第2話 狩猟 上
なんか、貴族の狩猟に誘われた。ニーアお姉様の新郎さん、つまり皇太子か、それも参加するらしい。
断る理由は特にないので見学することにした。数名付人をつけてほしい、と言われたけど特に友人もいないのでアカネとその友人さんを連れて行くことにした。
ちなみにこの一つ前には狐狩りに招待を受けていたんだけど全くの無礼を持って突き返した。私はなぜか狐が好きなのである。超絶好きなのである。心酔するくらいに。理由は不明なのだが……。きつねをいじめるのはんたーい!
それでまあ、狩猟は貴族の楽しみだけでなく、兵士の訓練にもなる。森を数十名であさりまくり、貴族の前に動物や利用できる魔物を用意するのだが、あさる際に出てくるのは平和な動物魔物だけじゃない。ゴブリンを貴族の前に出すわけにはいかないから事前処分となるし、たまにコボルトもでる。森の中で統率をするのは非常に良い訓練だ。
イノシシに鋭い角が生えたような魔物「ツノイノ」なんかは大変美味しいが、その角が騎兵のランスのようにでかくて長く、鋭いのでそのままでは危なくてしょうがない。ほとんどの大きさの個体は切り取ってしまう。極めて長いものは、ハンティングトロフィーになるから弱体化させておくのだそうだ。
こういった面倒で細かい作業が、技術の向上につながるってわけ。
「そのほかに何だっけかなー、熊を殺して『あれ、ぼくなにかしちゃいました?』とすっとぼけるのが一流の証とかだったかな」
「何それウケる」
「ノゾ、ゆき様のご発言よ」
えっとー、ノゾちゃんとミケちゃんだっけかな。
「いいよーそういうの。私王族じゃないしね。メイン職は賢者だけど上級聖女も持っているのでそこら辺はよろしく」
「え、ゆきさん聖女がメインじゃないの? 毎日の活動、聖女がメインだよね?」
「あれは王宮に住まわせてもらってる奉仕だからねえ。普段は新聞配達とか、魔導エンジンに魔素供給したりとか平凡な生活していて、たまーに、魔物相手に殺し合いしたり、ダンジョンでモンスターとカチコミあいしてるよ」
「へえーそうなんですね。最近はアカネを付き添わせて奉仕活動なさっているのでてっきりそういうものばかりだと」
そうなのである、アカネちゃんと最近は一緒に活動しているのである。
「アカネちゃん勉強熱心でさ、ついつい教えたくなるんだ。あと、私の近くにいた方が成長率向上の恩恵を得られるしね」
上級聖女、成長率すら上昇させる。多分自分も上昇してるんだろうなあ。
「えーアカネだけずるくなーい?」
「そう、アカネだけずるい。ノゾちゃんご名答」
「えーなにそれー」
「男女の関係じゃないけどさ、好きな対象には特別待遇受けさせたくなるよね? それよ、それ」
「なんか恥ずかしいです、ゆき様」
顔真っ赤なアカネちゃんであった。
御者が「そろそろ到着いたします」といい、馬車の速度が落ちる。そら、貴族は馬で向かったんだろうけど、私たちが馬に乗れるわけもなく。神獣のオオカミに乗った経験なら私はあるが、馬に乗った経験と技術はだーれも持っていない。馬車の旅だったわけ。
「遅れてすみませーん、ユキ・サースパンダー到着しましたー。付人はアカネ、ノゾ、ミケの3名でーす、よろしくお願いしまーす」
と言ってニコッと営業スマイル。
あと半年くらいで18歳になる私の顔はもう本当に天使で。勇者、賢者、聖女、これが集まって17年と半年くらい補正を掛け続けるとここまで美しくなるのかって顔で。
そんな顔で営業スマイルされて悪い顔をする人なんてほぼいない。
「ユキ殿とご一行、ようこそ見見舞われた。いやいや、何事も初めてだろう。閲覧席を設けてあるからゆっくりと眺めて楽しむと良い」
えーと確かホセ・オラチ侯爵だったかな。外に領地を持っているわけではない、内務官系貴族。クラッチのような大国だと国の中枢で働く、役付きだけの貴族が大量に存在する。公務員の肩書きみたいなもの。侯爵だと事務次官(事務方トップって言われるやーつ)に相当するはず。
「ありがとうございます。私も含めてなのですが、貴族言葉をたしなんでおらず、最大限の丁寧言葉しか使えませんが、どうか平に」
といって深くお辞儀する。ホセ殿は「それには及ばんよ」と。
「そもそもニーア様も市井のものでありますからな。妹様と付人も市井のものだから事前に把握しておくものと伝えておる」
「ご配慮重ねてお礼申し上げます」
ぺこりとお辞儀して閲覧席へ向かった。
小高く積み上げられた木製土台にかかっているスロープを上って閲覧席へいく。そこにはニーアお姉様の姿もあった。皇太子が参加されるんだから当たり前か。
「お姉様! 今回は誘ってくれてありがとうっ」
「いえいえどういたしまして。そちらが付人さん?」
「うん、順に、アカネ、ノゾ、ミケです。よろしくー」
お姉様はアカネをじろじろと見ると。
「へえ、あなたが今熱愛中のアカネちゃんかあ。素敵ね」
「ええええええ、そ、そんなか、か」
「アカネちゃん動揺しちゃってるじゃん! 熱愛関係なんてないよう」
「ふーん、そういうことにしておこっか。次の旅の従者にでもするつもりー?」
「そんなこともしないよう」
とまあ乳繰り合っていると、すでに始まっている狩猟から次々と戦果が報告されてきて。
それがまあ、想像を遙かに超えたものだったのである。
私だって伊達にウィキ辞典博識人を名乗ってはいない、王族の狩猟や狐狩りがどういうものかとかは何回か読んでいたし、ウィキウィキ動画でも当時のを再現した狩猟祭りとか見ていたから知っているつもりだった。
ただ、それは「地球」のであって。
ここは魔導素粒子なんてものがあるし、物理法則も完全に一緒ではないし、スキルや魔法、とどめに奇跡が使えるのである。狩猟も馬鹿みたいに派手だった。
動物も魔物も凄い数が追い立てられていて、東京ドーム2個くらいの面積の中でひしめき合っている。「生物」の生息数がありえんほど多い!!
〈ズーム〉してみているとコボルとの群れがいて危ないって思ったんだが、兵士数個小隊がやり合って撃退していた。普通に実戦訓練になってる!?
ホセ侯爵も普通にやり合っている。その手に持ったシールドでウマ系魔物「ウマムス」の突撃をしのぎきっていた。事務方でも、いざというとき国王を守れないのではだめってことかな?
なぜ東京ドーム2個くらいの面積に追い立てることが出来ているのかは、その範囲を強力な結界で封じ込めているからだ。よって、こちらに魔物が来るという心配はない。疲弊した人は結界の外に出れば良いのでそんなに怖くない。死傷者は出ているようだけど。狩猟だからしょうがない。
「お姉様、ちょっといってくる」
「ん? ……ああ。馬は?」
「この距離なら空気を蹴った方が早い。アカネー!巫女のお仕事をする時間だよー! いこっ!」
「え? ふぁ!? ちょ!!」
私はアカネを抱きかかえると、空気蹴りをして戦場へと駆けていくのであった。
「やっぱデキてんじゃん」
「ノゾ、それは野暮ってものよ」
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