第3章

第1話お休み中のとある一日

「――ではここの魔方陣を修復しますね。神よ……〈総合的大回復〉」


 ふわりと風がひらめくと、光が魔方陣に差し込んできて光の柱となる。


「これでよし。今は私がやっておりますが、ゆくゆくは巫女の皆様もこれが出来ようにならないといけませんね」

「総合的大回復だなんて、とてもとても」

「どれかに特化して大回復を覚えればいいんです。回復、病気、損傷、流行病、などね。ああそうだ、次は流行病の結界を強化しに参りましょう、4カ所でしたね」


 途端にお付きの巫女がいやな顔をする。臭くて汚い場所には行きたくないのだろう。


「あのねえみんな、私が聖女の活動をしていくらもらってるかわかる?」


 動揺するみんな。そりゃあ、もらえるだろう?


「1万ユドくらい……でしょうか」

「ざんねーん、はっずれー。答えは0。ゼロユドでーす。副賞として王室で王女の妹として振る舞えるってのがあるけどね。それは無職は城にいられないからってのと一緒」

「ゼロなのにあんな大変な魔方陣を書くのですか!? しかもこれから汚い臭い場所に行ってヘドロまみれになると!」

「いや、王女の妹って利益じゃん!!」

「そうだね、利益だね。でも、この国は私を見捨てると思う? 凄く人情味あふれるこの国で、私をそこら辺の無職集落に捨て置く? とても優しいお姉様が、それを見捨てておくとでも思う?」

「いや……それは」

「ないんだよねえ、ないの。で、私はお礼に聖女としての行動を始めましょうって訳。だから1ユドももらってないの。あとほら、聖女って奉仕行為だからそれ自体に利益はないんだよねえ。それを見て偉い人や、力を授けてもらった人がお金くれたりするわーけ。戦闘に着いていく巫女もいるけどさ。基本は奉仕よ」

 私は続けていう。

「つまり、強さなんてないのよ。癒やしも出来るけど、基本的にこの系統は支えられてる系統なの」


 さてお昼ご飯。久しぶりにお昼というものを食べたのでとてもおいしいでござる。

 しかし我がメンバーはあまり箸が進んでいないご様子。食えるときに食えないと死ぬぞ。まあゆうてみんな金持ちのお嬢様なんで出来るものも出来ないであろう。


「んじゃ街角巫女奉仕に出かけましょうか。流行病の方はやっておいたから」


「「ええ!?!?」」


「だってあんたらじゃ嫌がりながらやるから結界の質が下がるじゃない。それじゃ意味ないわけ。そもそも私が範囲結界やったの感覚として伝わらなかったの? もっと下位の人でも私のところに駆けつけたんだけど」


 大草原の中、正円に形作られた城壁。これがまた美しいんだよなあ……。

 その中央に座し、結界の位置と時間調整をして一度に浄化。光が波打ったはず。巫女なら絶対わかると思うんだけどね。


「わからんかなあ。まあ街角巫女奉仕に出かけましょうか。たいしたことはされないわ、回復士とか薬師でも治せる傷や病気がほとんどだから。お金くれは笑顔で拒否っ! 巫女は病気にかかりにくいから大丈夫!」


 というわけで街角奉仕活動を開始。これも、経験値は入るけど、これに意味があるのではなく、傷ついても治療費が払えない、体からは異臭がする。そんな人にでも癒やしと恵みを与えるのが聖女や巫女だから。それでやってるのよね。

 稼ぐだけなら賢者で錬金術を行使して、香水作って販売してるわ。

 みんな全然動けなくて、まあいきなり出来る人はいねえよなあなんておもってると、一人の娘さん(ゆうて私も17ですが!!)の行動が目につく。

 綺麗なブラウンの髪の毛で、顔にそばかすがある、クリーム色の肌。身長は……小さい、だな。

 で、その人、一人一人の病状をしっかりとメモして、多分自作の資料と照らし合わせ、それに基づいて願いの意味を変えてるわ。私は力があるから無理くりに治すのでこんなことはしない。

 近づいてみよう。



「お疲れ様、さっきそこで買ったレモネードだよ、〈消毒〉してあるから気兼ねなく飲んで、名前はー?」

「あ、ありがとうございます! いただきます! アカネです」

「グビグビ、結構おいしいねーアカネ」

「そうですね、街角屋台はレモネードって定番ですよね! ゆきさんっ……で、出すぎた発言申し訳ありません」


 できすぎの発言うらやましいです。


「いいのいいの。あなたの手法見つめさせてもらったけどすごいねー。適切な観察で巫女の力を必要最小限度で扱ってた。メモもとってるし、自分なりの治癒方法ももってそうだね。相当練習したんだねー」

「いえ、そんな。……え、私の全部見たのです!?」

「みたよーあんなことからこんなことまで」


「ああ、ああ……。私は、魔素が少なくて。巫女の職業に選ばれましたけど巫女=魔素力って風潮あるじゃないですか。だからうまくいかなくて。一度戦士系の職業に転職したこともあるんです」

「へえ、そうなんだ。観察眼はその戦士職からかな? 隙や弱点見つけないといけないもんね」

「はい、レンジャーでした。でも戦力になれたかというと……。私、ちっちゃくて非力なので強い弓が引けませんでした」


 それでもどってきたのかぁ。……それで?


「え、なぜ戻ってきたの?」

「ええと、じゃあどういう仕事するかって思ったときに、一般職もいいよなって思ったんですけど。どうしよーって時に大図書館で見つけたんです、『効率から求める! 超楽な巫女職のやり方』というのを!」


 うわーなんか想像できるぞそういうビジネス書。地球に5兆とあるよねえ。


「そういうの外れも多いけど……」

「大当たりだったんです! 患者や周囲の人から情報を聞き症状を推察し、御言葉の配置を効率化して魔素の節約、終わりの際に渡す聖水も可能な限り水分を飛ばし、家庭で希釈してもらう!」

「できたんだねー、あなたのやり方が」

「はい! 魔素が少ない私でも! なんとかなるんですよ!!」


 こういう子は伸びる。自分を解析できているのだから。といっても21歳とかいっていたっけ。地力が上がるのは24~6くらいまで。んー、いまやってもちょっと遅いな。でも5年は延びるってのは重要だよね。技術力は辞めるまで伸びるけどさ。


「まあいっか、ちょっとその家を借りて施術を行ってあげるよ。簡単だから来て」

「えええ!? ありがとうございます!」


 おうち借りて、ベッドに〈消毒〉を掛けて、肌着を脱いでうつ伏せで寝てもらい、私がそこで冷静沈着になり心を透明無揺にする。


「――っ! はぁぁぁーー!!」


 ビッタンビタンと2度、両手で思い切りアカネの背中肩甲骨付近と肺の後ろ側あたりをぶっ叩く!

 ものすごい海老反りになり失神寸前のアカネ!


 しかし、その口元から何やら黒いものが……。


「アカネ、まだ失神しないで。今、口元からあなたの邪気が飛んでいってるよ。これが魔素の成長を妨げていたんだよ」

「あ、ああ。じゃき、じゃき」

「これで魔素の成長が復活するわ。年齢的に若干、かもしれないけどね。よく巫女とかって20ちょっとですぐ卒業しちゃうじゃない。私がいた国でもそうだったんだからこの国でもそうでしょ。あれね、表向きもう聖女力が巫女力がなくなってしまったのでもう~、とかじゃない」


「そ、そうですね、そういうものではないのですか?」


「実際はさ、何らかの理由でよこしまなことをして神に仕える身ではなくなったから機能に制限かかっただけなんだよね。巫女とか人気だもんねー。聖女の私なんか凄い人気だった。普通にセックスする分にはいいの、それは愛の営みだしね。子供のいる巫女や歴代聖女もいるでしょ?」

「ええ、ええ? 機能が制限された人というのは……」


「クスリ打ったか、重罪といわざるを得ない犯罪を犯したか、とんでもねえ変態セックスをしたかよ。前二つは、まあ、ねえ? でもセックスはねー厳しいわよー。私も一度機能制限食らったことあるんだけど解除するのが本当に大変で」


「ええーー!! ゆきさまも変態セックスしたのですかー!?」

「ふふ、聖女って性女だからね……あんたも魔素の成長を止められたのには原因があるのでしょう?多分幼い頃に癒やしを不正な力で受けたのかなって思うけど」

「ううん、そうで――え、え? すごい、空気が凄くおいしいです! こんなにおいしい空気久しぶり、ううん、初めてです!」

「肺に邪気があったもんね。私がやったように、悪の力は巫女や聖女の力で追い出すことが出来るわ。できる限り頑張ってね。あとで図書館の人に顔合わせするわ、あなたのやってきた行いは完全に学問だもの。後世にまで残さないとね」

「あばばばばばば」


 あら、気を失っちゃった。しかし綺麗だなー。おっぱいがほどほどちょい多めで楽そうだなー悪い男に引っかからないといいなー。


 あー、私この世界に来て初めてお休みしてるわーお休み最高だわー。

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