第6話 追放された先には無限の大陸が。

「お前が氷雪の悪魔か」

「そう呼ばれているならそうだと思います」


 私は今、インタスタラ帝国皇帝ヴェルヘイム・ミドラ・ヌンタス・インタスタラ帝の面前にいる。魔法を封印する首かせをつけられて。ただ、この程度の封印ならいつでも簡単に破壊できる。その気力はもう残っていなかった。


「お前のせいで最前線はぐちゃぐちゃだ。どう責任を取ってくれる」

「わかりません」

「ハッ、皇帝の前でその言い草、さすがは氷雪の悪魔といったところか。お前には刑を受けてもらう」

「何でもどうぞ。もう、疲れました」

「極刑に示されたいのか」

「わかりません」

「そうか。お前は国外追放だ。南に放逐してやる。冒険者ギルドが生存と自由の保障などとほざいてきたのと、お前がいなくなってあちらの士気が崩壊したことによる逆前進を鑑みてな」


 あっけにとられた。ほとんど無罪で追放されることになる。

 呆然としながらも、国境まで連行され、私の封印を解いた瞬間に荷物とともに〈エアシュート〉で思い切り飛ばされ、郊外へ出た。ただ、朝陽は捕まったままだ。もう戻れない、朝陽とはここでお別れになるのか……。いいようのない悲しみで涙が触れて止まらなかった。


 ……私に関わる全ての人が、私を生かしたんだ。進まないと。生きないと。


 話によると、ここゴリアを進んで内海アザトをぐるっと回っていくと、旧道がある。そこを進んでいけばクラッチという国に出るという。

 いける、はず。


 とにかく早歩きでアザトを回っていく。食料がないのだ。一応石弓を買ってある。ただほぼ使っていないのでスキルレベルが0に近い。狩りになるかどうか……。ボルトだって有限だ。


 防具は一式まとめてバックパックに収納した。今は移動に必要なもの以外は持つ必要がない。


 ゴリアは森林と草原が入り交じった土地だ。鹿や猪系の魔物や動物は豊富にいる。何度も石弓で狙ったが、全然当たらない。お腹がすいてくる、辛い。


 石弓は練習し続けるとして、大賢者の自己バフで突撃を試みることにした。


 これが上手くいった!! 私の突撃に猪や鹿は反応できない!! 魔物類は逃げてしまうが、動物の肉が手に入る! 狙った相手に翠乃沃土を結構な大きさの短刀にして一発で心臓を突き刺す。結構暴れるが花草水月で首を跳ねればそれまでだ! 勇者訓練の成果がここで出るとは!


 野営して久しぶりに肉を味わう。ああ、本当に美味しい。朝陽が狩りをしてくれていたので狩りの辛さを忘れていた。朝陽は今何をしているんだろうな、朝陽の能力なら逃げ出すことも容易なはずだ。


 幾日も歩き、旧道らしき物を見つける。本当にこれで合っているんだろうか。だけど、人工の道はこれしかない。歩いてみるか、外れだったらゴリアで彷徨って死ぬ。それだけだ。


 旧道を歩いている最中に放棄された村を見つける。



 あってる……!



 とにかく歩く。歩く歩く歩く。

 めげずに練習し続けた結果、ここ最近は石弓が猪などの脳天を貫くようになっていたので狩りがとても楽になっていた。加工した石と木を〈強力粘着ジェルネバネバ〉でくっつけ合わせればボルトになるしね。

 服はあまり洗わなくなっていた。原始人だ。ただ、洗うとどうしても衣服が擦れて消耗してしまうのだ。

 追放されてからの日にちを数えていたけど、途中から数えるのをやめた。ゴリアは本当に広い。皇帝もここで飢え死にさせるつもりだったんだろう。もう半年以上歩いている気がする。一つ目の靴はエンチャントもかかっているし何度も〈修理〉を掛けたけどボロボロになってしまった。予備の靴がボロボロになる前にはなんとかたどり着きたい。


 髪の毛はもうジョッキジョキに翠乃沃土ので切っている。ハサミなんていらない。誰もみないしショートにするだけならナイフで十分。長い髪は邪魔なだけだ。

 翠乃沃土が心配してくれているけど、大丈夫、まだ私は人間だ。花草水月が話し相手になってくれていなければ人間をやめていたかもしれないけどね。



 二つ目の靴がボロボロになった。でも私には接着魔法がある。放棄されていた村から革を探し出し、接着する。革そのものがボロボロだけど、まだまだ歩ける!! まだまだ!!


 服がボロボロになったので着替えることにした。つぎはぎしつつ使うけど、これがだめになったら、さすがにもう……人間としての気力がなくなってしまう。下着は余分に持ち歩いていたのでまだ大丈夫だ。

 もうスパッツとガーターベルトおよびタイツはない。素足なので虫がよってくる。〈消毒〉した泥を塗って対処することにした。泥は虫除けには有効なんだけど、泥の中の細菌に汚染されるんだよね、ウィキ辞典でみた。だからの消毒。


 だんだん放棄された村の間隔が短くなってきている。多分、近いはずだ、多分。ただ、放棄されているんだよね……。でもあと少し! 気合いだせぇ!!


 野営するために火をともし、肉を焼いているときに。




 ついに人と遭遇した。狩人だろう、弓矢を持っている。そして私を狙っている。




 とっさに手を上げて戦う意思がないことをアピール。でもこれ地球のアピール方法だよね、通じるだろうか……。


「もとあげ!」


 もとあげ? もっとあげろ? かな?


 手をまっすぐ上げる。私は人に出会えた時点でぽろぽろ泣いていた。


「てけ。なか」


 これ、多分あくー文明が作った世界統一語がなまって聞こえているんだ。


 そっか、そんなところまで来たのか。


 でも、


 でも、



「生き延びたよー! 朝陽ー! みんなー!」


 ぼろっぼろに泣いている私をさすがに敵とは思わなかったようで、軽くボディチェックをして、花草水月を取り上げられて、「こい」といわれたのでついて行った。


「ぶき、きけ、とる」


「はい」


 そして私は村に案内された。地球でいう、原住民みたいな人たちだった。

 男性は上半身は簡素な服を着ているけど服がものすごくきれいな模様があって。

 女性は本当にきれいな服装で。上半身は逆に裸だけど、下半身に赤い布を何枚も重ねてきていて。


 私はどうすればいいのかなと思っていると、ふっつーの服を着た男性が近づいてきた。


「こんにちは、ゴリアを走破してきたのですか? あ、私はワトソンと申します。ここの通訳をやっているものです」

「世界統一語だ……。はい、北のインタスタラ帝国から追放されまして。ここまで、なんとか」

「あそこからか……。すごい気力です。まずはゆっくりとお湯につかりましょう、ここには温泉がありますので。ああ、まずは泥を洗い流しましょう」

「はい」


 もうほとんど気力が残っていない私は、なすがままに温泉に入って、なすがままにベッドに横になって、数日寝ていたのであった。

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