第8話 つゆきの母親
「つゆきさんってお母様と仲悪いんですよね?」
「悪いよ?」
「その割にはお母様のことについて詳しくありませんか?」
「……真面目に回答するなら、『知ってるからこそ嫌い』、かな?」
言葉の通り、私が私の親が嫌いな理由は、相手をよく知っているからで。
「んー……いるかさんは私の事で嫌悪感覚えたりとかない?」
「ないですね」
「いや即答しないでちょっとは考えてさぁ……」
「……」
眉間にシワ寄ってますが、いるかさん。
「あります?」
「性格悪いとことか、最初の問答とか」
「私は気にしてませんけど……」
「まぁいいや、聞いた私の負けやね」
すー、っと。息を吸い込んで、指を立てる。
「私が母親が嫌いな理由は」
いち、自分で言ったことを守らない。
にー、そのくせ自分が勝手に決めたことを人に押し付ける。
さん、親は神様なので何してもいい。
よん、自分の母親は嫌い。
ごー、自分の考えが矛盾しまくってるのがそもそも理解できない。
ろく、その時の気分が絶対。
なな、私もとい我が子には何言っても良い。
はち、自分の旦那の意向には直前の発言を捻じ曲げてでも同調する。
「……とまあ並べてけばあるんだけど、知ってるからこそ嫌いになってくんだよね」
積み重ねって偉大だよね。
普通に権利があるなら、無罪放免されるなら親を殺すことだって厭わないでしょう。
それは恨みではなく、抑止であり、歩く迷惑行為を止める手段である、と私は認識してる。
「でもお話よくされるんですよね?」
「する。私自身好き嫌いで完全シャットアウトはしない主義だからね」
「……つまり私と同じように?」
「いるかもそうだし知らない人でも同じこと喋ると思う」
少し黙り、ムスッとしたかと思えば、逆に表情が明るくなった。
何考えてたんだろうこの子。
……友達に独占欲?
「私の親も同じくシャットアウトはしない主義だから、こいつ嫌いと思いつつ普通に会話したりする。それを会話の内容に出さないとこは親に似たね」
憎いけど、利点があるものだから放棄はし辛い。けど嫌なものではある。
「だからこそお互いをよく知ってるしお互いの気に入らないことは多い。そのへんの親子より接点はあるよ」
接点と言うか、会話の総数というか。
「そこです、そこが気になっていたんです。どうやって接点を作るんですか?」
「あー……つまり親子のやりとりに困ってると?」
「そうです」
そう言われましても。
「んー……?」
私と私の親の会話パターンを思い返せば。
「んー……」
この番組や出来事が面白かったとか、そういう他愛ない会話は無く。
「多分ね、親を親と、子を子と思って接点持ってない。他人ではないけど限りなく他人に近い人?って感じかなぁ?だから言いたいこと言える感じで、一切気遣いなんてないね」
「そうですか……」
機嫌を損ねるとマグカップが飛んで来ることもありますし。
罪のない赤子の弟に八つ当たりすることもありますし。
まあその程度の人間というわけで……。
「いるかさんには難しいと思う」
そう言われてしゅん、となるいるかさん。
解決の糸口にはなれなくて申し訳ない。
「というか、これは私が異常なだけだ、まあ兄弟とか親戚とかみたいなもんだしうちの親子関係。むしろ私に親子というものを教えて欲しいかな」
まあ、画期的にアイデアがあったとしても、向こうが変わらない限り。
「結論が出てもつゆきさんは無理ですよねそれ」
「無理だね。だって親が私を子だと思ってないんだもん」
いるかさんとの絶対的な差である。
「そら、親でも分からないことはある。でも私の母親は親の絶対的権利を誇示してる。でもできないことがあれば親が全てわかるわけじゃない、と」
その時の気分が絶対なので。
「……もうちょっと歩み寄ってくれてもいいんだけどなぁ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます