第2話 幼馴染と学級委員長、王女と秘書官になる
(景虎……)
私は、泣きながら、探す。
同行する永久子も珍しく焦り顔だ。
廊下を歩いている間、教室から激しい明るさを感じた、と思ったら次の瞬間、地球外に飛ばされた。
何故、地球外って分かるかって?
じゃあ、論より証拠。
画角が、私達の歩いてきた道を映す。
そこには、スライムや
私が斬った者達が、紙くずのように、横たえていた。
「……明日香、ここって?」
「多分、異世界なんだと思う」
「アニメとか漫画の?」
「うん……」
認めたくは無いが、殺した感覚がある為、現実なのだろう。
(昔、漫画で読んだ通りだね……達成感、というより苛々する)
根源は、恐らく、心理的忌避感。
スライムの時は全然抵抗が無かったが、リザードマン等の人型は、やはり、どうしても
それでも殺せたのは、やはり、「永久子を守る」という大義名分があったからに他ならない。
景虎を探しつつ、森林を歩き回る。
どれくらい歩いただろうか。
もう足がパンパンになり、競歩した時くらいに疲れている。
吐きそうだ。
一応は、ヒロインなので、嘔吐するのは、許されないことだが、恐らく、史上唯一のゲロインなる新たな概念を確立させた神〇ちゃんが居るように、ワンチャン、許されるかもしれない。
「……」
木陰を探す。
ついでにトイレもしたい。
必死に歩きつつ、遮蔽物となる大木を探していると、
ガサゴソ……
木陰から物音が。
「「!」」
私達は、緊張してそっちを見た。
数秒後、木陰から、100歳くらいの膝まで髭を長く垂らした老人が姿を表す。
「おお、姫様、探しましたぞ?」
「……はい?」
永久子は私の背中に隠れた為、私が代表して聞く。
「えっと……貴方は?」
「申し遅れました。姫様を召喚させて頂きました、ワインシュタイン公国の魔導士、ベケットです」
「……はぁ」
情報量が多くて、ついていけない。
一つずつ、まとめていこう。
まず一つ目、私達は、やはり召喚したらしい。
ベケットの法衣は雑草を掻き分けた為か、非常に汚れている。
そして、二つ目。
ワインシュタイン公国という国家は、存在しない。
似たような名前では、リヒテンシュタインがあるが、それでも、語感が似ているだけで余り関係は無いだろう。
最後に『魔導士』という職業。
当然、元居た世界には、そんな職業は無かった。
召喚した、と言うのだから召喚等、魔法(魔術?)的な事をするのだろう。
「……姫様、というのは?」
「世継ぎが途絶えた為、この度、友邦である地球から、適正者を召喚した次第です」
「……地球が友邦なの?」
「この星も神様が御創りになられたので」
「……なるほど」
何とも宗教的な話だが、生憎、私は、その辺は、倫理の授業で学んだ程度なので、それほど詳しくはない。
適当に受け流した後、私は、質問を続ける。
聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥、だ。
知ったかぶりは、後に大損になる可能性がある。
「適正者、というのは?」
「人格的、精神的に優れた人物です。今回は、御二人、適任者が居た為、御二人を御呼びした次第です」
「……待って。もう1人居ない?」
私と永久子で、人員充足だ。
「? 私は、御二人しか召喚していませんが?」
「そんな……」
希望の光が見えかけ……途切れた。
瞬間移動で、私達は、城に入った。
白を基調としたこじんまりとした城だ(
永久子は、メイド服に着替えさせられ、私は、王女らしくドレスである。
昔からの夢の一つであった
それでも、今は、現状を把握しておく必要がある。
発狂したい所だけれども、ここまで冷静沈着なのは、やはり、代々、「常に冷静沈着たれ」という教えが活きている為だろう。
同じような教えを景虎も受けている為、多分、大丈夫な筈だろう。
「……凄いね」
一方、永久子は頭の情報処理が追いついておらず、5分に1回「凄い」と明らかな語彙力低下現象を起こしている。
多分、一般的な人は、これが正常な反応だと思う。
私と景虎が異常なのだ。
「……」
私は、永久子の背中を擦りつつ、ベケットから貰ったこの国の資料に目を通す。
国家の正式名称は、『ワインシュタイン公国』。
公国なのに、王女は違和感があるのだが、その辺の感覚は、緩いのかもしれない。
人口は、1億人と、意外(←失礼)に多い。
ただ、国土の7割が森林で、残りの3割に人口の殆どが集中している為、初見では、「田舎」に誤解されやすいようだ。
四方八方は、海に囲まれている島国である為、外敵からの直接的な脅威は少ない一方、災害が多く、その度に経済に大きな悪影響を与えているようだ。
人口や森林の割合の高さ、島国という立地条件、そして、災害の多さは、何処か日本を彷彿とさせる。
ワインシュタイン公国と海を隔てた大陸の方では、長きに渡って、戦乱が続いているようだ。
某世紀末漫画の修〇の国っぽい、のが私の第一印象である。
その為、ワインシュタイン公国は、戦乱に巻き込まれることを嫌い、大陸との交流を拒み、鎖国を行っているらしい。
鎖国は、国内が平和になる一方、情報が遮断される為、余り採りたくは無い手段なのだが、大陸との関係を考えると、致し方無いだろう。
「……ってか、王女なのに、仕事しないといけないんだ?」
「生活費が国民の税金の一部ですからね。その分、働いて頂きませんと」
ベケットが真っ直ぐな目で言った。
意外にシビアだが、税金の一部が私達の生活費に充てられているとなると、そりゃあ働かなくてはならない。
「具体的な仕事は?」
「それは、陛下がお決めになる事です」
「じゃあ、景虎を探して」
「先程、諜報員を国内外に手配しました。失礼ですが、珍しいお名前なので、直ぐに見つかるかと」
「魔法は使えないの?」
「使いたいのですが、適正者ではない為、出来ません。もし、見付かったとしても別人をお連れする可能性があり、その人物の人間性が悪ければ、危険ですので。勅令であってもこればかりは、御断りです」
ベケットは、私達の部下、というより愛国者なのだろう。
「……分かった」
一旦、景虎のことは忘れて、私は、報告書を一つずつ吟味していくのであった。
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