運動会 その捌 騎馬戦
俺たちのところに帰ってくると、柚葉がニマニマと笑っていた。
「お兄ちゃ~ん、なかなかがんばってたじゃな~い?」
さっそく俺をからかってくる柚葉に、俺はうっと言葉をつまらせた。
あいつ、年も身長も下のくせに。上から目線してやがる。
「下のくせにな~に言ってんだ柚葉」
「むっ。お兄ちゃん!」
俺の反応が気に入らなかったようで、柚葉は小さな手でぽかぽかとなぐってきた。
「痛いな!」
「ふん!お兄ちゃんが悪い!」
「それでは次、騎馬戦です。選手は入場門に来てください」
ナイスタイミングアナウンス!
「柚葉、俺、騎馬戦に出るからさ」
「ん~!………
「ん?」
なんか最後のほうになにか言った気がするが……気のせいだよな?
「じゃあ、行ってくるから!」
俺は柚葉を振り切って入場門に行った。
少し振り向いてみると、柚葉はにやりと笑っていた。
「お待たせ!」
「遅いよ神宮くん!」
ぶー!と口をとがらせる如月さんはかわいかった。
騎馬戦は、3人がしたで一人を支えて、その一人が地面に落ちたり帽子を取られたりするとそのチームは失格。
それで今回は俺、翔、如月さん、枝豆さんの四人で組んだのだ。
「それでは、準備ができたチームは位置に移動してください」
よし、入るか。
俺たちはまず位置に入場して、三人に支えてもらった。
柚葉が寂しがってたらかわいいよな、と思いながら柚葉がいたほうを見てみれば、柚葉がいなくなっている。
(あれ……?なんで?)
「それでは騎馬戦を始めます。よーい、スタート」
始まったら、まず赤組の三チームと一チーム、白組の二チーム、三チームが位置を離れ、他のチームを襲いにいった。
赤組も白組も五チームまである。ちなみに俺たちは赤組の五チームだ。
今の俺たちの状況は、というと……
「おお。結構争ってくれてるね」
枝豆さんは本当に意外そうに驚いている。
「お~っ!突撃だ~!いけいけ~!」
いきなり俺たちのチームに突っ込んできたのは……柚葉たち!?
てか柚葉騎馬戦の選手だったのかよ⁉白組だったことは知ってたけど!
「もうこれ戦うしかなくない⁉ほら神宮くん、柚葉ちゃんの帽子とって!」
「ええぇぇ!」
柚葉が「えいやーっ!」と俺の帽子に手を伸ばしてきた。
「うおっ⁉」
とっさに体をのけぞらせてよけたけど、「お兄ちゃん、覚悟ーっ!」と柚葉はどんどん手を伸ばしてくる。よけまくっている俺。
そこで俺は、ふと気が付く。
これって、柚葉ちっちゃくね?これ俺のほうが有利じゃね??
そのことに気が付いてしまった俺は、にやりと柚葉のほうを見て笑った。
「ひ⁉お兄ちゃん、どうしちゃったの?」
おびえている柚葉に対して、俺は容赦なく柚葉の帽子に手をのばす。
「えちょ!」
柚葉は自分の帽子を押さえた。
「あっれー柚葉さーん?」
「お兄ちゃんのバカー!」
柚葉は必死に押さえているが、力も男女差、年の差ってものがあるからだろう。
やがて、柚葉の帽子は俺がとった。
「どうだ、柚葉!」
「バカバカバカバカバカバカバカバカ」
「えーっと、柚葉サン?」
どやーっと柚葉を見下ろしてやると、柚葉は放心状態で頭を抱え、無限にバカとつぶやいていた。さすがにこれは怖い。
「またもや騎馬戦の優勝は、赤組です」
「え?」
どうやら俺と柚葉の争い中に、他のチームは全滅していたらしい。
てか、俺たち、ここから一歩も動いてないんですけど?
「やったね神宮くん!」
如月さんがにこにこしているから、これでいっか。
枝豆さんと翔も、「イェーイ!」とハイタッチをしているから。
「じゃあ、撤収!」
「ちょっと神宮くん⁉」
呼び止めている如月さんを無視して、俺は柚葉からダッシュで距離をとった。
柚葉こわこわ。
それで俺は、この騎馬戦が俺の人生の黒歴史のうちの一つになるということを知らなかった。
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