第33話 終戦宣言

 電撃的なワレンシュタイン公国の共和制化は、レムリア大陸全土に衝撃を与えた。

 然も、

・外交

・国防

 もバルベルデに委任するというのは、事実上の属国となった。

 明日香、ベケットは拘束された状態で、俺の前に引き出された。 

「……」

 明日香は、ぼーっとした状態で俺を見つめている。

「……永久子、大丈夫なのか?」

「大丈夫よ。死にはしなさい。それで開戦は無い?」

「無いよ。わざわざ、軍費を無駄にする事は無い」

「……ありがとう」

 永久子は、明日香を抱き締める。

「もう大丈夫よ」

 俺は冷めた目で2人を眺めた後、ベケットを見た。

 好戦的な表情で、今にも飛び掛かりそうな勢いだ。

「……魔王よ。貴様は、一線を越えた」

「何を?」

「人間領の国家を従属させたんだ。もう、人間領諸国家全体を敵に回した! 魔族は、人間に平伏ひれふす存在だ!」

「……主、噛み殺しても?」

「まぁ、待て。急かすな」

 マーシャを抑えつつ、俺は、確認した。

「永久子、全責任は、こいつになすりつけたんだよな?」

「うん」

「分かった。じゃあ、マーシャ、任せるよ―――」

「待って」

 リリスが挙手した。

「そいつは腐っても男だから、殺す前に血抜きしたら良い」

「分かった。だが、最後はマーシャだ。殺すなよ?」

「分かってるって」

 リリスは、俺の頬にキスした後、瞬間移動でベケットを連れて何処かに消える。

 マーシャも同じように消えた。

「……オー、アノオトコ、コロシタカッタ」

 わなわな、とシャーロットは、握り拳を震わせる。

 あれほど、魔族を軽視する人間族に殺意を抱くのは当然のことだろう。

「ナンデ、ワタシ、ダメ?」

「妊婦に殺人を犯させたくないんだよ」

「……ウン」

 シャーロットの手を握る。

 永久子が、真剣な眼差しで尋ねた。

「それで……明日香は、どうなるの?」

「永久子はどうして欲しい?」

「……助けて欲しい」

「ソノマエニイウコト、アル」

 シャーロットの視線が鋭くなった。

「……前の時の御免なさい」

「……御互い様だ」

 文字通り、水に流す。

 サーシャが、ゆっくりと近付いた。

「永久子……」

「サーシャ……」

 2人は抱き合って再会を喜んだ。

「バイオレット、解けるか?」

「……良いの?」

「何が?」

「そのままの方が良いんじゃない?」

 バイオレットを見た。

 その目は真剣だ。

「……というと?」

「現実に戻したら発狂するよ。きっと。国が無くなっているんだから」

「……だろうな。でも、事実だ。曲げられん」

 俺は、この数日、ある決意を秘めていた。

「……娶るからな」

「「「「!」」」」

 シャーロット、バイオレット、サーシャ、永久子が驚く。

「人生を奪ったんだ。だったら、俺の人生を差し出さないとつり合いが取れんだろ?」

「……向こうは嫌っているかもよ?」

「その時はその時だ」

 改めて、バイオレットを見ると、彼女は心底呆れた様子で、

「……知らないからね」

 最後に念押し後、禁呪の呪文を呟くのであった。


 私は、夢を見ていた。

 何処かの村で、景虎と仲睦まじく過ごす夢だ。

「明日香、乳絞り終わったよ」

「御疲れ様」

 景虎の肩を揉む。

 私達は、元国王と元女王の夫婦だ。

 別々の国であったが、色々あって一つの国になった。

「……公務、どうなっているかな?」

「後輩が頑張っているから口出ししちゃ駄目よ」

 私は、釘を刺した後、景虎の膝に乗る。

「ん?」

「私達がやることは、次世代を産むことよ」

「……そうだな」

 我ながら、積極的だ。

 以前は、恥ずかしさが勝り、こんなことは絶対出来なかった筈なのに。

「……好き♡」

「俺もだよ」

 私達はキスをし、そのまま寝室の方へ向かった。

 

「……え?」

 目覚めると、見知った顔が近くにあった。

「おお、お早う」

「な、なんで!?」

 景虎は、柔和な笑みで答える。

「終わったんだよ。何もかも」

「何が!? ……戦争は?」

「無くなったよ」

「どうやって―――」

「ベケットが明日香に毒を以て王位簒奪を図ったんだよ。それで、政府が分裂し、内戦一歩手前で、将軍が政変で全てを引っ繰り返しんだ」

「……じゃあ、国は?」

「王制を保てなくなり、共和制になった」

「……ここは?」

「バルベルデの王宮。俺の私室だよ」

「……どうやって?」

「永久子が助けを求めて来たから、俺が派兵し、2人を救出したよ。ワレンシュタインも今は、友好国だ」

「……そう、なんだ」

 あれほど敵視していた景虎に命を救われるとは。

 穴があったら入りたい気分だ。

 私が顔を真っ赤にしていると、

「無事でよかったよ」

 と、景虎が抱き締める。

「……浮気じゃない? これ?」

「かもな。でも、追認だよ」

「え?」

「シャーロット」

「ウワキモノ~」

 ベッドの下からエルフ族が出て来た。

 アメリカの都市伝説の一つ、『ベッドの下の男』みたいに。

「……」

 シャーロットは、私を一瞥すると、景虎に抱き着いた。

 そのお腹は、以前、見た時よりも大きい。

 着実に妊娠が進んでいるのだろう。

「……父親になったんだ?」

「そうだよ」

「……先越されちゃったな。そのこに」

「好きだった?」

「まぁ、ね」

「……俺は、今も好きだよ」

「はい?」

 空耳だろうか。

 見ると、景虎は、真剣な表情で私を見ていた。

「……嫌なら無理強いはしないけどさ。結婚してくれないか?」

「……色々と素っ飛ばしてない? 告白とか交際とか」

 景虎は、シャーロットの殺意にもめげずに続ける。

「YESかNOかで答えてくれ」

「……若し、NOだったら?」

「修道院で暮らしてもらうよ。国民の中には、人間族を嫌う者も居るからな」

 殺害対策の為の隠居、ということらしい。

「……生活費は?」

「そりゃあ年金だよ」

「……まだ60代でもないのに?」

「YESかNOか?」

「……そりゃあYESよ」

「ありがとう」

 答えに満足したのか、景虎は、私の頬を撫でる。

 そして、次にシャーロットにキスした。

 今、求婚した癖にこの行動だ。

 舌の根の乾かぬ内、とはよくぞ言ったほどである。

 かくして私は、どういう訳か、景虎と夫婦になった。

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