第5話 何で私はこんなことを、しているんだろう……。
まあ現代社会が特殊なだけで、水運が盛んなところに首都や主要都市が建っているもんなんだよね。東京も水運が凄い盛んだもんね。
というわけで首都「アベラーナント」へ到着。到着してすぐに転職の神が司る機械で食とレベルをチェックされたけど、やはり聖女と賢者が振り切っていて故障。すぐさま大神殿の機械で診断された。
「こら凄いな。3職同時兼務で聖女と賢者がコレでもカンストしている。壊れはしないがやはり神を呼んで判断しなければならん」
と、神官が言う。
「あのー、振り切れているだけでそれでお仕舞いにはなりませんかね? あんまり目立つわけには」
「そうはいかない。我が国では素晴らしい戦力を一人でも必要としている。神であれば進化転職も出来るであろう。今の職ではパワーに限界を感じてはいないか? 上位転職すればパワー上限が解放されて今までより強い魔法や奇跡が起こせるぞ。もちろんそれには条件が必要だが」
「軍隊への従軍、ですよね。モンスターや魔物ばかりで人を殺した経験があまりないのですが……」
「後方勤務なんて足りないほど必要とされている。傷ついた兵士を直さなければならないからな」
ニタァと笑う神官。……やるしかないか。
神殿奥に構築されている魔法陣の真ん中に立つ。複数の神官がなんか真言らしき物を唱える。少しくらっとしたが意識はまともに保持することが出来た。
「あーらー凄い人を持ち込んだわねえ。上位職業にする甲斐があるってもんだわあ」
官能的で色香のある女性が出現した。うっわほとんど下着やん。マジかー。
「わ、私は一体何になれるのでしょうか」
「聖女と賢者が上級職に上がれるわね。勇者はまだ足りない。聖女は上級聖女、賢者は大賢者ね。名前はあまり面白くないけど力は基本的レベルで違うわよ。次は聖者と至高賢人って所かしらね。名前は今考えたものだけどね、到達した人はいないから。でも貴女ならなれるかもね」
そして転職の神様に言われるまま、魔法陣の中心で祈りを捧げる。まあ、黙祷なんだけど。
少しの間何もなかったけど、突然何かが始まった。その次の瞬間に体も精神も変わっていく。コレは凄い……。
転職してぐったりした後、神様にキスをされて、神様は去って行った。
体が落ち着いた後、転職の機械で今の状況を調べる。
上級聖女Lv1
大賢者Lv1
勇者Lv27
変わってる。
力は結構落ちたのがわかる。Lvが巻き戻されたからだろう。
でも今まで使っていたスキルは十分使える。ここからさらに伸びるのか……。
神官達には力がめちゃくちゃ弱体化したと述べたがすぐにバレた。ステータスまでバレているみたいだ。教えてはくれなかったけど。
凄いな、転職の神様とその眷属は。
私の力はものすごいようで、前金として200ユドもらった。これでサラマンダーなどの装備を調えろって感じだ。
朝陽ですら私の力を感じ取ったのか一段階態度が下がった。
「ふう、これはものすごい装備を調えないとなりませんね。全てに単体エンチャントを施しましょう。サラマンダーの革で全ての革素材をまかなえそうです。武具は系列店であしらえます。腕につけるブレイサーと足につけるグリーブ、胸を守るハートガードは鋼鉄ではなく魔鉄で作成いたします。ミススルがあればそれで作成したのですが……」
魔鉄、全てが鋼鉄――しかも地球の上級素材である工具鋼――の各種ステータスを超える、魔石と鉄を混ぜ合わせた素材で、魔力の浸透性も高い。
最高品質の魔鉄は鉄が87.386213パーセントの時。どこの国も秘匿している情報だが、賢者だと成分鑑定できちゃうので……。
コレなら周辺にも〈増加装甲〉を展開できる。今までのように魔法防御が貫通することはまずないだろう。
しかしこれは……、社畜の道を歩んでいる。最強の切り札として戦線に投入されるだろう。私はもう社畜はこりごりだ。でも、社畜になるしか道が残っていない。軍畜とでも呼べばいいか? くそが……!
この後厳しい近接訓練が待っていた。かなりきついが、私の体力は普通の人材をかるく超えている。ビジバシ鍛えられて勇者レベルは40まで上がった。嬉しいが全く嬉しくない。35歳の日本人と16歳の少女が人殺しをするんだぞ!?
程なくして私は最前線に投入された。場所は最激戦区「インベレクト」ものすごい死傷者と魔法が飛び交う場所だ。
そこで私は人を殺す。16歳が、大賢者となって使えるようになった範囲魔法で人を焼き殺し、塹壕を潰していく。
なんなんだよコレ、なんだよコレ。16歳がやるようなことじゃない。私はまだ子供なんだ!! 社畜以上の出来事だ。集団殺戮だ。16歳にこんなことをさせていいのか!?
私が前線で人を殺した後、後方に戻って〈集団回復〉を使って兵士を回復させる。さっきまで骨折していた人が、はらわたが出ていた人が、私の聖女の力で一気に回復し、私が常時発動してしまっている〈士気向上〉で前線に戻っていく。
こんなの、こんなために、私は3職同時兼務をしているわけじゃない。
私の気持ちとは全く別に、前線は進んでいく。私の力で。馬鹿みたいな力で。
もうやだ、もうやだよ。
「もう戦えません、私は16歳なんですよ」
「これを飲め、また戦えるようになる」
飲もうとしても、飲めなかった。〈防壁〉が働いた。やっぱり麻薬なんだろうな。
後金500ユドをもらって、私は一度前線を引いた。
もう耐えられなかった。35歳なら冷徹に「仕事をした」だろう、社畜過労死したんだから。でも16歳の私が耐えられなかった。
前線から戻る振りをして、北の泥沼化した戦線「マグアチ紛争地帯」へと足を踏み入れた。逃げ出したのだ。
私のせいで死んだ兵士も出ただろう。士気が崩れて前線に穴が開いただろう。
でも無理だった。
16歳という年齢が全てを拒絶したのだ。
マグアチ紛争地帯は本当に紛争らしく、街は破壊され交通網も寸断されていた。
朝陽に乗りながら移動すれば目標になりやすく、反射的にその人を殺してしまう。
ゴールデンレトリバーになってもらい、隠れながら進んだ。気配を消すことは成功し、夜間野営を出来ないことに難儀しつつもマグアチ紛争地帯を抜けることに成功した。
そう、インタスタラ帝国に移動したのだ。めちゃくちゃにインタスタラ人を殺してインタスタラ帝国に逃げ込んだ。処刑されることを覚悟して。
インタスタラ帝国といえども、全てを管轄しているわけではないので街を避けて移動した。
それでも消耗品が足りないので、村を訪れた。
見事に捕まった。紫のマントに太ももが見える青のミニスカートの赤い髪の女性は誰でも知っている姿だったから。
私もこれまでかな。
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