第18話 愛妻家・新王

 この世界は、1週間が7日間ある。

 その為、公休日も土日祝祭日と決められ、

・医療関係者

・軍人

・スーパーや飲食店の店員

 以外は、基本的に休む。

 王宮も必要最低限の人員で回される為、平日と比べると、執事や侍女はめっきり減る。

 土曜日の朝。

 俺は、侍女が用意した、パンを頬ばりつつ、休日の過ごし方を考えていた。

(何処行こうかな?)

 王宮に居ると、休日出勤の職員達も休めに休めない。

 なので、彼等の為にも極力、外出した方が良いのだ。

「外出先、考えているの?」

 焼き魚を食べていたリリスが尋ねる。

「そうだよ。分かった?」

「読心術ね」

「あんまり心を読むなよ」

「分かり易いのが悪い」

 ケラケラとリリスは笑う。

 腹が立つが笑顔が可愛い為、怒気もそれほどない。

 ちくしょう、美女は何かと上級国民だな。

 パンを食べ終えた俺は、シャーロットが淹れたほうじ茶を飲んだ後、洗面台に立つ。

 歯磨きを行おうと歯ブラシを手に取った時、

「主、私にさせて下さい」

 早くにステーキを食べ終えて(朝から肉とは流石、狼だな)、手持無沙汰てもちぶさただったマーシャがすっ飛んできた。

「自分で出来るよ―――」

「いいや。させて下さい」

 狼の目で言われると、力が無くなってしまう。

 一応、力関係では俺の方が上なんだけどな。

 家の中では飼われているの俺説、を提唱したい。

 俺から歯ブラシを奪い取ると、歯磨き粉をべったりと塗り、

「失礼します♡」

 笑顔で、俺の前に立ち、口を抉じ開けては、歯磨きを始めた。

 シャコシャコシャコ……

(まさか、16でこんなことになるとはな)

 幾らおしどり夫婦でもこんなことは流石にやらないだろう。

 シャコシャコシャコ……

 マーシャは、至って真面目なのだが、こんな美人にされるのは、ある種、興奮する。

「……終わりました」

 溜まった唾液を洗面所で吐き出し、水道ですすぐ。

 以前は、熱湯消毒した水しか使用出来なかったが、現在は、鰻系水棲魔族イーリアスの御蔭で浄水場が整備され、一気に国内の水は綺麗になった。

「……有難う」

「どう致しまして♡」

 マーシャは、上機嫌に俺の腕を組む。

「何?」

「外出でしょう? 行きましょう」

てはあるのか?」

「主が決めて下さい」

「人任せかよ」

 呆れつつも、俺は指摘する。

「その前にマーシャ」

「はい?」

「歯にねぎついてるぞ?」

 鏡を見て、硬直する。

「……あ」

 恐らく、味噌汁のだろう。

 自分の事より、主君に夢中なマーシャに、俺は愛おしさと同時に呆れるのであった。


 朝9時過ぎ。

 身支度を終えて、俺達は王宮を出る。

 王宮前広場は、既に家族連れでいっぱいだ。

 人人人……ならぬ魔族魔族魔族……

 この国で唯一の人間の俺は、超アウェー感を覚えるが、こればかりは仕方ない。

「主、私に乗りますか?」

 狼ver.になってマーシャは誘う。

「有難いけど、を交通手段に使わないよ」

!」

 かは、とマーシャは吐血しつつ、人型に戻った。

 いや、便利だな、その能力。

 俺も犬や猫、カワウソになってみたいわ。

 そのまま倒れて、生まれたての小鹿のように全身を痙攣させる。

 鼻血とよだれと涙の三重奏トリオだ。

「ダイジョーブ、デスカ?」

 シャーロットが駆け寄るも、俺はその手を握る。

「馬鹿は放っておけ」

「そうよそうよ」

 リリスも同調し、空いていたもう片方の俺の手を握る。

 これで、マーシャは何も出来ない。

「いやー!」

 直後、マーシャは飛び起きて、俺の背中に抱き着いた。

 うるさい狼だな(呆れ)。


 結局、マーシャにドン引きしたシャーロットが撤退したことで、俺はリリスとマーシャを左右に侍らすことになった。

 俺としては、煩いマーシャより物静かなシャーロットの方が良いんだが、彼女は後妻という引け目からも先妻に譲ったのだろう。

 優しい子だ。

 後で、何かしらのフォローしとかないとな。

「主♡ 主♡」

 そんな俺を他所に、マーシャの愛はとどまることを知らない。

 3秒に1回くらいのペースで俺を呼んでいる気がする。

 正直、重い。

 好意は有難いんだけどねぇ。

 程度がねぇ。

 困っていると、リリスが握力を強くした。

 そして、念を送って来る。

『ちゃんと向き合いなさいよ? 私もフォローするから』

(……見た目がだけど、リリス先輩、マジ、っぱないす)

って何よ?』

(ぎゃあああああああああああああああああああああああああ!)

 軽く電流を流し込まれ、俺は一瞬、三途の川が見えた。

「ほえ?」

 因みにマーシャは、魔族なので電流自体に気付いていない。

 この鈍感力、羨ましい。

 ラ〇ちゃんみたいなリリスと、鈍感なマーシャ、そして、静かなシャーロットを連れて歩く俺を見て、国民は、微笑ましく見守るのであった。


 街中を散策すること、数時間。

 丁度、お昼時ひるどきに4人のお腹が鳴る。

 ぐ~X4。

「昼だな」

「昼ですね」

「昼だね」

「オヒル」

 4人の考えが一致した。

「じゃあ、昼食ランチだな。シャーロット」

「ファイ!?」

 突如、名指しされ、シャーロットは、変な声を出した。

(挙動不審な姿、萌える♡)

「ナゼ、ワレ?」

「マーシャに譲ったんだ。次は、シャーロットが幸せになる番だ」

「エエ……」

 マーシャを見たが、彼女は、先程、譲られた為、今回は、我儘わがままを言わない。

 俺の手を握ったままだが、その目は「どうぞ」と言っている。

 リリスも無言で賛成の意を示す。

 先妻2人が促す以上、シャーロットは答えなければならない。

「デ、デハ……アノ、ミセニイキタイデス」

 マーシャが選んだのは、水棲魔族が経営する寿司屋であった。


 バルベルデは海がある為、海鮮料理が人気だ。

 寿司屋の店主は、タコやイカの姿をした魔族が多い。

 何度も再生可能なので、自分の手足をにしているのだ。

 俺は抵抗あるものの、魔族の客は、遠慮なく食べる為、何処も大盛況している。

 幸い、シャーロットが見付けた店は、人魚が経営していた為、流石にそんな事は無かった。

 俺の隣にシャーロットが座り、その向かい側にマーシャ、リリスが座る。

「……コレガ、スシ?」

「そうだよ。美味しいよ」

 回って来る鮪を取り、醤油をかけて食べる。

 マーシャ、リリスも寿司は初体験なので、見様見真似で鮪を選び、同様の所作で摂る。

「「!」」

 2人は、その美味に驚愕した。

「「……!」」

 そして、一心不乱に鮪以外も摂り始めた。

「シャーロットも食べ」

「ハ、ハイ」

 森林に住んでいた為、シャーロットのようなエルフ族には、海産物には縁が無い。

 食べるにしても川魚が一般的だ。

 川でも見た事がある鮭を選び、そして一口。

「……コレ、オモチカエリ、デキマス?」

「ビクトルにも食べさせたい?」

「ハイ♡」

 シャーロットだけだが、エルフ族の口にも合いそうだ。

「近くじゃないと無理だろうな。魚は、冷凍しないと腐りやすいし」

「アー……」

 (´・ω・`)

 と、分かりやすく項垂れるシャーロット。

 その顔が可愛すぎて、俺は、笑顔でその肩を抱き寄せるのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る