第2話 あれもしたい、これもしたい。臭いのはやりたくない

 カーンカーンカーン


 朝の澄んだ空に鉄が叩かれる音がこだまする。


 カーンカーンカーン


 ここ、アベネンシスでは、「あくー文明の遺産」で鉄と魔石を交換することが出来るとされる。魔素でも交換できるがかなりの非効率で実用的ではない。

 鉄の精錬に必須な石炭は周辺の草原に豊富に点在している。木は大規模植林で自給している。巨大な炉もある。鉄や鋼鉄の一大産地なのだ。


「そしてこのアベネンシスの入り口に朝陽と一緒に突っ込んできた私たちは危うく殺されるところだったのだ。以上が経緯です」

「はぁ……。そしてトンガラン王国ですか……普通なら内海を渡ってぐるっと右回りに巡らないといけない小国ですが、どうやってここに?」

「冒険者ギルド職員さん、それはもう、雪山越えてきたんですよー。朝陽も雪オオカミっぽいでしょう?」

「嘘は言っていないと思います。でも、あの雪山越えたんですか? あの?」

「ええ、なにか?」


 ちょっと個室で尋問されたけど、冒険者ギルドからも認めてもらった(なにをなんだろう?)ので滞在許可がおりた。なのでまずやることは。


「お金稼ぎなのだよ朝陽くん。ここ、物価がめちゃ高い!」


 ゴブリン退治で12ユドもうかったーとか言ってたけど、ここだと一泊で1ユドする。前の国なら十分の一、10ロルで2食飯付きだったのに!

 腹が減っては何も出来ない。まずは職を探そう。うえーん働きたくないよー。


 で、見つかったのが。


 がっちりとした朝陽は馬の代わりに木炭石炭を運ぶ仕事が。

 私はアクー遺跡を稼働させると敵がわいてくるのでそれを始末する仕事が。


「あのー、ドラウニーってやってきたりするんですか?」


 草原の現地で兵士さんに尋ねますと。


「当たり前だろ、あいつと食鬼しょっき、ゴブリンが主な敵だ」

「いやあぁぁぁ! 臭くなるじゃないですかー!」

「報酬は高いんだ、予備でも作っておけ」

「そんなぁ」


 しょげておりますと、あくー文明の遺産が稼働したと言うことで。どこで稼働しているんだろう? 何も変わらないし、なにもこな来たあぁぁ!


「うああああ、〈エアカッター〉!」


 ドラウニーが突撃してきた! 風の魔法で首をはねて牽制する。火で燃やしたいのだが、ドラウニーから取れる油が鉄の精錬にちょうどいいんだってさ、あはははは物は使いようだよねぇぇぇ来るなぁぁぁぁ!!

 などとやっている間に食鬼がやってくる。

 食鬼は4つ足で、ただれた皮膚そして人の顔をした死肉食らい。ぶっちゃけ怖い。叫んだりはしないようなのでだいじょう。


「オンドラグギャア!!」

「ああー叫んだ怖えー! 死ねやこの野郎!」


 叫んだ奴に逆に突っ込み花草水月で切る。

 食鬼は意外と素早く、致命傷には至らなかった。


「逃げんじゃねえ!!」


 花草水月を投げ出して翠乃沃土を手首から右手の手首に出現させるさせる。私は左利きなので右手でレールを作り、左手で狙いを定めるのだ。

 そして翠乃沃土を円盤状にし回転を掛けて、〈エアシュート〉で射出!

 凄い勢いで飛び出した円盤は見事に食鬼の首を刈り取り、食鬼の命も刈り取ったのであった。


 最近知ったのだが、翠乃沃土も花草水月も手に〈召喚〉出来るらしい。〈武器召喚〉だったか。召喚する持ち物が私のものだと多分どこかの神様が判断すれば、手に召喚してくれる。

 なので右手に翠乃沃土、左手に花草水月を召喚。即座に戦闘態勢を取り戻す。


 一体の食鬼に近寄られて噛みつかれ、〈空間障壁〉〈皮膚装甲〉でなんとか凌いだり、と、ぎゃーぎゃーやっているうちにあくー文明の遺産の方が終わったみたいで、魔物は去って行った。完璧に私たちの勝利だ。


「いやあ、さすがだなゆき、魔法剣士というのは本当だったんだな。しかもちゃんと強い。褒賞ものだぞ、まあそんなものは出ないが」

「いや出してくださいよ指揮官さん」

「これで75ユド手に入るんだ、悪くないだろ」


 まあ、確かに。新規に上下の服、スパッツ、下着類などを購入しても全然おつりが来る。朝陽の1日の労働が3ユドなので25日分稼いでる。その日その日の支出は朝陽の収入でなんとかなるし。後2~3回もやればエンチャント掛けた品で作れるんじゃないかなー?


 ただ、この儀式? をやるのは月1回程度なんだそうで。今は戦争をしているから月2回やっているみたいで。へぇ、って戦争? 嫌なワードだな。


「じゃあこの上下と下着など一式で。上はフリルが少し綺麗だと良いな。10ユドでいいんですね?」

「ああ、それくらいでやってやるよ。一式うちに任せてくれるんだからさ」

「ありがとうございます! 戦争って、嫌ですよね」


 ぽわわわわーん、聖女の魅了を掛ける。すまんな服飾店の旦那、根掘り葉掘り聞かせてもらうぜ。



 話を聞いてわかったことは。

 この国は戦争状態である。しかし長年も戦争状態であり国民はだれているのではないかと。激戦地はまた状況は違うのだろうが。

 相手国はインタスタラ帝国。鉄精錬地の住民程度じゃそれくらいしかわからない。

 若手が徴兵されるのでどうしたって街の活気が悪くなる。

 首都では冒険者ギルドのギルド員も徴発される。冒険者ギルド相手なのでしっかりとした対価は支払われる。

 兵士レベルではあるが訓練は受けられる。ギルド員は様々な種族や武器、装備で出来ているために統一した最低限の訓練を施す、そうだ。実際に行ってみないと詳細はわからない。

 おじさんのおみせはふくしょくまにあのおみせなので、わたしのそうびはたいへんこうふんするらしい。1ユドまけさせた。


 ぽわわわわーん、魅了を外してにっこりと握手。お礼を言って立ち去った。状況把握できていなかったようだけどうれしそうなのでヨシ!


「どうしようかねえ、新しい洋服が来たらエンチャントしたいし、ダンジョンでも行く?朝陽はゴールデンレトリバーで、だけどさ」

「我も匂いに敏感だからな、エンチャントをするのは大賛成だ。一つの装備に必要なのか、一気に出来るのかなどを調べておきたいところだな。ダンジョンではレスキュー犬として働こう」

「んじゃ決まりっ、あいつら全員燃やし尽くしてやるっ」

「酸欠しないといいんだが」

「ああそっか。じゃあ図書館で調べてくる。読めばなんとかなるのが賢者の利点よね。魔法屋とかもあったしみてみよーっと」




 最近考えやしゃべりが思春期の私に引っ張られている。やはりこの時期の女子は異常な強さを持っている。35歳の私はだんだん吸収されてしまうかもしれない。それは寂しいが、心が一つになるのもまたこの時期の特徴だ。

 本当に2度目の人生を歩むのは、これからなのかもしれない。

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