第5話 迷宮から脱出せよ! 全裸で。
ハッハッハッハ。
ハァ、ハァ、ハァ、ハァ。
ハァ……くそ、こんなことになるとは。
私は今、特殊部隊に追われている。
犬もけしかけられた。数頭首を飛ばしてやったらいったん下がった、と見せかけて馬を用意して、私の走りより早く行動し、追い詰めてくる。
問答無用で斬り殺せばよいのだろうが、ここで日本人の気質が出てしまう。人を殺したことが無いのだ。山賊や海賊、盗賊なんかと出会わなかったので殺す機会が無かった。
躊躇して剣が抜けない。
私が放つ〈ウェブ〉はするりと抜けてくる。見てから避ける余裕があるようだ。
技量が高い。
私の技量が低いだけか。
だから必死で走っている。
馬とて永遠に走り続けるのは不可能、私の持久力なら――。
ベチャッ
なんかかけた!?、うあ、体が急に力を失って……何らかの毒か……私は全自動で毒を排除しようとしちゃうから、そっちに魔力が持って行かれる。なくなれば体力(生命力のことでは無い)が……。
くそ……
うごけない……
目が……開かない……。
――――
「……です。あと5日は寝ているかと」
「そうか、ご苦労。下がっていぞ」
すまん、ちょっと前に目を覚ましている。
私の超回復能力をなめるな。
回復と超回復が同時並行でおこなわれるので時間が経過するごとに回復量が跳ね上がるのだ。
さて私の状況だが……。全裸だ。猿ぐつわを加えさせられ、後ろ手に縛られている。こうなると自力で立つのは難しいし、スキルで猿ぐつわや縛っている縄を切ったりすることは難しい。
コツコツコツと、嫌な音が聞こえてくる。2年間聞いていなかったあの気持ち悪いブタ野郎の音が。
「がちゃり、と。おーうこれはこれは、こんな状態で寝ているのかハニー。会いたかったぞハニー。今はどんな顔をしているんだい?おう、これは、おほっ。危ない危ない、興奮しすぎるところだった。もう大きくなっている所々の体といい、食べ頃だねハニー。目が覚めたら気絶するまでお盛んしようねハニー」
き、気持ち悪いを越えて汚物。ぴえん越えてぱおん。
寝ているふりをしていた私に気がつかないまま汚物は去って行った。
王、まだ私にご関心があるのか。
逃げないとな。私の服装とかはどこにあるんだろ?
この部屋は大きなベッドと白いテーブル、花瓶くらいしか無い。
別に保管されているのか。冒険者カードもそこかなあ。あれだけは取り返したい。お金はいってるし、佐原雪をおいていってしまう。自分を、おいていってしまう。
まずは拘束を解かないと。猿ぐつわさえ無くなれば魔法が使える。無詠唱勉強しておけばよかったなあ。
ガミガミガミ、木の棒はかみ砕けそうに無い。
体を捻って後頭部からはずそうと試みるも失敗。後頭部の紐もがっしり縛ってあったわ。私の異常な体の柔らかさを知っていたのかな?
聖女の力は念じるだけなんだけど、攻撃的なものが一切無い。
参ったな、なにか出来ないか? なんか、なんか、なんかどうにかなって!!
シュパー!
木の棒がポロリ
破れかぶれになってどうにかなれー! といったら本当にどうにかなった……。あの緑色の光は、何?初めて見る力だわ。あれが原始の魔力? どうやって出したんだろう?
あまり考えていてもしょうが無い。後ろ手で組まれている拘束具は〈解錠〉を掛けて鍵を外し、〈サイコキネシス〉であっさりとほどいた。
いやー、賢者職に頼り切ってるんだなあ。魔法って便利だもんねえ。勇者のスキルも鍛錬しないと。
13歳までは賢者の修行していてある程度賢者のスキル知ってるけど、勇者のスキルほとんど知らないんだよなあ。パッシブは自然と動作するからわかるんだけど。
んじゃ、まずは外に出よう。
外に出るドアには魔法的な鍵がかかっていたので少し思案。アラームの罠があると思うなあ。
物理的な罠なら解除すればいいんだけど、魔法的なものを解除できるものかね。
原始の魔力を使えるなら使って、隣にくぐれる穴をくりぬいちゃった方がよいような。
原始の魔力が動くかはわからないけど、やるだけやってみよう。
「私に眠る原始の力よ、この壁を型抜け! 型抜け! かたぬけぇ!」
ビュイン!
「お、動いた! ……大分魔素を使うね、原始の魔力。結構息切れしてきた。穴はどうなってるかな? ……よし、私が通り抜けられそうな穴と、それを埋めるための木材が出来てる! 型抜いているから通ったあとは型に木材を戻せば早々わかるものでは無い。少しは時間稼げるだろう!!」
長々と説明して、自分に「これだけのことをやったんだから出来る!」と思わせながら壁をくぐり抜け、館の中の捜索を開始する。
「問題は探感知、だな」
問題ないとは思うが、探感知は探知と感知を同時におこなうスキルで、探知、つまりこちら側から探す方で一瞬魔力を放出する。それがなにかの監視装置に引っかかるとか、あり得るんだよな。感知は受動的だからこっちに来たなにかを感じ取るわけだけど。
「探知は魔法使いのスキルで持ってるけどだけど、感知はローグのスキルらしいんだよねえ……持ってないし、取れない」
勇者は戦士系と盾職。
賢者はアタック、サポート、ヒーラー。
聖女はクラウドコントロール、マインド。
MMOゲームで分類したけど、概ねこんな感じでスキルやステータスは育ってる(はず)。
唯一無いのがローグ斥候系統。使い勝手のよい物理的補助スキルが抜け落ちてる。鷹の目、忍び足、聞き耳に鍵開け……。弓も使えないわ。
「魔法で対処できると言われたらそうだと思うんだけど、魔法で代用できないときもあるんだよねぇ。この十字路に兵士はなし、と」
原始の魔法を源にすれば魔法とは思われないかもしれないけど、あれで魔力の代用を出来るようにするには相当長い訓練期間が必要になるような予感がする。
十字路を南に進むと兵士がいた。どうしよう。魔法を制限している中、素っ裸で戦っても勝てるわけ無い。
自己バフを掛けて後ろに張り付いて、剣を摺取ってアサシンキル。経験が無いことをこういうときにやっても大体失敗するし、自分に対してでも魔法を掛けるには嫌な予感がする。
原始の魔力なら木の棒を切り裂いてるし型抜きにも成功している。首を切るくらいなら簡単にできるだろう。ただ……なんの罪も無い見張りの兵士を私は殺せるか? うう、何年生きてもここは日本人過ぎる。
別ルートを行こう。十字路の南は兵士、北は寝ていたところ。東西がまだある。
正直素っ裸じゃ無ければ戦えるんだ。聖女のマインドコントロールでどうにでもなる。でも素っ裸だと聖女は発動を拒否するんだ。職業にも発動条件があるんだよ。とにかく服だ、着ていた服でもここにある服でも良い、服を探そう。
まずは東に行こうか。
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