運動会 その肆 二人三脚

「次に二人三脚があります。入場門に選手のみなさんはあつまってください」


そう声がかかったとたん、如月さんが困ったような顔をして、先生のところに行った。


どうしたんだ?


「お~い、だれか如月と二人三脚に出てくれないか?」


まじか。如月さんのペアが休みなのか。


如月さんファンが次々と立候補していくなか、如月さんの視線はまっすぐに俺をとらえていた。


これは、まずいかもしれない。


俺はそおっと輪をはずれようとしたとき。


「山田先生、私神宮くんとです」


如月さんが俺を指さしながら指名した。


「わかりました。神宮くん、ルールはわかるよね?」


俺は無言でうなずく。


「それじゃ、いこいこ♪」


ぐいぐいひっぱられる俺。


如月さんファンの視線は、運動会で親が来ているだけあって、ものすごく痛かった。



「こんな感じかな?」


如月さんが俺と如月さんの足をむすぶ綱を、ぎゅうっとひっぱった。


「そんな感じでいいと思うよ?」

「そお?なんか緩くない、これ」


さらにひっぱる如月さん。


さすがにこれ以上やられると足が密着してしまいそうなので、俺は慌ててストップをかけた。


「如月さん、本当にこれでいいよ!!」

「うーん、わかった」


如月さんは少しだけ不満そうな顔をしながらも、しぶしぶうなずいてくれた。


「準備はできたでしょうか?スタートラインに並んでください」


俺と如月さんは、二人三脚は初めてだから、ぶっつけ本番だ。


「じゃあ、いくよ!いっちに、いっちに」


如月さんの掛け声にあわせて、足を前にだす。


そして、スタートラインについた。


「それでは!よーい、どん!」


いきなりはじまる二人三脚。


俺たちは如月さんの掛け声にあわせて進むが、他の選手に比べればやはり遅かった。


「如月さん、ペースもうちょっと早くできる?」

「え?いいよ?いっちにいっちにいっちにいっちに」


うぉおおおお!?!?


如月さんのペース速すぎだってこれ!


止まらない如月さん。


「ちょっと止まってええ!」

「えっと……あれ?止まらなくなっちゃった!!」

「えええぇぇぇ!」


勢いよくペースが上がり続ける足。


勢いがつきすぎて、俺たちでコントロールできなくなっちゃってるし!


他の選手はどんどん抜いているが………どうなんだこの状況?


そのままゴールする。


「一位はまたもや赤組!です」


アナウンスが勝利を告げるも、ゴールしても足は止まらない。


「ちょちょちょっと如月さん??」

「わあぁぁぁ!」


コツンッ。


音がした。そして横にいる如月さんの体が、前に倒れていく。


「如月さんっ!」


俺は如月さんの足といっしょに倒れそうになった足をなんとかふんばり、如月さんを抱きとめた。


「だい、じょうぶ?」


俺が顔を覗き込むと、如月さんはフリーズして顔が赤くなっていった。


「ううううん大丈夫だよ!!」


如月さんが言ったところで、俺はほっとして如月さんを立たせた。


「じゃあ、足のこれはずそっか」


俺はしゃがんで足のやつをはずし、立ち上がった。


すると、如月さんがぼそっとつぶやいた。


「もうちょっとつないでてもよかったのにな………」


はっきり聞こえた言葉に、俺は全身が熱くなる。


すっごくドキドキしてしまうから、聞こえなかったことにしておこう。

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