修学旅行 天橋立(ビューランド)編

ごっとん、とバスが止まる。


あのバイキングの次の日の今日、天橋立についたのだ。


生徒が続々と降りていき、人が少なくなったころに俺も降りた。


「はい! ここは天橋立ビューランドです! 十二時には天橋立周辺のところでお昼ご飯を食べるので、十二時にはここに戻ってきてくださいね! 十二時に戻ってこなかったら……置いてけぼりにされちゃうかもですよ~! では、自由行動!」


先生が手をたたき、これが解散の合図。


班が観光を始めるなか、俺たちもなんとか集まった。


他の奴らはえー!


「さて、私たちはどうしよっか?」

「そ、そそそうだねー」

「ん? 神宮くん、大丈夫?」


大丈夫……じゃないよぉぉぉぉぉ‼


なんか今日、久しぶりにファンヤバくね?


めっちゃみられてるよこれ?めっっちゃストーカーされてるよ如月さん??


ダッシュで逃げ出したい気持ちをグッとこらえ、俺は早口で提案する。


「えーと、俺はやっぱり股のぞきに行きたいな~」

「おっけー! いこっか!」


如月さんは笑顔でオーケーしてくれたため、翔も枝豆さんも異論はないらしく、飛龍観回廊をまず観光することになった。



股のぞきは、股のぞき台の上にのって股の間から天橋立をのぞく、というものだ。


天橋立といったら股のぞき!と思うほど股のぞきは有名。


「これかな? でも並ばなきゃいけないね……」


如月さんは少しひきつった笑みを浮かべている。


この学年だけといっても、かなり並んでいるな、これ。


俺たちは二人ずつ、俺&如月さんチーム、翔&枝豆さんチームに分かれて列に並ぶ。


すると。


「あ! 如月さん、先どうぞ!」

「僕も先いいよ!」


と、どんどん列が道をあけていき……


ついには、股のぞき台にまで道を開けてもらっていた。


「ええ! 悪いよ! 大丈夫!」

「いやいや、どうぞ!」

「え、ちょっと⁉ 神宮く~ん!」

「わわわっ⁉」


珍しくほかの人にも温かい反応をした如月さんにいつも以上に興奮したファンたちが、如月さんを押して道を通していく。


で、焦った如月さんが、俺を道連れにして引っ張り、股のぞき台にまでたどり着いた。


「みんな、ありがとう! 神宮くん、股のぞき台ののぞき方って知ってる?」

「え、そんなのあるの?」


これって、股ののぞき方があるのか?俺まったく知らないぞ?


少し焦り始めてる俺を見てニヤニヤした如月さんは、拳で胸を軽くたたいた。


「まかせて! 私、覚えてきたから!」

「そうなの⁉ ちょっと教えてくれない?」

「まかせて! まず、天橋立の方向にせを向けて立ちます」


如月さんが天橋立の方向に背を向けて立ったので、俺も同じように立つ。


「次は、こうやって腰を曲げて、股の間から天橋立をのぞく!」


腰を曲げて股から天橋立を見ると、なんか変な感じがする。


空も海も青いから、わけわからん。


「こうすると、海が空に見えるでしょ?」

「ホントだ! 見える見える!」


少しだけ見える建物がなくなったら完全にそう見えるかもしれない。


んんん?


視線を感じてふと視線を天橋立からもとの景色に戻すと、仁王立ちした男子と女子が俺をにらんでいた。


「ひっ」


小さく悲鳴をこぼした俺は、すぐに視線を天橋立に戻す。


一瞬さっきからこちらの様子をうかがいながら、俺たちと同じ態勢をしていた枝豆さんと翔が見え、クスクスと笑ってしまう。


「あのね、こうやって見た天橋立は空に行く龍みたいに見えるでしょ? だから『飛龍観ひりゅうかん』って呼ばれてるんだよ」

「へえ~!」


本当にタメになる情報を知ってるな、如月さんは。本当にすごい。


「ふう~」

「ちょっとこの態勢キツかったね」


俺と如月さんは普通に立って、股のぞき台を降りて会話を交わした。


「あ、湖羽~!」

「花音もちょうど終わった感じ?」


列から離れたろきに、俺と如月さんと同じようにしている二人を発見した如月さんは、枝豆さんと仲良くハイタッチする。


まわりを通りかかった生徒からは「尊い」や「てぇてぇ」というささやきが聞こえてくる。


「じゃあ、お土産ショップ行く?」

「そうだな! 天橋立も観光できたことだし!」

「そうと決まれば~、お土産ショップへレッツゴー!」

「「「お~!」」」


俺、翔、如月さん、枝豆さんはジャンプしながら拳をつきあげ、お土産ショップ向かって歩き出した。

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