第4話 狩猟 下

 起きるとニーアお姉様に抱きしめられていた。


「あ、おはようございます。ソンダラ皇太子殿下はご無事でしたか?」

「おはようございますじゃないわよ!! 殿下は無事! あなたは!?」


 かなりの食い気味で私に問いかけるニーアお姉様。

 そんな慌てなくても。


「ここは、倒れた場所ではないか。どこかの部屋かな。よいしょっと。うあ、立ち上がると少しふらふらします」

「血を失ったの!? あなた生理の時期だっけ!? ハーフジャイアントの血が入ってると生理が起こるとめちゃくちゃ出血するのよね!!」

「えぇ……。お姉様少し落ち着いてください、なぜここで生理なんですか」


「そ、そうよね、そうだわ」などとつぶやきながら私から離れるお姉様。私は全部覚悟した上で行って倒れているから平気だけど、他の人は慌てるよね。

 そういえばツノイノはどうなっただろう?


「お姉様、ツノイノはどうなりましたか? アカネは修復しきったのかな?」

「ツノイノはあなたの一撃で即死したと兵士が証言していたわ。あなた一体何をしたの? 体は綺麗で脳みそがぐちゃぐちゃだったって話よ? 殿下は足がちぎれたとは思えないレベルでくっついているみたいね。血が全くないから当分は見守る必要があるけど」

「そうですか、それはなによりです。あの一撃は、私の相棒である意思のある液体金属を超速度でツノイノの眉間にぶち込み、頭蓋骨を貫通させたあと、液体金属が脳内で暴れ回ったんですね。脳みそを瞬時にズタズタにされたので即死したのでしょう」

「あなたそんなの持ってたの……」

「今左手の手首にあるこの子がそうですよ。赤くてかわいいでしょう?」


 ヒッと飛び退くお姉様。


「と、飛びかかったりしないでしょうね」

「ちゃんとした意思があるので大丈夫です、じゃれ合っても大丈夫です、殺意がある場合先に殺すかもしれないですね」


 さらにヒッと飛び退くお姉様。

 とりあえずここはどこなんだろ?


「ここは急遽設置された大規模治癒院の一角よ。あなたは殿下より上等な部屋で休んでたってわけ」

「あらぁ。皇太子殿下に挨拶しないと。血は作ってあげられませんが、数日持つ痛み止めの魔法を処置できます」


 じゃあ、と皇太子様の部屋へ案内される。そこに行くまでに出会った全ての者が最敬礼をしてくれて、なんだか嬉しいような、こっ恥ずかしいような。


「あなた、英雄を呼んできたわ。ユキ・サースパンダーよ」

「ああ……ありがとう……こんかいは……」


 ソンダラ皇太子と直接お会いするのはこれが初めてだ。体格の良い結構なイケメンだな。お姉様面食いだったか。いや、皇太子が一目惚れしたか。お姉様市井の者だしな。


「しゃべらなくてくださいソンダラ様。今痛み止めの魔法を行使します。痛みは止まりますが血はないので絶対安静ですよ。〈中期間継続・上級痛み止め〉」


 ホワンと皇太子の体が光る。魔法が行き届いたのだろう。顔の表情もそこそこ安らかか。


「ありがとうユキ殿、大分楽になった。ふう、これだけで息が」

「しゃべらないであなた。今後の治療、ユキが行ってくれる?」

「いえ、私じゃなくて従者のアカネの方が適しています。私は傷を回復させることは出来ますが、血液を作るための知識はあまり持っていません。国が持っている医療従事者でも知っている者は少ないではないでしょうか。これだけの国なら魔素の力でごり押しで回復しているでしょうし。でも彼女なら知っています。私は消毒で体を綺麗にして感染症を防ぎ、痛み止めを行使する程度で、メインの治療方針はアカネが考えたほうが良いです」


 お姉様は熟考した上で頷く。


「聖女の意見として文章で出してもらえるかしら。皇太子の治療は国の威信に関わるわ、医療機関にとってもね。アカネさんは市井の巫女で聖女でもないはずよね。拒否されるかもしれないわ」

「僕は、聖女の意見を、採用して、もらいたいね。しぬ、すんぜんの、ぼく、なおしたし、つの」

「無理しないで。皇太子の意見として私が伝えるわ。ただ、まだまだ部外者の聖女の意見ではあるから、治癒院の派閥がいやな顔をするでしょうね、反対するかも。皇太子の意見もそそのかされていると言われるかもねえ」

「お姉様政治お強いんですね」

「市井の者が皇太子と結婚するなら身につけないとね」


 いろいろあるんだなあと思いつつ、アカネに報告。


「わわわ、私がですか!?」


 といっていたけど。


「血液を構成させるための物質は知ってる? それを多く含んでいる食材とか」

「文献と経験によると、動物の赤身です。色が赤い方が良いです。野菜だとほうれん草。でも野菜だけだと回復に時間がかかると文献にあります」

「さすが! やはりあなたしかいないわよ」

「えええ、でも」


 ここは根気強く説得して了承させた。頑張れ、アカネ。


 アカネが皇太子の看護長になってから5日後に皇太子がなんとか動けるようになったということで首都の病院へ移動。予想通りもめた。


「ここは戦地ではない! 病院は医者が患者を診る! ただの巫女にみさせてたまるか!」

「医長さん落ち着いて。大賢者である私がみて、主看護を彼女が行います。皇太子殿下もその方が良いとおっしゃってるじゃありませんか」

「患者の意向より医者の意向が優先される! おまえは赤血球の構成物質を知っているのか?」

「タンパク質と鉄分、必須アミノ酸。ビタミンだとあくー文明の分類だと21番、葉酸も必要」

「なっ」

「この鉄分が重要です、酸素を運ぶために鉄分が酸素と結合して酸化し、各所へ運びます。問題は鉄分は手に入りにくい上に食べても吸収率が悪いこと。吸収率を補うのがビタミン21と葉酸。血液は赤いため、赤い肉の方が比較的多くとれやすいという傾向がある。知識披露勝負はこんなところで良いですか?」

「……看護はチームでやるんだ、和を乱すな」


 とりあえず競り勝ち。チームに関しては魅了と美味しいご飯に〈士気大向上〉を混ぜ入れて結束させます。時短時短。


 というか私もふらふらなんだよ。でも食べている以上に回復してる感じがする。いや実際は3職兼務とはいえ、さすがに物質を生み出せないから食べている以上に回復することはないんだけど。前衛職、勇者を持っているからかな、凄い吸収して細胞を作ってる感じがする。これは勇者のLvも結構向上しそうだ。


 私と皇太子の医療チームは、私の工作により最大パワーで働いてくれて何不自由なく過ごすことが出来た。


 いやーちょっと危ない場面もトラブルもあったけど、良い休暇だなあ。休ませてもらえるこの国とお姉様チュッチュ。

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