運動会 その弐 リレー

「次はリレーを行います。選手のみなさんは入場門に集まってください」


リレー。俺は参加しないが、盛り上がりそうな競技だ。


すると如月さんがぴょんぴょん飛び跳ね始める。


「神宮くんっ、私っ、リレーの代表っ、なんだっ!」


なるほど。そういうことか。


「そうなんだ。がんばってね!優勝したいし」


如月さんの顔がぱあっと輝いていく。


「がんばってくるよ!じゃあね!」


如月さんは手を振りながら入場門に走った。


まあ、そりゃあ頑張ってほしいし、勝ってほしいけど、リレーの選手は速い人ばかりだから負けてしまうだろう。


「それでは、リレーをはじめます。いちについて」


アナウンスとともに、先生が手を挙げ、選手が用意する。


「よーい、どん!」


パン!


うるさいピストルの音がなり、選手がかけだす。


赤組のスタートダッシュは翔。


ぐんぐん駆け抜けて、差をつける。


「いいぞ!翔!」


そのまま次の人にバトンを渡した。


までは、よかったのだが………


そのあと、抜かされたり、転んだり、バトンをおとしたりと赤組は散々だった。


そして最後のアンカー、如月さんまでまわってきたときには、半周くらいの差がついていた。


「はあ~、ほんとサイアクなんだけど」


如月さんがブーブー文句を言いながら走り出す。


ヒュンッ。


「!?」


風のようなはやさだった。


如月さんは白組アンカーと差を縮めていく。


如月さん、いくらなんでも速くないか!?


白組アンカーは陸上部男子。足は速いほうのはずなんだが、縮んでいく。


縮んでい……かない……?


急に如月さんと白組アンカーの差がつかなくなった。


ずっと同じ距離をあけて走っている。


如月さんだって女の子だ。疲れただろう。


「う、そでしょ……」


如月さんは、はあはあ息をしながら走っていた。


その顔はとても辛そうだ。


如月さん、いままでは全然そんなことなかったのに……


「っ!」


もしかして、俺と約束、というか、いったから?


だから、無理をしてまでこんなに……


「がんばれ」


ファンが怖いからか、絞り出すような声の小ささだ。


こんなんじゃ、届かない。届くわけがない。


「がんばれ!如月さ~んっ!」


俺は叫んだ。


とびきり大きな声で。


如月さんが、ふいにこちらを向いた。


がんばって!と口を動かした。


如月さんは力強くうなずくと、走るペースをあげた。


風のような速さにもどった。


いよいよ、最後の直線だ。


「花音がんばれーっ!」

「如月さんっ」

「がんばれー!」


枝豆さんも、柚葉も、俺も、応援した。


ファンのみなさんもだ。


そして、ついに如月さんは白組アンカーとならんだ、と思うところで………


「ゴールですっ!」


アナウンスが言った。


「これ、どっちだ……?」


どうやら今話し合い中らしい。


たのむ、如月さんであってくれ……!


「結果がでました!リレーの勝者は、赤組です!」


赤組!よし!


俺はガッツポーズをした。


「わあ~!勝ったよ勝ったよ神宮くん!」


興奮気味な如月さんがもどってきた。


「すごいよ!如月さん!さすがっ!てか、あんなに足速かったんだね!」

「ありがとお……」


照れてる如月さんもかわいいな。


「花音すっご~い!」

「ありがと、湖羽!」


如月さんと枝豆さんがハグした。


ファンたちからはよろこびの声があがっている。


「ナイスだよ、如月さん!」

「…ありがと……」


向こう側をむいている如月さんに、グッと親指を立てた。


如月さんの耳が、赤くそまった。


俺は、ふ、と笑いがこぼれた。

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