第7話 聖女であるがために
隠し通路は当たり前だが非常用なので、明かりなどは一切なし。翠乃沃土をLEDライトみたいな感じにして光らせ、先を進む。
翠乃沃土は小回りがきいて便利だな。
『俺は戦闘用だからなあ』
聞いてない言ってない。
最奥へつく。
結構歩いたのであそこの兵士さんとは出会わないだろう。ただ、兵士があそこだけいるとは全く思えない。
周辺を見よう。通路をぴったし覆う壁(これが扉になるはず)、巻き上げるような機構、あとは……見えにくいけどボタンが床にある。
ボタンを押すと何らかの手段で機械……はこの国には無いか。魔法的な動力でこの巻き上げ機構が作動し、出口が出現する、のかな。
どこにつながっているんだろう? 鍵がかかっている武器庫の隠し通路の先。外の可能性もあるけど東に進んだ。大理石の床と白い壁で出来ていたこの館か宮殿の一番重要なところへつながる。しかも書斎まで一気に進める(書斎には抜け穴ありそう……失敗したか?)
うーん、中央部の可能性は高いな。
巻き上げ機構を自力で動かして少しだけドアを開くか。よいしょっと。ドアが下から開く仕組みなのね。
音がしない、気配も無い。開けてしまおう。そしてここからは魔法も使おう。戦闘のリスクよりも逃げられるチャンスの方が利益は高い!
ボタンを踏み、巻き上げ機構が作動する。ちょっと隙間が空いたら指を差し入れ、自己バフも使って一気にドアを開く。
そこは、聖母なんとかさんの神殿だった。慈愛の神だったよね。えーと、えーと、なんとかさん。そこであんな禁忌を……。
外に出たらアラームが鳴り響く。隠し通路にアラームが鳴るようなことはしないだろうから私が脱出したのがバレたかな。〈探感知〉を使って逆に兵士が来る方向へ突っ込む!
やっぱりやめる! 兵舎があるような動きをしている! 大きい通路へ向かって走れ!!
扉が何枚もあるので全て風の爆風で吹き飛ばす! どけどけぇ!
そうするうちに一般参拝に来ている人の波と遭遇する!
外だ!!
「そこまでだ不法侵入者。一般民に危害を加えさせることはさせん。衛兵よ、引っ捕らえよ!」
「な!? 王!?」
王が、なんとかさんの像の横に王座をもうけて座っていた。
「お前の不法行為は全て把握済みだ、おとなしく捕まって罰を受けるが良い」
「罰ですって、それはあなたの方でしょう、王よ! あなたは最低のことをしている!」
「ハッハ! 犯罪者が何を抜かす! この大扉を壊しただけでも重罪なんだぞ!」
わたしのなかで、なにかがはじけた。
「重罪をおこなっているのはあなただ! 聖女『ユキ・サースパンダー』の名において、あなたを告発します!」
民衆と衛兵は私を見守り、王は……。
「か、体が動かん、何をした!?」
「これから〈記憶開示〉〈映像化〉をおこないます。改ざんはしていません、聖女の名にかけて」
そして今まで見てきた私の記憶が、巨大なスクリーンを自ら張りつつそこに投射される。
逃げる私を特殊部隊が追い込む。素っ裸で拘束された私、棺桶の女性達、そして、禁忌の呪術。
動揺する民衆、ざわめく声。動かない衛兵。
「あなたは、私を我が物とせんばかりに国の特殊部隊を私物化し、女性達を何名も呪術の犠牲にし、そしてその呪術を私に受けさせようとしました! あなたは極刑に値する!」
「こ、これがなんだというのだ、全て説明する、全て説明するぞ。おい、衛兵!」
「もう!あなたには! 私の家族をバラバラにさせたあなたには! 言い逃れることは出来ない!! うああああああああ!!」
サーベルを抜き、一気に距離を詰め、袈裟斬りをする。サーベルは溶けたバターを切るがごとく醜い体を切り倒す。不思議と人を殺したという罪は無かった。聖女としての使命感の方が強かった。
「これにて、聖女の断罪を終わります。今回の騒動は皆さんが証人です。私を人殺しの大悪人と呼んでもかまいません。でも、人がおこなってよいことの限度を越えないように、生きてほしいです」
民衆が一気に騒ぎ出す。
「愚王が断罪されたぞ!」「王が死んだ! 新しき王を迎え入れるときだ!」「時代が動くぞ!」「最近行方不明になる女性、多かったものね」「悲しい事実だが、ちゃんと弔おう」
――終わりました、お母様。
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