第9話 お姉様!

 結婚式は厳かに進んだ。

 力が強そうで凜々しい新郎と、穏やかそうな神父。後は王女様……じゃないんだっけ、元は市井の人だそうだ。それさえそろえば式はつつがなく進行するはずだ。

 しかしよく王室のものを射止めたなーなんて思っていると、新婦が登場。一人でしゃなりしゃなりと歩いて行く。綺麗な羽根を背負った人種だなー。


 ……えっと、その羽根、見覚えがある。ニーアお姉様では?

 ニーアお姉様は3歳の頃しか記憶がない。ほとんど記憶がないのは確かだ。3歳から城で社畜していて帰れなかったからな……。



『これより、ソンダラ・エキソ・スラック皇太子殿下と、ニーア・サースパンダーとの結婚式を行う』


 会場から盛大な拍手が沸く。私は衝撃で頭が割れる。


 ニーア・サースパンダーって!?!? 間違いなくニーアお姉様だ!!!!


 どうしようかどうしようかどうしようか。一言だけでいいからユキは無事だと伝えたい。


 何もしないまま式は進んでいく。

 キスも済み会場は大盛り上がりだ。


 あいたい、すごくあいたい。でも私は家族を不幸にさせてきた。あっていいものなのか、いいものなのか。

 式は進み、会場の人が夫婦に一言しゃべって退室する場面に来た。ここら辺日本と変わらないな。そういうもんなのか。

 ここで、ユキ・サースパンダーは無事ですっていえばいいか。一言だけ、無事っていえば。


 あと数人で私の番だ。頭の中で文言を考える。


『このたびはおめでとうございます、佐原雪です。私の友人ユキ・サースパンダーは無事に生きてますよ、ありがとうございました』


 こんな感じか。落ち着いて、落ち着いて。


「こんにちは。この度は私たちの結婚式に来てくれてありがとう。ゴリアを走破したんですって?」


「はい、そうです。佐原雪と申します」


「へえ、ゆきなのね。ユキ・サースパンダーって人を探しているんだけど、知らないかしら?」


 もろにハートにブロウされた。


「ゆ、ユキ・サースパンダーは知り合いです。元気でやってます。あの酒場でゆき、私は大丈夫という暗号を私も持っています。だから、だから……」

「あ、あなた知ってるのね!? どこにいるの? 元気ってどれくらい? ねえ、教えて! 後で私の私室にきて! おねがい!」


 もう涙が止まらなかった。衛兵に肩を借りてニーアお姉様の私室へといざなわれた。


 数時間後、ニーアお姉様はやってきた。


「この度はありがとうね、ユキ」

「ありがとうございます、お見苦しいところを見せて申し訳ありません。ユキ・サースパンダーはインタスタラ帝国で――」

「嘘はいいわ。あの子の素質があるならばインタスタラ帝国は強制命令ができる道具を使って操るから」

「いえ、私は佐原雪でして」

「そういうところがユキなんだけど。まあいいわ、この国には鑑定の神と転職の神そして融合の神を呼び込める神殿があるわ。あなたには悪いけど、鑑定の神に鑑定してもらう。3職同時兼務していて、それのうち聖女系と勇者系があれば確実にあなたはユキなの。あなたはもう白状しなくていい、懺悔しなくていい。今命令書を書くから。そこで判明したってことにしましょう。もうユキとしかみていないんだけどね」


 お姉様の優しさにもうボロッボロに泣きながら客室で寝かせてもらう。しかし王宮は凄い豪華だな……。お金があるんだろう。


 次の日、鑑定の神にみてもらう。上級聖女、大賢者、勇者を持っていることがわかり、ユキ・サースパンダーと正式に認められる。


「ばかぁぁぁぁ!! もっと早く公表しなさいよぉ!!」」

「ごめんなさい、私は家族や友達を破壊してここまでたどり着いたので、お姉様まではと」

「そんなのいいのよぉぉぉ!!」


 ニーアお姉様と抱き合う私。でもニーアお姉様は空を飛ぶ種族だから凄く華奢で、もろいから、優しく、優しく、抱きしめる。それをみてニーアお姉様は。


「そういうところがユキなのよ。本当に優しい性格になったわね。うち我が国は私が死ぬかもって時以外は呼ばないからさ、安心して諸国を見て回りなさい」

「ありがとうございます、お姉様」

「もー、鼻水垂らしすぎ。替えのタオル持ってこなくちゃ」


 それから二人のこれまでのことをいっぱい話した。今度はニーアお姉様がタオルを三枚も変える羽目になった。

 ニーアお姉様はそもそもここに来ることが決まっていたそうだ。王族と婚姻するとは思ってもみなかったそうなんだけど。

 武者修行に来ていた新郎さんを冒険者ギルド員としてビシバシ教育していたら惚れられたんだとか。お姉様なにげに姉御肌だもんね。

 こっちの国は文明度からして違う、普通の娘としてきても安心できるだろう。だからあの酒場のメッセージを残せたんだね。


「あくまどだだがっだっでのばぼんとう?」

「悪魔と戦ったかですね、はい、戦いました。さほど強くはなかったですけど、それは弱点がはっきりとしていたので」

「わだじのいもうどば、ぜがいいぢ」


 ああ、なんか心が洗われていく。お姉様ほんまもんの天使や……。


「ずびーっ! ふう、しかしユキは体も顔もよくなったね!」

「ちょ、お姉様、恥ずかしいです」

「いや、本当よ本当。私は骨格が弱いからこんなにしっかりと胸やお尻つかないからなあ。ねえ、お尻はたかせてよ」

「なぜ!? だめですよいくらお姉様でも」

「じゃー今日はゆきを抱いて寝ようっと。王家の命令である、拒否権はない! どやぁ!」


 なにそれー! っと言っているうちに王女の部屋へと到着。「一緒に寝るからじゃましないでー」とだけ執事に申して二人は秘密の花園へ。


 まあ、お疲れですぐにお姉様は寝たんですけどね。

 せっかくなのでお姉様をなでなでする。

 美しくきめが細かい肌。

 つやがあって綺麗な薄い灰色の翼。本当にこれで飛んでいるのではなくて、これに浮力を魔法で重ねているっていってたな。

 綺麗だあ、お姉様。本当に、綺麗。


 この国に来て、本当に休めていると思う。原住民と、ここと。

 最前線配置からもう何ヶ月たったんだろう。あそこの選択ミスですべてが……。

 いろいろ失って、いろいろ耐え抜いて、ここまで来た。ここは休め……る。お姉様が王女だもん。いい国に決まってる。別に王宮に泊まるわけじゃなくても宿屋でゆっくりはできる。


 すこし、やすもう……

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