修学旅行 昼ご飯編2
「お待たせしました。ご注文の品をお届けに来ました」
「ありがとうございます!」
時間をつぶしていると、ようやくさっきと同じ店員さんが俺たちの席に注文したものを運んできた。こういうところでさっきと同じ店員さんが運んでくる確率は低いはずだから、如月さんと枝豆さんを見たくてゴリ押しでもしてきたんだろう。
店員さんがさると、如月さんはグルメリポーターのように見た目の感想を言う。
するとみんなノリがよく、如月さんにつられるように言う。
「私のアサリご飯はとってもおいしそう! アサリたちのオンパレードだ!」
「豆のイカ丼はイカが豪快にのっていますねえ。とってもおいしそうですねえ」
「カツ丼はトンカツが乗っててソースがかかっててたまごがあって……」
如月さんはいつもよりテンションが高いし、枝豆さんの喋り方が変な人になってる! 翔は下手だな⁉ 報告してるだけじゃねーか!
「ちょっとみんな無理してる? なんかいつもと喋り方がかわってない? 翔は長すぎ! ストップ!」
「「「え?」」」
「え? じゃないから! もっと自然なしゃべり方で食レポしてよ! 味編、3、2、1、スタート!」
俺のカウントダウンに、三人が慌ててそれぞれ食べる。
「私のアサリご飯、おいし~っ! アサリがおいしい! アサリのうまみがごはんにもしみわたってる!」
「わー、イカおいしい! えーと、とにかくおいしい!」
「カツ丼、当たり前だがうまい! 肉、たまご、ソースが絶妙のハーモニーをかなでていておいしい!」
はい、なんか明らかにおかしい人といい人とわかれてたな?
「はい、如月さん合格! 枝豆さん、翔、不合格!」
「やったー! 合格だ~っ! ありがとうございます、師匠!」
「湖羽ちゃんはともかく、なんで俺は不合格なんだよー?」
「ちょ、五十嵐くん失礼!」
「多分カツ丼はあまりハーモニーじゃつたわらない。もうちょっと力強い感じが欲しい。枝豆さんは、語彙力!」
枝豆さんはかわいらしくぷくーっと頬を膨らませた。
翔も少しムッとした表情。
二人は顔を見合わせたあと、俺につめよった。
「な、なんだ?」
玲が
「「そんなにいうなら、 やってみてよ!」」
神宮くんが
「えぇ?」
俺は顔をしかめる。
人にアドバイスなら、多分できる。自分の感覚にあうように言えばいいだけだから。
でも、自分でその文を考えられるかはちょっと不安だ。正直やりたくない。
「無理」
「無理じゃない! 神宮くんアドバイスするするくらいだったらできるでしょ?」
「如月さん……っ!」
俺は一筋の希望こと如月さんに助け舟を求める。が……
「神宮くんやってみなよ~! ししょ~う!」
「くっ……」
ダメだ。悪ノリしてる。ニヤニヤしてる‼
しょうがない。するしかない。
さっきまで如月さんと枝豆さんの食レポを聞いて心を和ませていた人たちは、興味がなくなったように自分のところに運ばれてきた食事を食べ始めた。
この状況残酷すぎん? 俺かわいそう。
あーかわいそうかわいそう俺ってかわいそう。
俺が心の中でぶつぶつぼやいていると、如月さんが背中をたたいてきた。
「神宮くん、ほら早く!」
「あ、う、うん」
もう、どうにでもなっちゃえ!
ぱく、っと。まだ一口も食べていなかったアサリご飯を、口に入れた。
本当は食レポなんてプレッシャーを受けないでこんなにおいしそうなアサリご飯を普通に食べたかったんだけどな。
「うん、おいしい。身がふっくらとしていて厚いな! うまみがすごい。このアサリうまみたっぷりの出汁をだしていて、ごはんまでおいしくなってる! うますぎ!」
じゅるり、と。三人が唾をのむ音が聞こえた気がした。
その後、三人が拍手喝采!
「おおーっ! やるね神宮くん! 豆よりうまいなんて……」
「やるな玲!」
「さっすが師匠だよ! おいしそうで食べたくなっちゃう~。よし、食べよ! おいし~!」
「あ、ありがとう」
正直こんな褒められると思ってなかったからうれしい。というか、本当に食レポって恥ずかしすぎる! 流れでしょうがなかったけど!
如月さんはどんどんアサリご飯をほおばり、ひたすらおいしがっている。
枝豆さんは俺のアサリご飯を見てジュルリとまた唾をのんだ。
「あの、神宮くん。一口わけてくれない⁉ 本当に神宮くんうますぎるから! もう豆おいしそうすぎて我慢できないってぇ~!」
子供っぽくなる枝豆さん。俺はクスリと笑みをこぼす。
「ふふ。いいよ。はい」
俺は枝豆さんのどんぶりにアサリご飯をスプーン三杯分わけてあげた。
枝豆さんはそのアサリご飯をあっという間に平らげる。
「本当だー! おいし! アサリご飯ってこんなにおいしいものだっけ⁉」
「湖羽ちゃんマジ? 玲もらうぜー」
「ああーっ!」
俺のアサリご飯が減っていくー!
枝豆さんのコメントが食欲へのトドメとなり、翔も俺のアサリご飯からスプーン山盛り一杯ぶんとり、食べられた。
「うまーっ! おいしい!」
「それはよかった……」
うう、俺のアサリご飯。翔よくもとったな~。
「五十嵐くん、カツ丼わけて!」
「おう! じゃあ俺にもイカくれるか?」
「いいよー」
翔と枝豆さんが約束通り交換をする。
それにしてもカツ丼もイカ丼もおいしそうすぎる。食欲が止まらん!
もう我慢できない!
「うまそ~。俺にもくれ~!」
「あ、じゃあ私も!」
「豆にもちょうだい!」
「俺にもくれよ!」
その後、俺たちはそれぞれ料理を交換した。
ちなみに、如月さんファンと枝豆さんファンも交換を求めていたが、枝豆さんは困った感じの笑顔で優しく、如月さんは笑顔で「無理」ときつく、断っていた。
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