第23話 バルベルデ=ルドヴェキア二重王国

 俺が急遽、バイオレットを側室にしたのは、ルドヴェキア共和国の愛国者を抑え込む為だ。

 衰退が著しいルドヴェキア共和国だが、以前、読んだ報告書では、鉱物資源が豊富らしい。

 ただ、天然の要塞が故に採掘出来る人材がおらず、宝の持ち腐れとなっていた。

 不意打ちの侵略とも解釈出来るが、この世界は、食うか食われるかだ。

 平和的交渉など、そんな甘い話は通用しない。

 帝国が、簡単に戦争を仕掛けて来たように。

 戦争に対するハードルが低い。

 バイオレットが半ば強引に俺の妻になったのは、ルドヴェキア共和国の保守派の反発を買ったが、それも彼女の説得と、侵攻した竜によって鎮圧される。

 レムリア大陸暦1111年11月11日。

 レムリア大陸全土に、バルベルデがルドヴェキア共和国を併合し、新国家「バルベルデ=ルドヴェキア二重王国」の成立が通達された。


「二重王国、って?」

「バイオレットは、対外的には、王族のままだからな。旧ルドヴェキア共和国地域の責任者として、表面上は居てもらう」

「……悪い人」

 リリスは、俺の頬を指でつつきつつ、背中に抱き着く。

「仕事中だけど?」

「正妻に無断で側室を作った罰よ♡」

 背中に顔を埋めて、リリスは、頬擦り。

 う~ん、仕事しづらい。(-_-;)

「オー、ヨ」

 カチャン、といつもより乱暴にお茶が置かれる。

「あ、有難う―――ぐべ」

 渋茶に俺は、中身を噴き出した。

「……シャーロット、さん?」

「……ナニ?」

 ゴゴゴゴゴゴ……、と威圧感半端ない。

 あれれ?

 シャーロットさん、嫉妬深い感じ?

「何でもないです」

「ワタシモダイジニシテクダサイ」

 プンスカ怒りつつ、隣に座る。

 エルフ族の嫉妬、良きかな

 シャーロットを愛おしく感じ、抱き寄せる。

「シゴトチュー―――」

「今日は、報告書読むだけだから」

 ぶっちゃけ、1日の99%が暇なのだから、イチャイチャしても誰も文句は言わない。

 シャーロットを膝に乗せて、抱き締める。

「オー、ハズカシー……」

「愛いやつじゃ。愛いやつじゃ♡」

 赤面するシャーロットのお腹を撫でる。

 夫婦なので、合法的なセクハラだ。

「主……」

 放置プレーされていたマーシャが、隣に座った。

 今にも泣きだしそうな顔だ。

 いや、1分前に会話していたよね?

 若干、呆れつつ、俺はその彼女も抱き寄せた。

「主♡」

 時刻は、昼の1時過ぎ。

 外は明るいのに、もう王宮では、深夜のような雰囲気だ。

「……あの、陛下?」

 隅っこで様子見していたバイオレットが挙手した。

「ん?」

「……いつも、こんな感じ?」

「まぁね。暇だからね」

「……私はどうすれば?」

「やる事無いなら、ここに来てくれないか?」

 隣の席に座る様に促す。

「……それは、命令?」

「受け取り方次第だ。俺は、君と対等に接したい」

「……分かったわ」

 ため口なのは、勅令だ。

 通常であれば、敬語が望ましいのだろうが、侵略した、という良心の呵責から、ため口を許している。

「……」

 バイオレットは、俺の隣に座った。

「……報告書、見ても?」

「良いよ」

 報告書は、1枚1枚、国家機密だが、俺が許した者は、誰でも読むことが出来る。

「……凄い。我が国の情報が、事細かく……」

「情報は鮮度と精度が命だからな。今後、ルドヴェキアは、主権を放棄した一部を除いて、発展していく筈だ」

「……」

 自分が出来なかったことを俺が代わりに行っている。

 これで、バイオレットは、ルドヴェキアにとって売国奴になったが、案外、反発は少ない。

 ルドヴェキアの国民性が緩やかなのか、怒る気力も無いくらい、衰退しているのか。

 尤も、彼女は、歴史書には、代表的な売国奴として紹介される筈だ。

「(……遅かれ早かれ、我が国は、吸収されたね)」

「「「「……」」」」

 その小さな声に俺達は、何も言う事が出来なかった。


「なんですって……」

 私は、ルドヴェキア共和国の消滅の報告に驚いた。

 ガチャン、とマグカップを落とし、破片が飛び散る。

 報告者の永久子も信じられない顔だ。

「……帝国は、バルベルデを敵視し、再び兵を集めているけど……かんばしくないみたいよ?」

「そりゃあ、ね……」

 バルベルデに大敗した後の帝国の凋落ちょうらくっぷりは凄まじい。

 フィリップの能力を疑問視した貴族の一部が挙兵し、王都に反乱軍が接近。

 フィリップは慌てて、兵を搔き集めて、対抗するも、余り集まらず、結局、戦死覚悟で自分が最前線に立ったことで漸く士気が上がり、何とか鎮圧に成功した。

 然し、それでも、不満分子が居なくなった訳ではなく、帝国は内部分裂の危機にあった。

 崩壊していく帝国は、無視して、今は、ルドヴェキア共和国だ。

「……バイオレットは?」

「バルベルデの新王に交渉の際、連れ去られ、そのまま側室になったようです」

「そんな!」

 バイオレットは、友人だ。

 ベケットが提案する。

「今回のは、騙し討ちの可能性があります。いずれ我が国が毒牙に遭う可能性があります。早急に軍事力を整え、万が一に備えた方が宜しいかと」

「……そうね」

 ぐうのも出ない意見だ。

「……バルベルデにもっと沢山の間者を。我が国を守る為に」

「は」

 ワレンシュタイン公国の基本方針が決まった。

 バルベルデは仮想敵国である、と。


 諸外国の間には、バルベルデの騙し討ち説が有力視されていたが、意外にも旧ルドヴェキア共和国国民の評判は良い。

 祖国は無くなったが、経済成長が著しいバルベルデに吸収されたのは、即ち、その恩恵を受けることが出来る。

 念入りな実地調査の下、ルドヴェキア共和国の90%が、バルベルデの主権下に入り、残りの10%の地域は、無政府状態になった。

 そこを帝国等、諸国家が狙い、入るも、バルベルデとの併合を望む地域住民や、独立派、旧体制支持者との間で内戦に突入。

 そもそもこの地域には、バルベルデが実り無し、と判断した地域であった為、当然、主要産業は殆ど無く、諸国家が派兵後に後悔したことは言うまでもない。

 この10%の地域は、以後、泥沼の内戦状態で多数の死傷者が出るのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る