第20話 王と弟

 焼き鳥屋のルーツは、俺にある。

 豚男オークの肉を串刺しにして、あぶって食べていたのを、偶然、調理師が見ており、発案したそうな。

 そういうこともあって、売上の1割は、王室に入って来る。

 正直、起源オリジナルの為、9割は欲しいが、調理師にも生活があるので、1割で許しているのが、本当だ。

 リリスにこれを話したら「がめつい」とたしなめられたが(笑)。

 まぁ、兎にも角にも、首都では、空前の焼き鳥ブームだ。

 焼かれているのは、鳥は勿論、起源の豚男の肉もあり、完全菜食主義者ビーガンである人馬ケンタウロス用に焼き野菜も用意されている。

 そう言う事もあって、『焼き鳥屋』の看板を掲げているが、その実態は、焼き肉屋に近しい。

 俺としては違和感があるが、こういう適当さ? 杜撰ずさんさ? も又、一興なので、指摘する事は無い。

「……」

 ビクトルは、昼間のシャーロットと同じ驚愕の色を見せる。

 やっぱ、姉弟なのね。

 よく似ているわ。

 野原に設置されたテーブル席に俺達は陣取る。

 ビクトルの隣には、シャーロットが座り、彼の食べやすそうなものをメニュー表と睨めっこしながら注文していく。

 若し、食べなければ、自分が食べるのかもしれない。

 その向かい側では、俺がリリスとマーシャに挟まれていた。

「焼き鳥屋に来たのに、玉葱たまねぎ食べるの?」

「まずは野菜からだよ」

 バルベルデは、農業国だけあって、農作物が豊富だ。

 主要品目の一つに、玉葱がある。

 俺は、焼き肉屋でも玉葱を最初に食べるくらい、玉葱を好んでいた。

「うま♡ うま♡」

「主、可愛い♡」

「馬鹿共めが」

 俺達に呆れつつ、リリスは、豚肉を食べ出した。

「……」

 ビクトルは、俺達を真似て、最初に野菜を食べる。

 エルフ族も野菜を好む為、その分は抵抗が無い。

 森林で狩猟も行っている為、肉食でもある。

 問題は、味だ。

 こればかりは、嗜好によりけりだから、99人が美味しい、と言っても最後の1人は、不味い、と判断するかもしれない。

 まさに十人十色だ。

「……」

 初めての豚男の肉に、ビクトルは、すっと両目を細めた。

「……ビクトル?」

 不安になった俺が尋ねると、ビクトルは恍惚な表情を浮かべて、

「……オーシーデス」

「OC?」

「ハイ♡」

 それからは、慣れたのか、色んな食材に手を出し始めた。


「タベスギマシタ……」

 フグのようにお腹を膨らませたビクトルは、今にも吐きそうだ。

 最初な分、ペースと自分の胃に入る量が分からず、簡単に限界点を超えてしまったのだろう。

 そういう事は、シャーロットに任せていたのだが……

「タベスギマシタ……」

 ビクトル同様、(´・ω・`)

 いや、姉弟きょうだい

 まさか、ここも一緒とは。

 初めてなビクトルは責められない分、今回は、シャーロットの管理不行き届きだろう。

 ジト目を向けると、恥ずかしいらしく、彼女は目を逸らした。

(全く……)

 呆れた俺は、その大きくなったお腹に手を添えた。

「次は、妊娠した時な?」

「!」

 すると、シャーロットは、大きく目を見開いた。

「ニシン?」

「それはにしんの方な? 妊娠にんしん。赤ちゃんの方だよ」

「!」

「100%出来るとは限らんけど、一緒に頑張ろう」

「……ワガオー♡」

 シャーロットは抱き着き、頬にキス。

(弟の前で積極的だな)

 と思って、ビクトルを見ると、彼は既にリリス、マーシャ同様、締めのパフェを注文していた。

「……」

 いや、良いんだけどね。

 まだ食うんだ?

 腹八合医者いらず、と言うように。

 腹八分目くらいで止めていた俺は、皆の食欲に驚くのであった。


 最終的には、ビクトルは、16分目くらい食べた。

 いや、諺の2倍食うって、単純に凄くね?

 感心していると、

「……ゲェ!」

 1km先にまで届きそうなくらい、大きなげっぷ。

 ハリウッド映画でしか聴いたことがない、見事なものだ。

 余談だが、彼をたしなめる者は、居ない。

「「「zzz……」」」

 3人の妻は、満腹になり熟睡していた。

 3人をどう帰宅させるかかは考えようだが、この機会は、好都合だ。

「ビクトル」

「ファイ?」

 ビクトルも眠そうだ。

「王宮で働く気は無いか?」

「オウキューデ?」

「ああ、わざわざ、姉に会いに来たんだろ? だったら、こっちで住んだ方がいいんじゃないか?」

「ンー……」

 少し考える素振りを見せた後、

「……ネーサンノシアワセヲ、ジャマシタクナイ」

「邪魔?」

「ネーサン、コイ、シラナイ。ヘーカ、ハツコイ」

「……」

 ビクトルは、シャーロットの肩を抱いて、

「ネーサンヲ、シアワセニシテアゲテ。オレ、ムラデスム」

「……分かった」

 王様の提案を断るのは、結構、勇気要ることなのだが、俺は怒らない。

 義弟、ということもあるのだろう。

 本人がそう決めた以上、強要は出来ない。

「……チナミニ、オウキューデハ、ナニヲ?」

「そりゃあ給仕だよ。流石に皇太子には出来んからな」

「……ゴメン。オレニハ、ヤッパリムラガ、イー」

 聞いたのは、やはり、首都での生活に一瞬、憧れたのかもしれない。

 自治区には無い文化があり、住みやすい。

 自治区も発展しているのだが、やはり国内最先端は、首都だから移住希望者は当然、多いのだ。

 姉を抱き締めて、ビクトルは、告げた。

「アネ、イチゾクノヒメ。ナカシタラ……イチゾクソーデデコロス」

「分かってるよ」

 不敬罪確定発言に、俺は、苦笑いしつつ、ビクトルと握手するのであった。


 時は少し遡って、殺害予告から数分前。

(……陛下とビクトルが話し合ってる?)

 薄目で、伺う。

「オウキューデハタラクキハナイカ?」

「!」

(陛下?)

 陛下の御提案に、私も驚いた。

 まさか、弟が勧誘されるとは思ってもいなかったから。

 首都での暮らしは、陛下と一緒の為、苦痛は無いのだが、時々、望郷の念にかられる。

 なので、弟が近場に居るのは、好都合なことであった。

「王宮で?」

「アー、ワザワザ、姉ニ会イニ来タンダロ? ダッタラ、コッチデ住ンダ方ガイインジャナイカ?」

「んー……」

 ボクトルは、少し考える素振りを見せた後、

「……姉さんの幸せを、邪魔したくない」

(! ビクトル!)

 思わず目を見開けるも、ビクトルが強く握った為、反射的に更につむる。

 これで目覚める好機を失った。

「ジャマ?」

「姉さん、恋、知らない。陛下、初恋」

「……」

 ビクトルは、私の肩を抱く。

「姉さんを、幸せにしてあげて。俺、村で住む」

(……ビクトル)

「……分かった」

 案の定、陛下は、快諾してくれた。

 こういう所が、王様っぽくない。

 もう少し偉ぶれば良いと思う一方で、優しい陛下が大好きだ。

「……因みに、王宮では、何を?」

「ソリャアキュージダヨ。サスガニコータイジニハデキンカラナ」

 公私混同はしないようだ。

 ビクトルが皇太子になるのは、嬉しいが、流石に重荷が過ぎる。

 陛下もそれは分かっているのだろう。

 はっきりと断って下さったのは、私も嬉しかった。

「……御免。俺には、やっぱり村が、良い」

 直後、ビクトルの雰囲気が変わる。

「姉、一族の姫。泣かしたら……一族総出で殺す」

(ビクトル!)

 恥ずかしさで死にそうだ。

 お優しい陛下になんてことを。

 起きて怒ることも考えたが、陛下は尚も優しい。

「ワカッテルヨ」

 ……陛下が、夫で良かった♡

 

 狸寝入りするシャーロットに、同じく寝たふりのリリアは呆れるばかりであった。

(もう起きたらいいのに)

 因みにもう1人は、というと。

「グヘヘヘヘヘ♡ 主♡」

 夢の中でも景虎に、夢中であった。

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