第13話 姉弟
国王への傷害は、重罪だ。
死刑一択、弁護士も付かない。
そんな不敬罪があるバルベルデで、俺に対する投石は、大罪であった。
「「「……」」」
ヴィクトルの愚行に、難民達は困惑している。
人間を憎悪している者は喜びたい所だが、それは大人の仕事であって、少年犯罪は望んでいない。
俺を救世主としてみていた者達は、がっくりだ。
国王を怒らせた→自治区は見捨てられる、と。
全員の視線は、人魚と
あの中で新王・景虎と傷害犯のビクトルが居る。
景虎の機嫌次第ではあるが、99%死罪と思われていた。
然し、内と外では、全く雰囲気が異なっていた。
「ビクトル、食べ」
「何これ?」
「焼き鳥―――あー、
串に刺され、炙られた焼き豚に、ビクトルは、舌鼓を打つ。
胡椒も丁度良く味付けされ、幾ら食っても飽きない。
「……仲良しだね」
「そうだね」
「デスネ」
犯罪者と被害者が仲良く料理を楽しむ光景に、フェンリル達は、ジト目だ。
景虎の怪我は、皮膚が裂けた程度で、重傷ではない。
死罪を主張するフェンリルの主張を勅令の下、俺が拒否し、ビクトルと会食しているのだ。
相当、空腹だったようで、ビクトルは、直ぐに懐柔され、今に至る。
串を見ると、もう100本以上は完食していた。
1本につき50g、約100kcalの計算で刺していたのだが、既に摂取量は、500g、500kcal以上は確定だ。
このままのペースだと3㎏くらいは、簡単に食べるかもしれない。
若さは素晴らしい(現実逃避)。
「……ヘイカ、スマナイ。オトートガ」
「あー、弟だったのか? よく似てるな」
2人を見比べると、瓜二つ、というほどではないにせよ、何処か雰囲気的に似ている。
姉弟、と言われたら納得するレベルだ。
「ソノ……ツミ、ハドーナル?」
「全然、考えてないよ」
「「「「!」」」」
これには、ビクトルも驚いた。
「イイノ、カ?」
「うん」
「……ゴチソー、サセテモラッタウエニムザイホーメンナノハ、スマナイ」
今更、罪悪感が生じたのか、ビクトルの食のペースが落ちる。
それでも食べるのね?
いや、いいけどさ。
「ただ、次からは、伝えたいことは、行動ではなくて言葉でするように。行動は、最後の手段だ? 良いかい?」
「……ヘーカ。イイ、ニンゲン。デモ、ホカ、ワルモノ」
まだ少し人間への嫌悪感があるようだ。
まぁ、俺も故郷を追われたり、家族が殺傷されたら、相手を恨むだろうけどな。
然し、感情論だけでは、何も進まない。
南アフリカで、隔離の被害者にあったマンデラ大統領は、隔離撤廃後、白人との融和に努め、南アフリカは犯罪率の高さは問題なものの、後年、W杯が開催されるくらい、経済的に大きな国になった。
恨みを忘れて寛大になれたのは、他のアフリカ諸国の失敗例を見て来たからである。
1960年のアフリカの年を代表するように、WWII後、アフリカ諸国は、独立を達成したものの、その経済は、殆ど芳しくない。
これは、独立時、技術や知識層であった白人を追い出した為が理由の一つとされている。
復讐心の為に追い出したものの、知識も技術力も育っていなかった現地人は、手探りで国を運営することになったのだが、経験が少ない者ほどの国家運営は簡単なものではなく、結局、政変や汚職が相次ぐことになった。
それを目の前で見て来たマンデラは、過去よりも未来を見据え、白人との融和政策に努め、南アフリカを一つに纏め上げた。
この決断は、後の南アフリカの経済成長や発展を考えると、大正解であったといえるだろう。
俺もマンデラでは無いが、人間族と他種族の友好関係に努めていくつもりだ。
なので、こんな投石くらいでは、一々、怒りはしない。
今回は、ビクトルの俺への
「……そうか」
ビクトルの人間族全体への憎悪を俺は、否定しない。
これも又。驚きなようで、
「……オマエモ、ニンゲンゾク、キライ?」
と逆に聞かれた。
「今の所、印象は良くないね。会って来た人、全員、悪党だったし」
今思えば、初めて会ったフランソワは、種族差別主義者。
2人目のジュゼッペも勅令に従った軍人とはいえ、やはり、フランソワ同様、種族差別主義者の傾向があった。
一方、他種族は、ファーストコンタクトからは、印象が良い。
フェンリルは、最初から俺に好意的だし、リリスも出会いは夜這いだったとはいえ、そこまで仲は悪くはない。
竜や魔法使い、半魚人等の国民とも上手くいっている。
波長的に他種族の方が合っているのかもしれない。
「……オマエ、フシギ」
基本的に種族というのは、自分の出自に
見方によっては、異常者にも見えるだろう。
然し、これまでの経緯から人間族には、親近感を持たない為、この感情を否定することは出来ない。
フェンリルとリリスを左右から抱き寄せる。
「不思議だよな。でも、こんな美女とも結婚出来た訳だし、幸せだよ」
「「♡」」
2人は、頬を赤らめて、俯いた。
一方、除外されたシャーロットは、複雑だ。
見せ付けられている訳ではないが、仲間外れ感は否めない。
無論、仮面夫婦なのは、事実なのだが。
「……」
すっと、動いて、俺の後ろに回った。
「……ん?」
「ワタシ、モ、ツマ」
そういって、抱き着く。
シャーロットなりのアピールなのだろう。
それは良いのだが。
(おお……!)
柔らかな双丘の感触に、俺は鼻の下を伸ばす。
枝からキャッチした時、事故で揉んでしまった時のことが思い出される。
「……主?」
「陛下?」
両側の妻は、鬼の顔になっていた。
「え? なんですの?」
取り繕うも、男の嘘を女性は見抜く能力がある(提唱者:俺)為、どんな演技派でも隠し通す事は難しい。
「主の馬鹿」
「陛下の変態」
両側からグーパンチを食らい、俺の顔は、アッチョ〇ブリケのように潰れるのであった。
……投石より酷くない?
とまぁ、こんな感じで妻との友好的な所を見せたら、ヴィクトルの心は更に
「オマエ、イイヤツ。トモダチ!」
と、何故か友達認定された。
多分、それ以上に義兄の方が正しい筈だが、識字率が低い、ここのエルフ族の子供は、恐らくその概念すらも理解していない可能性がある。
「……スマナイ。ワガオー、ヨ」
シャーロットも、こればかりは、平身低頭だ。
俺達が帰った後、こっ酷く叱るパターンだろう。
「全然」
気にしていない為、良いのだが、真っ赤なシャーロットは可愛い。
「可愛いなぁ」
「主、本音漏れてますよ?」
「あ、マジで?」
読心術がある世界で、心は読まれるのだが、今回は、流石に声に出してしまった。
「……!」
益々、シャーロットは赤くなる。
何だかんだで夫に褒められるのは、恥ずかしいらしい。
「主」
今度は、きつめに手の甲を抓られるのであった。
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