第34話 新生活

 明日香の嫁入りにより、これで俺の妻は、

・マーシャ

・リリス

・シャーロット

・バイオレット

・サーシャ

 に続いて6人目となる。

「大所帯だね」

「そうなるな」

 明日香のジト目をひしひしと感じつつ、俺は、病院に居た。

 急にシャーロットが破水した為、慌てて、病院に連れて行った所、そのまま、出産になった訳だ。

 リリスが助産師と共に居る為、難産死する可能性が考え難いがそれでも、心配だ。「……主、そんなに心配?」

「親になるからな」

「私も母親になりたいです♡」

「いずれな?」

 マーシャの頭を撫でていると、明日香が問うた。

「その子とは1番の仲良し?」

「そうなるな」

 肯定すると、マーシャが今日1番の笑顔を見せた。

「主~♡」

 その様子に、サーシャが、

「けっ」

 と舌打ち。

 いつものことなので、呆れているのだろう。

『オギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』

 産声に俺は、マーシャを抱っこしたまま立ち上がった。

 数瞬後、分娩室の扉が開いた。

「おめでとうございます! 元気な娘さんです!」

「おお!」

 俺は慌てて、分娩室の中に入った。

 シャーロットが、赤子を抱っこしている。

「オー、ムスメ♡」

「そうだな」

 赤子も大事だが、俺の優先事項は、シャーロットだ。

「リリス、シャーロットは?」

「無事よ」

 リリスは、シャーロットの頭を撫でる。

「あら、可愛い子」

 バイオレットが覗き込んだ。

 女の子は、シャーロット似の美人であった。

「可愛い……♡」

 母性が刺激されたようで、明日香もテンション爆上げだ。

 バスや電車で赤ちゃんと乗り合わせた女子高生が、その可愛さに目尻を緩ませていたことを思い出す。

(賑やかになるな)

 俺も笑顔になりつつ、赤ちゃんを抱き抱えるのであった。


 出産後は、暫く母子共に経過観察する為に入院するのが、通常であるが、シャーロットはそれを拒み、通院を選んだ。

 慣れない病室よりも、慣れた王宮の方が過ごし易くストレスも少ない、という理由だ。

「……」

 目が明かない赤ちゃんは、一心不乱にシャーロットの母乳を吸う。

「そう言えば、名前は決めているの?」

「それがなぁ。可愛すぎて決めれないんだわさ」

「は?」

 明日香が固まった。

「一生の名前だからな。決めても子供の顔、見たらね」

「……優柔不断」

 一生、無名、という訳にはいかない為、早めに決めた方が良いのだろうが、我が子の一生を考えると、熟考せざるを得ないだろう。

「もう、私が決めようか?」

 バイオレットが、挙手した。

「名付け親?」

「そうよ。余りにも遅いから」

「シャーロット、良いか?」

「イーヨ。デモ、ナマエシダイ」

「そりゃあそうだ」

 名付け親には悪いが、子供の人生だ。

 名前次第では、拒否することは当然あり得る。

「リン、はどう?」

「ほぉ、意味は?」

「鳥人族の間に伝わる古い言葉で、『愛』よ」

「シャーロット、どうおもう?」

「イー、ナマエ」

「じゃあ、決定だな」

 こうして我が子の名前は、『リン』に決定した。

 

 俺とエルフ族の混血児は、人間族と魔族の融和の象徴シンボルとなった。

 エルフ族自治区では、連日、飲めや歌えの大騒ぎ。

 酒を飲み過ぎて喧嘩が起きる事例も相次いだ。

 真夜中。

「オギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 夜泣きするリンを俺はあやす。

「元気だなぁ」

 中には、この声を不快に感じる人も居るだろうが、赤ちゃんは泣くのが仕事だ。

 それを責めるのは、御門おかど違いである。

 俺は、抱っこしつつ、哺乳瓶を飲ませる等し、落ち着かせる。

「オー?」

 隣室からシャーロットが起きて来た。

 彼女は、明日香達と寝ている。

「ああ、うるさかった?」

「カワル」

「いい。寝とき」

「デ、デモ―――」

「お昼の為に寝とくんだ」

「……ワカッタ」

 強い口調にシャーロットは、渋々ながら納得した。

 退室直前、俺にキスして去っていく。

 愛児に愛妻、俺は幸せ者である。

 じー。

「ん?」

 ふと視線を感じ、見下ろす。

 リンと目が合った。

「……?」

「落ち着いたか?」

「ウー……」

 もっと寄越せ、とその視線は哺乳瓶に固定化されている。

 まさに野獣の眼光だ。

 元来、森林に住むエルフ族である。

 空腹で、元々持っている獣としての遺伝子が、刺激されているのかもしれない。

「よしよし」

 ぶっちゃけ、死ぬほど眠たいが、それ以上に幸せが勝る。

 散々、泣いて、空腹になれば怒り、排泄は自分で制御できない。

 とんだ暴君であるが、それ以上に可愛さが勝る為、問題無い。

 哺乳瓶を咥えさせると、リンは、また一心不乱に吸い始めた。

(凄いな)

 感心していると、リリスが代わりの哺乳瓶を持って来た。

「あ、グッドタイミングね」

「ああ、ありがとう」

「いいのよ。気になっていたし」

 リリスとは血の繋がりも無い子供だが、夢魔目線でも美人らしく、彼女は、その尾能に嫉妬半分羨望半分と言った感情で接していた。

 2本目の哺乳瓶を机上に置いた。

「交代するよ」

「ありがとう。でも、無理っぽい」

「どうして?」

「見てみ」

 俺がリンを見せる。

 片手は哺乳瓶を掴んでいるが、もう片方は、しっかりと、俺の腕を掴んでいた。

 小さな手で握力も殆ど無いが、それでも、温かさはある。

 この感触に心地よさを覚えていた俺は、リンと深夜でも離れることが出来なくなっていた。

「……ファザコンなのかな?」

「そうだと嬉しいな」

 俺は笑顔でリンを撫でる。

 帝国を破り、ルドヴェキア共和国を併合し、ワレンシュタイン公国を属国化した魔王は、家の中では、愛妻家にして子煩悩な父親なのであった。


[後書き]

 短期集中連載、ということで、速足ですが、今回でお話は終わりです。

 本当は、20話構成でしたが、話が含まり、34話まで書くことが出来ました。

 今後は、続きを書くかどうかは分かりませんが、場合によっては、少し修正を加えて、連載再会するかもしれません。

 お読み下さり有難う御座いました。

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男子高校生、転移先で魔王になる パンジャンドラム @manjimaru

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