第19話 王と共に

 バルベルデ唯一の人間だけあって、俺は子供にも認識されている。

「へ~か~」

 3人を連れて歩いていると、人馬ケンタウロス系魔族の女児が寄って来た。

(おお、初めて見た!)

 某アプリゲームの利用者でアニメも観ていた俺は、内心、興奮する。

「ううん?」

 膝を折って、目線を合わす。

「あのねあのね」

 もじもじと女児は、体をくねらす。

 その後ろから、母親が飛んできた。

 勿論、彼女も人馬だ。

「陛下、申し訳御座いません。私的プライベートな時に」

「いえいえ」

 女児が漸く、ポケットから花を出した。

「おお、百合?」

「うん! あそこでつんできたの~」

「こら―――」

「ありがとう~」

 母親が𠮟りつける前に花を貰う。

「じゃあね~」

「じゃあな~」

 千切れるのでは? と心配になるほど、女児は、ブンブン手を振って去っていく。

 母親が終始、申し訳なさそうな顔だったのが、印象的だ。

 多分、帰宅後、お説教タイムなのかもしれないが、癒されたので、余りしないで欲しい感じでもある。

 まぁ、他人様ひとさまの家の教育方針だから、強くは言えんが。

「主、子供好き?」

「まぁな」

 邪心が無い子供は、癒される。

 貰った百合を片手に歩く。

 因みにもう片方の手は、シャーロットが握っている。

 寿司屋退店後、積極的になり、こうなった。

「……♡」

 物静かだが、その恋心は熱い。

「陛下、その花、どうするの?」

「んー。帰ったら生け花かな?」

「オー、ヤサシー♡」

 握力が強くなる。

「痛いって―――」

「ダメ♡」

 離そうとするも、吸盤のようにシャーロットの手は喫い付いて離れない。

 まるで一体化しているみたいだ。

(あれ、若しかして、シャーロットもヤンデレ気質?)

 見ると、目は口程に物を言う。

 瞳の奥には、暗黒が広がっていた。

(ひぃ……)


 王宮に帰ると、その途中で買った花瓶に先程の百合をし込む。 

「……うん」

 満足する俺。

 意外にも俺は、花を愛でることが好きだ。

 桜や梅等を愛する日本人気質が関係しているのだろう。

「段々と、部屋がえて来たね」

 リリスも百合を視覚的に楽しむ。

 レムリア大陸でも花見はあるが、それは大抵、女性の文化であって、男性が愛でるのは、珍しいらしい。

 夕食までまだ時間がある。

 執事達も多くない為、夕食も自分達で作った方が、彼等の為にもなる。

「オー、ヨ」

「うん?」

「オトートガ、シュトニキテイル」

「ビクトル?」

「ウン」

「急だな。早く言えば歓待したのに」

「オトート、キヲツカッタ」

「何処にいる?」

「ヤスヤド」

「会いに行こう」

「カンシャ♡」

 シャーロットに頬擦りされた。

 首都は警備が厳しいイメージがあるだろうが、なので、そこまで厳しくはない。

 夢魔のリリス、フェンリルのマーシャもほぼ、一緒に居るしな。

 逆に厳重に警備すると、国民との間に壁が生じてしまいかねない。

「うー……」

 寂しそうな声を上げたのは、マーシャ。

 今まで、穏健派であったシャーロットが積極的になった分、恋敵が増えたのが頭痛の種になってしまったようだ。

 リリスが囁く。

「(次は、マーシャの願いを叶えなきゃね?)」

「(分かってるよ)」

 と返しつつ、リリスの有能っぷりに感心する。

(夢魔の癖に有能だな)

は余計よ」

「ぎゃあ!」

 また、心を読まれ、首筋に噛みつかれるのであった。


 再び外出し、安宿に入る。

 1泊日本円で1千円くらい。

 素泊まり、といった感じだろうか。

 以前は、ゴキブリや鼠が這えずり周る不衛生極まりない場所であったが、勅令による環境整備の結果、今では、手術室並に綺麗な場所になっている。

 流石に部屋までは行けない為、そこはシャーロットに任せて、俺はエントランスで待つ。

「主♡」

 俺の膝に寝転び、マーシャは、甘えだした。

 一応、公共の場所なんだけどな。

 リリスも背中に抱き着いては、イチャイチャしだす。

「意外に綺麗な場所ね? 今日はここに泊まろうよ」

「それは良いけど、空き室次第だな」

「強権でねじ込めない?」

「流石にそれはな~」

 そんな会話をしていると、直ぐにシャーロットが帰って来た。

 背後には、ビクトルが居る。

 相変わらず、美形だな。

 エルフ族、羨ましい。

 まぁ、その分、苦労も絶えない為、簡単に言っちゃ駄目なんだけどな。

「アニウエ?」

 片言なので分かりにくいが、文字化すると、「義兄上アニウエ」と言った所だろうか。

 そういえば、シャーロットと結婚したので、自動的にビクトルは、義弟になるのか。

 こんな美形が弟とは、神は死んだ(血涙)。

「ヘーカ、ト、ヨブノヨ」

 シャーロットがお姉さんらしく、教える。

 関係性が出来ていない分、いきなり「義兄上」は、失礼な感じも否めないが、そこは、森林に住み、こちらの文化をよく知らないエルフ族には、酷な話だ。

 御互い擦り合わせが必要だろう。

 郷に入っては郷に従え、という諺があるが、俺は、エルフ族も苦労無く住めるよう、譲歩出来る所は譲歩したい方針である。

「ヘーカ、アシタ、イクヨテーデシタ」

「あ、そうなのね」

 どうやら、シャーロットも誤解していたようだ。

「じゃあ、明日出直すか?」

「イヤ、イーデス。ヘーカノゴツゴーニアワセマス」

「……ふむ」

 見た所、移動の疲れは無さそうだ。

 と言っても、無理をしているかもしれないが。

「王宮は職員が少ない為、もてなす事は出来んが、外で何か食べよう。空腹?」

「クーフク?」

「オナカ、スク、ノイミ。バルベルデ、ノコトバ」

「エルフ族には、『空腹』の単語が無い?」

「オナカ、ナッタラ、タベル」

「分かりやすい」

 そんな分かりやすい合図があれば、わざわざ、口に出す必要は無いのだろう。

「リリス、お勧めの屋台知ってる?」

「何で屋台?」

「いや、飲食店より入りやすいかな、と」

 昼間は、首都での生活に慣れつつあるシャーロットだったから、飲食店を選んだのだが、流石に自治区から出てきたビクトルが、いきなり飲食店デビューは、色々、精神的緊張もあるだろう。

 そういう意味での提案だった。

 俺の配慮を感じ取ったリリスは、腕組みして考える。

「……」

 考える姿も、映える。

 美人は、何にでも絵になるな。

 神は死んだ(2回目)。

「……じゃあ、焼き鳥屋なんかどう?」

 という訳で夕食は、焼き鳥屋に決定した。

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