってく気?」

「う、そういえばそうですね……」


実際の所釣りたてをその場で処理して食べるのも全然アリなほど絶品らしくて。

いつかはやってみたい気もするけど、釣れるかすら不明なのに初回で荷物増やして、までではないでしょう。


「ここから行くにしても荷物は軽い方がいいよ」

「そんなに遠いんでしたっけ?」

「一応片道十キロくらい?」

「結構ありますね……」


あと、たぶん入夏さん疲れ果てちゃうと思うからね。

投げ釣りなんて普段使わない神経と筋肉を使うから余裕は持っておくべきだとは思う。



そんなこんなで翌日早朝。


「さあつゆきさん、行きますよ!天ぷらが私を待っています!!!」


ワンピースにいつも通り上着と肩隠しを装備した入夏さん。

自転車に乗っても問題ない程度に丈は短いけど、それでも膝下くらいはあるし、風と日焼け対策で上に一枚合わせているので恐らく大丈夫でしょう。


外はまだ薄暗かったけど、なるべく街灯のあって広めな道路を選んだので難なく到着。


「外気温二五度、まあ悪くはないね」

「つゆきさんなんで平気なんですか……」


汗だくである。入夏も私も。

片道十キロに加え荷物がまあまあの自転車二人旅で、すでにバテている入夏であった。


「なぜ生き写しのような私達でこれ程の差が……」

「ママチャリとマウンテンバイクの差ではないでしょうか、入夏さん」

「私もマウンテンバイク買うべきでしょうか……」

「それなら中古とかで車買う方が良いかもね」


私のマウンテンバイクはさすがに乗れなかったので荷物はほとんどこちら持ちで入夏は自前のママチャリを漕いできた。

それでもバテたのである。


「でもほとんど荷物はつゆきさんだったんですよ?」

「むー……」


とりあえず荷物を下ろし、暑さゆえか貸切状態のこの海岸で日陰を作る。


「自販機があるのは救いですね……」

「釣れなかったらそこの海の家で食べて帰ろうか」

「絶対釣ります」


とりあえず準備開始。

リールを取り出し、竿にセット、ベールを上げ糸を竿のガイドに通す。

入夏も見様見真似できるよう少しゆっくりめに。

糸先にサルカンを付け、天秤を繋ぎ、さらに仕掛けをつける。

そこまでしたら振り出し竿を伸ばし、ガイドを固定する。


「これでいいんですか?」

「ちゃんと結べてるね、あと餌つけだよ」


本日使う餌はアオイソメである。


「……つゆきさん、あの」

「と思って手袋持ってきました」

「う、うぅ……うにょうにょ……」


昨日の時点で入夏も見てはいたけどやっぱりキツい様子。


「噛みますよね?噛もうとしてますよね?」

「頭を捕まえて口から針を通す、ある程度の長さで背中から出す。ちゃんと捕まえてれば噛まれることは無いので結構強めにつまみましょう」

「はぁい……」


まあ、切った半身を渡すんだけど。


「今の時期のサイズがわからんけど、たぶん3cmくらいあれば行けると思う」

「うう……頭はありませんが血が……」


一度血だらけになったことあるのに……だからこそか?やっぱり血は怖いらしい。


「全部つけました」

「じゃあ投げ方です」


入夏の仕掛けが問題ないことを確認。


「まず糸を人差し指と竿で挟んで出ないようにして、ベールを上げる」


入夏も見様見真似。


「そして絶対に周りに人がいないか確認、次に引っかかるものが無いか確認」


流木があったので少し離れることに。


「足先を投げたい向きに、竿を背負って、リールが真上を向いてるか確認、この状態から投げる時に頭の辺りで糸をキープしてた指を離す」


表情からは上手く飲み込めていないことが伺える。


「まあちょっと離れて見といて」


いち、にの……さん!っと!

ひゅーん……ぽちゃ。

うーん、三十メートルくらい?こんなもんか。


「で、こっち来て」

「はーい!」

「投げたら糸を少し巻いて、ピンと張らせます」


この状態から早ければアタリがあるけど……まぁないよね。


「そしたら横に倒してゆっくり竿を引く。そうすると仕掛けが少しずつこっちに引けるので、フグに食われないよう逃げるのです」

「逃げる……?」

「これやってると竿がグン!ってなるから」


……。

…………。

………………!


「お、これこれ。少し待って……」


ブルブルブル。


「こうやって明らかにかかってそうな反応が来たらクルクル巻いて上げてよし」

「おおー……?」


記念すべき一投目。


「さて何かな」


巻き上げているとオモリと天秤が上がってきて。


「フグですね……」


まぁそうだよね。


「あ、本命だ」


1針目にフグ、3針目にちっちゃいけどキス。


「フグを外して……お、針無事だ」

「フグだと何かあるんですか?」

「こいつ食えないのはもちろん、針を噛み切っちゃうことがあるのです」

「厄介ですね……」


まぁ根がかり考慮で替えは持ってきてはいるけど……。


「あっちゃあ……キスの方は針飲み込んでるか」

「針飲み込むとダメなんですか?」

「普通針って口の中にかけるんだけど、胃とかまで飲み込むと針外しにくいし、外せても致命傷だから逃がせないんだよ」

「残酷ですね……」

「ちゃんと持ち帰って食べなきゃね」

「そうですね。大事に食べましょう」


普通ならね。


「ささ、頑張って」

「やってみます」


私が復唱しながら入夏が見様見真似。


「えいっ!!」


ちゃんと投げれてるね、よしよし。


「なんかあったら呼んでね」

「はーい!」


竿ケースからお古の竿を取り出す。

何年も前に曾祖父のものを貰っていたが釣りなんてほとんど行ってなかったので開けてすらなかった

今回しれっと使えそうな竿を二本ほど持ってきた。


「えーっと……針は」


チヌ針。あとウキに……。


「よしよし、じゃあキス君には旅に出てもらおう」


針を飲んじゃってリリースしても先が短い個体、しかも小さくて食べにくいときたら?


「ここひとつ仕掛け置いとくね!」

「わかりましたー!」


生き餌でしょう。


「さて、もう一度投げますかね」


餌をつけてたら餌を取られた入夏が戻ってきた。


「さっき何してたんですか?」

「……博打?」

「えっ、なんですかそれ……」

「あそこ見て」


赤いウキがぷかぷかと漂ってる地点を指す。


「……なんです?あれ」

「あの下にさっき釣った小さいキス君がいます」

「え、逃がしたんですか?」

「鼻と背に針通して逃げれなくなってます」

「……残酷では?」

「まあまあお気になさらずに、何も無ければ食べられるので」

「はあ……」


よし、餌つけ完了。


「じゃあ投げてくる」

「はーい」


いち、にの……とぉっ!


「さっきより若干遠い?」

「つゆきさんー!」


あれ、何かあったのかしら?


「んー?」

「この竿このままでいいんですかー?」


ああ、風があるせいかベールを上げっぱだと糸が出んのね、少し巻けばいいか。

今投げた竿を砂浜に刺し、戻る。


「いいのいいの、これこうしとかないと下手すりゃ竿持ってかれるから」

「糸すっごい出てますよ?」

「あら本当、今日風そこまで強くないから大丈夫と思ってたんだけど…」


……。

……ん?

ウキ、動いてね?


「あ、これ入夏はい、巻いて!」

「えっ?えっ?」


軽くアワセを入れ、糸ふけを取ってからドラグを緩め、入夏に渡す。


「キスですよね?キスですよねこれ!?」

「確かにあのウキの下に居るのはキス君だ」

「何かすごく重たいし引くんですけど!」


竿すげーしなってる、何が掛かってんだろなぁ。


「づゆぎざん!!これなんですか!!?」


半泣きになってる、まあそうなるか。


「大丈夫、落ち着いて巻いて」

「あの、引き込まれそうなんですけど!!」


あー、じゃあ、入夏ごと竿持つか?


「ほら、これで大丈夫だから」

「えっ、あの、その、えええ!?」


顔真っ赤ですぞ。


「あ、あそこ見て」


黒くて丸い光るものが暴れているのが見える。


「大きくないですか!?」

「キス君です」

「えええええ!?」



「はい、本命というか、外道だけど本命です」

「美味しいんですか……?」

「そんなに臭くないし多分美味しいと思う」

「キスで釣れるんですか?」

「どうやらそうらしい」


普通は貝とからしいけど。


「ここ結構浅めの砂浜ですよね?」

「あの辺、少し岩場あるからね」

「……クロダイってここからでも釣れるんですね」

「予想はマゴチかヒラメだったんだけどなあ」

「まごち?ひらめ?」

「ふふ、こっちの話」


いやまさかキスでクロダイとは思わないじゃん?

確かに岩場はあるけど……キス食べるんだ……。


「よし、これでいいかな」


帰るまでまだちょっとあるからスリンガー通して生かしておくことに。

準備が良すぎるって?

チヌ針持ってきている時点で、ですよ。

最初から私は泳がしがメインなのだから!


「……つゆきさん」

「どした?」

「手の震えが止まらないです」


あちゃあ、やりすぎたかしら。


「正直釣りなんて食材調達の手段としか見てなかったんですけど」

「……けど?」

「侮っていました。クロダイもう一匹狙いましょう」


さては引きを楽しみたくなったな?


「とりあえず水飲んで落ち着いて」

「まだやれます!まだ!」

「まだやってもいいけど水分は絶対よ」


ごくごくごくごくごく。二リットルペットをラッパしておるぞこの女子(おなご)。


「餌付けれる?」

「むりです」

「じゃああの竿よろしく」

「わかりました」


確かにね、私もよくわからん大物を初めて釣った時はああなった。


「あれー?」


入夏の反応を見る限り、なんか違和感ある様子。

あの竿投げてから放置だし海藻かなんか引っ掛けてたかな。

まあいいや、餌つけよう。


「つゆきさーん!」

「どしたー?」

「重いんですけどー!」

「多分海藻かゴミじゃないー?」

「そうですかー…」

「巻いてていいよー」


……。

……。

よし、おけい。


「つゆきさん」


次の準備が終わったところで入夏が戻ってきた。


「なんか変なの釣れました」


んー?


「えー……っとー……どっちだこいつ……」

「ヒラメ?ですか?」

「入夏さん、これ多分カレイです」


外道だけど……食えるサイズだなこれ。


「フグ、キス、クロダイ、カレイ…色々釣れるなぁ」

「こんなものなんですか?」

「ないない、ビギナーズラック。というか、私ここで釣ったことあるのキスとフグとカサゴだけだよ……」


それも、うんと昔のことね。


「かさご??」

「煮付けにすると美味しいアレです」

「……なるほど」


この子、ほんとに女子……?



「疲れました」


自販機で買ってきた冷たい水が空っぽになった。

四時か…そろそろ帰り支度しないと帰ったら真っ暗かな。


「帰ろうか」

「いえ!まだ……!まだカサゴが!!それにあの大物がまだいるかもしれませんし!」

「あれだけキス釣って、お持ち帰り予定のクロダイとカレイがいるのに?」

「でも煮付けと刺し身ですよ……?」

「……入夏が捌くならいいけど」

「さば……く……?」


背後に宇宙が見えますよ入夏さん。


「鱗とって、お腹開いて、内蔵取り出して、頭落として、背骨から身を切り離して……」

「帰りましょう。帰ればまた来られます」


そのセリフ前も聴いたなぁ。



「つゆきさん、つゆきさんっ……!私もう無理です……!」


帰りの坂道を登りきった所で入夏がギブアップ。


「少し休憩するか」

「すみません、腕と足が……」


あれだけ釣竿振って、あのクロダイより引きの強い大物をバラし、仕舞いには気晴らしに砂浜を走り回ったのだから仕方ない。


「そこ、座れるから座ろうか」


大学の前、丁度よく座れる場所があったのでそこで休むことに。


「随分とはしゃいだね」

「はい……誰かと遠出、ましてや海なんて初めてです」

「通りで。楽しかった?」

「もちろんです!」


歯を見せ、まるで子供のように笑う入夏さん。

……初めて見たなぁこの表情。


「でもまだ終わってないよ」

「……えっ?」

「帰ったら地獄が待ってるから」

「どういう……?」

「ふっふっふ、お楽しみに」

「筋肉痛ですか……?」

「それもだね、今日のところはまずご飯を作らねばならないということです」


釣ったんですもの。入夏にもやってもらいましょう。


「なんか怖い……」


キス三十匹余りと眠気に耐えてもらいませんとね……!


「あ、水が……」

「無くなったか、まあ当然よね」


ちなみに二リットルペット一本は昼ごはんの時に空になって、これは自販機サイズ五本目です。


「……よし、もう大丈夫です」

「あと少しだけど、緩い登り坂だよ?」

「ほぼ平坦じゃないですか、いけます」

「じゃあ、頑張ろうか」

「はい!」



「つゆきさん……もうやだぁ……」


帰ってからすぐ風呂に入った入夏が出てくるまでにクロダイとカレイの下処理をした。

ちょうどよく入夏が出てきて、軽く髪を乾かし、着替えて準備完了。

最初の三匹は教えるために私がやった。あとの二十九匹のキスは入夏の領分である。


「眠いです……ねーむーいーでーすー」


鱗を落とし、腹を開き、内蔵を抜き、頭を落とし、洗う。のループ。

残り十三匹くらいだろうか、あと半分もない。


「釣りってね、ここまでやってワンセットなのよ」


幼少期、小アジを五十匹くらい釣って帰って身を以て体験した

それを入夏さんにも体験していただいております


「ほら手切るよ、しっかり」

「うー……」


私もシャワー浴びたい。けど多分この子寝るだろうし危ないから台所から離れられない。


「あと四匹……」

「今日にする?」

「もちろんです!!食べるまで寝られません!」


じゃあ油用意しておこう……。


「クロダイとカレイは?」

「明日で……」

「りょーかい」

「終わりました……終わりました!やっと終わりました!!」

「じゃあシャワー浴びてくるので」

「わかりました」


というわけで風呂場を出て、着替え完了。

半袖だったからかお湯が痛かった。

長袖着ていくべきだったかなぁ……。

まぁともかく、やっと汗も流せたし晩御飯の支度を……。


「……」


リビング兼寝室を覗くとそこには寝ていらっしゃる入夏さんが。


「入夏さーん?」

「……」


へんじがない。

よし捌くぞクロダイとカレイ。



「入夏ー?いーるーかー?」

「……はっ!」

「おはよう?」


捌き終わり、クッキングペーパーに巻いて冷蔵庫へIN。

部屋に戻って机に突っ伏して寝ていた入夏を起こす。


「おはようございます?」

「今から揚げますが」

「食べます!!!!」

「のまえに涎拭きなさいな」


わわわっ!と慌てる入夏を尻目に次々と衣を付け、揚げていく。


「入夏さんは塩だけでいいんでしょうか?」

「塩がいいです!」

「とりあえず白米運んで下さいませ」

「わかりましたー!」


三十二匹のキス、うち最低でも十五匹を今日食べることにした。

明日は何にしよう……。



「これ、キスの刺し身ですか?」


調理が終わり、食べ始めることに。


「そう、あまりにも数が多かったから大きいやつを刺し身にしてみた」

「あまり綺麗ではありませんね」


うう、できなくはないだけで得意ではないのだよ。


「皮引くのが難しくて崩れちゃった」

「なるほど……」

「けど、味はいいですね」

「天ぷらは?」

「最ッッッ高です!!!これだけを贅沢に食べ続けられるなんて夢のようです!」


満足いただけてるようで。


「「ごちそうさまでした」」


十匹くらいを天ぷらにしたんだけど、すぐ平らげちゃった。

食べてすぐ寝るにはということで、入夏と今日のことを話すことに。

私も友達と……入夏は友達とは少し違うけど、海に行くなんて初めてだった。


……海を見るたび、思い出し続けるんだろうなぁ。



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