第11話 友達増えたねっ

 目が覚めると、白くてもふもふの中にくるまれていた。

 神獣さんか。


「ありがと、神獣さん。暖めてくれてたのね」

「おきましたかお嬢。私の大きさでは小屋には入れぬ故、こうして暖めていた」

「お嬢って。私は雪、佐原雪よ。ユキ・サースパンダーという名もあるわ」

「そうか、雪殿か。ワシは縄張りの見回りをせねばならぬので一度ここを離れる。話したいことがあるので必ずもう一度会いたい、よろしいか?」


「よろしいわよ、いってらっしゃい」というと神獣さんは風のように走り出して消えていった。ああ、神獣さんの名前聞き忘れたなあ。普通に喋ってるのは呪いがなくなって声がまともに出せるようになったからだろうね。


 小屋に入り休息を取る。最後の一撃の時、花草水月に生命力まで食べさせたから生命力も結構落ちてる。視界がぼやけている。

 肉食わねば、肉。


「むっしゃむっしゃ。しかし花草水月はよくあのとき私を喰らい尽くさなかったねえ」

『目の前に悪魔がいる上にお前が送ってきたエネルギーがゲロマズ体力なんでそれどころじゃなかったよ。生命力はかなり旨かったがなあ』


「まあなんにせよ聖女の力は回復したし、ついでに神獣さんを助けたしで何より。そういえば翠乃沃土は最後の方、左のおっぱいに張り付いて最後の盾になろうとしてくれたよね、ありがとう。おっぱいの味はどうだった? 美味しかった? 母乳出た?」


 左手の腕輪が思い切り震える。あれ、翠乃沃土に少し色がつき始めたな。


「ウブだなあ。とろける味でしたっていっておけばいいのよっ!」


 さらに震える左手の腕輪。かわいい。じゅんすいにかわいい。


 このあとは体力回復に努めた。肉を食べて、休む。休息が一番生命力回復にはよい。

 滝行で生命力もガンガンにいじめていたので回復も並みに早いと思っていたのだが、滝行と悪魔の一撃で削られた際の種類が違うというかなんというか……回復には時間がかかった。

 三日くらい寝ていた。


 んで、神獣さんが来た。結構気配がする。

 小屋から出てみると神獣がいっぱいいた。小さいのから成長したものまで。


「いやーんかわいい神獣さんもいるー。これ神獣さんの家族?」

「そうだ。私が呪われている間は隠れていたのだ。一家でお礼を言うために呼び寄せた」


 しずしずと1匹の神獣ではない牝狼さんが前に出てきて。


わたくし妻のルパと申します。名前は夫につけて頂きました。このたびは本当になんとお礼を言ってよいか……」


 といって涙ぐむ。熱いパッションを感じる。


「私の訓練に付き合って頂いただけですよ、そんなそんな」

「本当に優しいな雪殿は。では我らから幸福を呼ぶ遠吠えを。みんな、せーの」


 あおぉぉぉぉーーーーーーん

 あおぉぉぉぉーーーーーーん

 あおぉぉぉぉーーーーーーん

 あおぉぉぉぉーーーーーーん


「わあ、鼓膜が吹き飛びそうな遠吠えをありがとう。幸せになりそうだわ」

「よろしければ代替わりの儀式を見届けてはくれまいか。雪殿のような聖女に見守られるなら格式高いことこの上ない」

「うん、わかった」


 儀式をじっと見つめる。

 まずは神獣さんが次男の頭をがぶっと咬み、そして次男が神獣さんの頭をがぶっとかむ。その後じゃれ合うような形の喧嘩が始まり神獣が組み伏せられる。

 これで終わりのようだ。神獣の地位をかけてあらそい、勝ち取ったということなのだろう。


「もと神獣さん、これで終わりだね。私は雪解けするまでここにとどまるからさ、また動物持ってきてよ・雪解け後は北に抜けるつもりなんだ」

「そのことについてなんだが……その、えっと」


 もじもじしている、めっちゃもじもじしている。お前みたいな化け物狼がもじもじしたらきもいわ!


「その、なんだ、雪殿の旅に連れて行ってはくれまいか?元神獣がそばにいるだけでステータスになるし、ワシの背中に乗って移動すればかなり早く移動できる。街中だってほら、これに変身すれば大丈夫だ」


 ボワンと煙が出るとそこにもと神獣さんはいなく、大きなゴールデンレトリバーがいた。これは間違いない、ゴールデンレトリバーだ。絶対に間違いがない。なんで地球の犬が。いやそんなことはいい、おっきいもふもふさんだ、わんわんおだ。連れて行かない理由なんてあるのか? いや、ない。


「わかった、ゴールデンレトリバーともしゃもしゃするのは最高だし、いっている利点は大変納得できるから、連れて行くよ。動くのは雪解け後からね、よろしくね、もと神獣さん」

「そうか! 連れて行ってくれるか! ああ、これから人生をかけてお供し、恩返しをしていくぞ! では、移動する前に名前をつけて欲しい。名前はそのものを縛るものだ。だから神獣にはつけない。故に我らには名前がない。なにか一つ私に名前をつけて欲しい」

「わかった、考えておく。……でさ、そのゴールデンレトリバーの姿だと嫁さんといちゃラブできるんじゃないの? 満足するまでやっておきなよ、雪解けはまだ先でしょう?」


 もと神獣さんは顔を真っ赤にすると(そのようにみえたんだってば!)そそくさと妻の元へ駆け寄った。思春期の女に諭されるってどうなんだろうって思いつつも、まあ私生前35歳だったしな。


 さて、名前付けだけど、名前はなくとも種族名はあるだろう、もと神獣さんにきいてみよう。

 聞いたところ、「しーくれっとすのーほわいと」と返ってきた。うーむ。

 まず日本語で返ってきていないということはよい日本語訳がなかったということだ。日本語に出来ない種族名だったということか。

 なのでアンニュイな表し方が出来るカナ英語で翻訳されて私の耳にはいったわけだ。「シークレットスノーホワイト」だもんな。隠れた雪の狼ぃ? 間違ってはないが……。


 彼らはこの森の頂天に君臨し、森のバランスをずーっと調整し続けてきているのである。

 木が多すぎたら折り倒し、草が多かったら土を荒らして枯らせ、動物が多かったら食べる。

 もと神獣さんが言うにはそれが仕事らしい。

 まるで里山の管理人だな。

 いや……森の守護者か。ぱっと見には見えないから、影なる森の守護者。

 ん? うん、これはよい解釈が出来そうだ。明日にでも伝えよう。

 それまではもらったこの動物を処理してチビ達と食べ合おうねー。るんるん気分だるんるんるん。


 翌日。


「じゃあ、名前を与えるわね、準備はいい?」

「よろしくお願いする」


「じゃあ言います。あなたの名前は『朝陽あさひ』よ。今まで影の中から森を守護していたわね、今こそ影を出て太陽の光を浴び、私の守護者へとなるときが来たのよ。朝陽、私とともに来て」


「あおぉぉぉぉぉん!!」


 朝陽が遠吠えをする。それに吊られて彼の家族が、森の中の獣が、みな声を弾ませる。

 雲から日が差し込んでくる。しおれていた草木が日を浴びてしゃっきりする。

 世界が、朝陽という存在を祝福している。


 朝陽に名がついたときから、朝陽の白いもふもふな毛に虹色の艶がついた。虹は希望の象徴? だっけ? まあそんなところよね。名前がついて、より強くなったのではないかしら。


「朝陽、名がついた気分はどう?」

「身が震える思いでございます。雪殿に出会えて本当によかった……!」


 そしてかれはゴールデンレトリバーに変身すると私を押し倒しべろんべろんに顔をなめ回すのであった。おい、奥さんが見てるぞ。

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