第6話 いけいけギャル
ぶっ倒れて意識がうっすらと戻った後、頭の中、いや体全身で何かがうごめいていた。不快だ、くるしい。
今私はどういう状況なのだろう。体は動かせないし意識がどのレベルにあるのかもわからない。このように、考えられているということは悪い中での良い状況ではあるか。
しかし、うごめくなにかがありそれが不快というのはストレスで心を猛烈にむしばんでいく。社畜魂があったとしても耐えられるものではない。くるしい。
うごめく何かが渦巻いていく。心、いやそれ以上の存在に収束していく。なににだ? 何に収束していく? 私の体なのに、おそらく私の精神世界なのに、何が起こってるのか理解できない。そもそも、心の上位存在となんとなく認識しているこれは何だ? 私そのもの?
魂?
よくよく上位存在に意識を持っていく。
私だ、これは私だ。
おかしい、私は今ここにあるのに私はそこにもある。作為を感じる。誰がどうしてこんなことを?
そう思っていると収束していたうごめく何かが一つになっていくのがわかる。まだ私には入っていなかった。
一つになった何かはまばゆく光っているように感じられた、ものすごく、強く。
私の魂――もうそう呼んで差し支えないだろう――とソレが融合していく。どうなるんだ、これ。この思考している心の私は? 融合して大丈夫なのか?
いろいろと考えていると一気に魂に引き寄せられ――。
「本当に大丈夫なのですか?」
「しっかりおよし。私が全部の職業を均一になるよう引き上げ、それをこの筋肉だるま、あー、融合の神がジョブをまとめたんだ、ひっどい名前だけど」
「ハッハッハ! この! 筋肉で! しっかりと合体させましたぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「うるさい! とりあえず、人の魂では魂が壊れちまう4職兼務を解消して一つにしたんだ、あとは一つになるまでに人ととして壊れてないかどうかだよ」
お姉様と、転職の神様と、融合の神様? が話をしている。
大丈夫、意識は復帰した。あと少しでしゃべれる。大丈夫。
「まあ死んではいないよ。その抱きしめている犬、まだ全く腐っていないだろ。無意識下でまだ腐らせたくないという思いが聖女の力で保存させているんだよ」
「はい、そうですよね」
「怪力の兵士でも引き剥がせなかったんだ、勇者の力でがっちりとホールドしているんだよ。それがこの筋肉だるまが職をまとめても継続している。あとはいつ起きるかってところさ」
「はい……」
犬……朝陽かな。埋葬しないとね。4職兼務……朝陽がくれたエネルギーは職業だったのかな。ちゃんと使ってあげないと。まずは、動くところから。みんなに生きてると思わせないと。
「いき、て。ま」
「ユキ!」
ニーナお姉様が駆け寄ってくる。今のところ聴覚ははっきりしている。
「大丈夫なの!? ねえ、しっかりして!」
「今、たまっしい、と、しょくが」
全然しゃべれない。まだ魂と職業が安定していないのかな。
すぐ分析できるあたり、少しは職業が動いていると思う。
「しょくが、ゆう、ごう、してな」
「さっきの話は嘘だったの、神様!?」
「落ち着きな! 魂となじんだとはいってないよ」
「筋肉で無理矢理魂に押し込めると! ここまで強い職だと魂が崩壊しますからな! 融合させてセットしただけマッスルウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!!!」
「だからいちいちうるさいんだよ! そんなわけで少しの間病人として扱ってあげな。ちなみに職の名前は、この筋肉だるまが考えるんだが、その」
歯切れが悪いな。聖なる賢者の勇者とか中二病チックなんだろうか。
「ふはは、最高の考えましたぞ、その名も」
「いけいけギャルです、ッフゥーー!!」
は? 職なのか、それ。
「すまないね、職業名を決める権限は転職の神じゃなくて融合の神にあるんだ」
「最高の名前ですなあ! もう彼女はいけてる女子としか形容できませぬ! そこにギャルを加えていけいけギャル! すんばらしぃ!!!!」
「あの、もう変えられないのですか? 安直ですが超越者とか」
私も思う。
「4職を融合した時点で名前を決めるので無理ですなぁ!! ハッハー!」
職業いけいけギャル、佐原雪の誕生であった。いけいけギャルて。
療養だが、朝陽を片時も離さないという点以外は生活は順調だった。
魂と職業の融合、こればかりは私の超成長率とかも関係ないので穏やかなものであったけれど。
朝陽の腐敗は全然問題ない。でも早く雪山に返してあげないとね。埋葬するならあそこしかない。
早くくっつかないかな。
はやる気持ちとは裏腹にのんびりと融合は進んでいった。
建国祭ってのがこの国にはあり、お祭り騒ぎになる。
その夜、私は城の頂上に立つ。うまく出来るかな
「〈エネルギー弾・5連射〉」
ドドドドドッ
うまい具合に拡散してエネルギー弾が伸びてゆき……。
バババババーン
綺麗な花火となる。うん、悪くない。
ドドドドドッ
バババババーン
何度かエネルギー弾を発射したあと。
「〈ドッカン砲〉」
ヒューーーーーーン
ドッッカーン、バラバラバラヒューンドドドド
そう、ジャパニーズ尺玉である。試し打ちなので一尺にしておいた。自分で出してなんだが、凄いなこれ。
さてここで〈耳を澄ます〉をする。へへへ、愛の営みが聞こえてくるぜ。私はもう聖女ではない。こういうことをしても怒られない。
耳を澄ますに気配を探るなど、レンジャー系統のスキルを朝陽から受け継いだ。
これによって自分だけでほとんどのことが出来るようになった。
役割分担なんてのはゲームのお話で、現実は何でも出来た方が良い。何でも出来てからだ、専門性を獲得するのは。
私は聖女による状態異常耐と範囲効果、賢者による魔法や自己バフそして魔法的フィールド魔法、
「融合もいい感じだし、そろそろいこっかな」
翌日。
「というわけで、この子を埋葬しに行きます」
「いっちゃうのね、また戻ってきてよね。これを使いなさい。無限収納のマジックリングよ。凄い小さい容量だけど死体なら入るし、状態保持もしてくれるわ」
といって青い指輪をくれた。これ自体綺麗なのに、魔法の品なのか。すごい。
指輪に「マジックリング収納」といえば物体が入るし、「収納物体排出」といえば出てくるんだって。忘れないようにメモっておこう。
マジックリングに朝陽を収納して、すっかり元気になったソンダラ皇太子と少々お話。この国に仕えてほしいそうだ。しかし私はただのいけいけギャル、どうだろうねえ。断る手段として、いけいけギャル使えるな……。
あとはお世話になった人と。とりあえずアカネと話すようにみせかけて1発やり、抗議してきたところでもう2発。ぐっすり眠っているところで「私がいなくなってもあなたは大丈夫、やっていけるわ。今度あったら大人のキスをしましょう」と書き綴って手紙を置いておいた。ちなみに大人のキスをするつもりはないんだわ。加地くん加地くん。
巫女神殿の神殿長や、魔法研究所の所長などともお話をして、とりあえずいくかー。
インタスタラ帝国に。なめたことした落とし前はつけさせてもらう。
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