第4話 ごるてーなとお母様と
ちゃんと管理されている河川と言うこともあり、無事に首都「パルチランカ」まで到着した。
北へ行くときは使えなかったからかなり時間がかかったけど、使うとこんなに早く着くんだね。
パルチランカの町並みは2年前と変わっておらず、人と物であふれかえっている。
道には舗装がされており人がいて、屋台がある。舗装の両脇に立つ商店も雨戸を直角に倒したような陳列棚に商品を並べ大声で人を呼んでいる。賑やかだな。
私も一つ屋台で「ごるてーな」を買おう。一つ10ロルで買えるようなサンドウィッチだけど、美味しかった記憶がある。
私は今12ユド34ロルもっているから買い占めも出来そうだ。結構ゴブリンで稼がせてもらったな。ちなみにお金は冒険者ギルドの証明証に入ってる。異世界に行ってびっくり電子マネー電子決済なのである(実際は魔導回路でなんたらかんたら)。あくー文明が残した遺産なんだとか。
「おねえさん、ごるてーな一つ」
「はいわかりましたー、お肉は何にしますか?」
「今日は何がありますか? 私久しぶりにここに来たんですが、逃げちゃったお姫様って今どうなっちゃったんです?」
ふらっと聞いてみよう、どうでるかな。
「鶏肉に豚肉、ノゴアがあります。あれは……2年前くらいでしたっけ、一度大騒ぎになりましたけどそれ以降は聞かないですねえ」
「あ、ノゴアで。魔物のお肉とか久しぶりだ!」
この世界は動物、植物、魔物という3物に分かれている。不思議だが受け入れるしかない。食べられる魔物もいるし?
チャリーンとお金を支払いごるてーなを受け取る。マスタードをたっぷりかけてもらいたいところだが地球ほど農作物があふれているわけではないので我慢我慢。
「いっただきまーす」
がぶりとかみつく。ノゴアのお肉はちょっと固いけど、ブタと牛を掛け合わせたような旨さがある。はじけるトマトにパプリカが味わいを色鮮やかにしてくれる。
こっちに来てから食材をどう処理しようか迷ったけど、味わいが似ている物は地球の名前で呼ぶことにしている。実際に出ている言葉は賢者の翻訳魔法で現地の言葉に変わっているが。賢者便利だなー。
軽い食事を取ったあと、街の見回りをする兵士に声をかけた。もちろん魅了を使って。
「こんにちは兵士さん、あの、お聞きしたいことがあるのですが」
「は、はい。なんでしょうか、黒髪のお姉さん。わかることなら何でもお答えしますよ」
「2年前に城から逃げ出した女性や、『ユキ』という人は捕まったりしたのですか?」
「ゆき……んん……そのような事例や名前でのお尋ね情報はないですね。念のため詰め所に確認して参ります!」
やば、魅了を強めにかけないと!
「よろしくお願いします、おにいさんっ」
「お待たせいたしました。確かに以前そのような者を探していたようですが、現在はそのようなことはしていないようです」
よかった、大丈夫そうだ。最高の笑顔で送り出そう。足がついては困るからね。
「ありがとうおにいさん! 私とのことは全て忘れてね」
手を振って見送ってくれた兵士を後ろ目に、次の場所へと向かう。
次は獣人族が多くいる酒場だ。ニーアお姉様の情報を持っているかもしれない。
そんな一個人のことなんて覚えている人はいないと思うが、何せ私が絡んでいる。一騒動を起こした人物の兄弟として記憶に残っていることも考えられる。
アメリカ西部劇に出てくる、あのドアになってるんだかわからない中央からバタンと割れるドアを開いてその酒場に入る。「ノアール」という酒場みたいだ。
「あらあらここは。私は場違いだったかしら?」
「別にいることに問題はない。長時間いられるかはわからねえが」
つんけんどんなマスターだな。ちょっと飲んで仲良くなるか。
「はい、ごちそうさま! はいはい、私を潰れさせる上物はいないのー!?」
「おいおい、ゆきはまだ飲めるのか!? だれかいねえかー!?」
「私まだまだなんだけどなあ!!」
まあ、大体飲みくらべ競争になるよね。自己バフは禁止されるけどさ。
でもね、私、勇者の力で【毒耐性】がかなり強いの。酒は毒っちゃ毒なの。耐性は自由に操作できるんだけど、今はマックスまで耐性あげちゃってるの。負けるはずがないの。
「もうダメだ、やめてくれ。うちの樽が空になっちまう! ゆきは獣人族の特別名誉会員だ!」
「ありがとっ。それで、逃げ出したお姫様の家族のことなんだけど……」
「……ニーアのことだな。言付けが実はある。あいつもここの常連だったからな。言付けを言いたくなかったからお前を酔い潰すつもりだったんだが」
「うんうん、それで?」
「ゆきへ、私は元気だから大丈夫。以上だ。それだけいって遠くに行っちまった。死んだって意味じゃねえぞ」
なるほど、そんな簡単なことを。でもここにまだまだ幼い子が来て逃げ出したお姫様の家族のことを聞いて、名前が佐原雪と名前の呼び方がゆきだったら……まあマスターはそうするよね。
「おい、今日ここに来た客は『あき』って名前だよな、そうだよな!」
「「「そうだとも!」」」
それで、ついでに仕官を願っていたルークお兄様の情報も聞けた。
元気に兵士をやっているみたい。無事でよかった。
ガスホお兄様は3歳の時から既に家に帰ってこなかったので本当に情報がわからないので断念。
あとは……家でも見に行きますか。
村へ行く道を歩こう。いや、馬車だな。靴が摩耗する。
村までの道を馬車がのんびりと走る。
何日かして到着。何も変わって……るな。家屋が奇麗になってる。私を産みだした村として支援金が少し入ったのかもしれない。嫌なことにはなりたくないから、おとなしくしておこう……。
家の方へと足を向ける。今どうなってるかなあ。
え、何も残ってないじゃん……!
跡地に近づいてみる。奇麗さっぱり無い。あの豪邸が、無い。
「お前さん、この家に興味があるのかね?」
近くで農作業をしていたおじさんが声をかける。
「そうですね、ミーハーなんですけど逃げ出したお姫様事件を最近聞いちゃったもんで」
「ああ、そうかい。逃げ出す前はな、国から支援金が入ってそれはそれは凄い豪邸だったんだ。ただ逃げ出してからすぐに豪邸は売り払われたんさ、支援金が無いと成り立たないだろうからね。あとは新しい家を建てることも出来ずに残っていた家族は離散だな」
「そうなんですね。稼ぎ頭が消えてしまっては無理も無いか。母親ってどうなったんです? 確か娼婦でしたよね、父親がいない家族だったというのは聞いてます」
「当時愛人がいたんだが、それに捨てられてしもうててな。気が狂って死んじまったよ」
死んだ。
死んだ。
死んだ。
「そう……ですか。凄い事件でしたね。ありがとうございました」
「ああ。近くの共同墓地に墓があるからついでに見に行ってみてもよいぞ。狂乱した家族の終わりとしてな。本当、凄い事件じゃった」
事件、か。私にとっては人生だけど。
共同墓地に足を向ける。やはりお母様に会わないとこの国を出る気持ちにはなれない。
もともと逃げる前に顔を見ておこうとここまで来たんだしね。
お母様は、ちっぽけな墓石で眠っていた。
お母様……私が生まれなかったら……。
よくお眠りください、お母様
この世界だとどの神に祈ればいいんだっけかな。黙祷でいいか。
そうやって黙祷しているとなにか声を掛けられたような気がした。何でもありなこの世界だ。死後の霊が本当にいるかもしれないね。
『いいのよ、あなたはあなたの道を行きなさい。生まれてくれてありがとう、ユキ』
何を言ってるのかなーと思いつつ、墓地をあとにしたのであった。
『あなたに幸あれ』
そういえば、私の職業に勇者が入ってるんだけど、魔王っているのかね? 職業分類的にはいそうなんだけど。とりあえず首都で調べてみるか。
それじゃ首都までもどるか。なんか武装した人間や犬が〈探感知〉でヒットしているので、帰りは走りかなー。特殊部隊はまだ私を追っていたようだ。
では、いざ行かん首都! びゅーん。
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