第28話 吉報

 明日香と失恋後、俺は、5人の妻との子作りに励む。

 1番、早く妊娠の兆しを見せたのは、シャーロットであった。

「……オー、コドモ、デキタ♡」

「まじ?」

「マジマジ♡」

 産婦人科医の予想よりも早いのは、魔力の影響もあるのだろう。

 又、シャーロットが明かしてくれたが、嫁入り後、毎日、俺に精力剤入りのお茶を飲ましていたのも理由の一つに思われる。

「ドッチガイイ? オトコ、オンナ?」

「女の子かな? シャーロット似で美人だろうから」

「オー♡」

「もう朝よ」

 ぺしん、と手刀が俺の頭に突き刺さる。

「今日、休みだろ? ぐうたらしたい―――」

「なら、私も」

 リリスも布団に潜り込む。

 昨晩、愛し合った仲なのに、もう再戦だ。

「主~♡」

「マ~シャ♡」

 マーシャとも愛し合う。

 明日香と絶ってからは、俺は彼女を忘れる為に。

 3人は俺を繋ぎ止める為に夜を共に。

 これが、最近の俺達の日常だ。

 夜伽には、2人の新妻も加わっている。

「「……」」

 慣れない行為に、2人は、臀部を抑えている。

 リリアの夫になった事や、シャーロットの薬の影響によるものか。

 俺は夜、好色家になってしまい、5人を相手にしても、ピンピンしている。

 初婚のバイオレット達には、辛い話だろう。

 マーシャとサーシャを抱っこし、そのケモ耳を甘噛み。

「主~♡」

「……」

 マーシャは笑顔だが、サーシャは無表情だ。

(2人とも可愛いな)

 2人の対照的な反応に俺のは、癒されていくのであった。


 あの交渉後、ワレンシュタイン公国とのそれは事務方じむかたに一任している為、俺は結局、又、暇だ。

 報告書を読んで、時々、巡察に行く。

 なので、空いた時間は、極力、妻と過ごす。

 外の大雪を気にしつつ、リリスが作った暖炉で温まる。

 外気温は、-10度。

 体感40度くらいにはなるのではなかろうか。

 そんな極寒に、わざわざ外出するつもりはない。

 朝食後に報告書を読んで、10分くらいで終え、後はイチャイチャタイムだ。

 マーシャが膝に俺を寝かせ、耳かきを始める。

「……魔王の耳垢は、乾燥していますね?」

「ああー、そうだね」

 人間の耳垢は、大別して乾燥タイプと湿性タイプの2パターンに分かれている。

 俺は前者で、粉状になるそれが悩みの種であった。

 かといって、湿性の方が良い、という訳ではないが。

「魔力で吹き飛ばすことも出来るのでは?」

「マジ?」

「はい。魔法使いは、そうしていますから」

 見た目は人間族と同様の彼等だが、違いは、先天的に魔力を有しているかどうかであり、見た目だけでは、直ぐに判断することが出来ない。

 魔法使いが魔法を使って、耳垢を吹き飛ばすの図。

 もう少し違う方に魔力を使用すればいいのでは? と思ったが、彼等のやり方なので強くは言えない。

「じゃあ、俺も出来るのかな?」

「魔力の調整次第でしょうね」

「分かった。でも、それ始めたら耳かきの必要性無くなるからな?」

「あ……」

 しまった、と分かりやすくマーシャは後悔する顔に。

「失敗したな?」

「はい……主のせいです♡」

「何でだよwww」

 突っ込みつつ、マーシャの腰元に抱き着き、押し倒すのであった。


 シャーロットの妊娠にエルフ族自治区は、大いに賑わう。

「国王陛下万歳!」

「王妃の誕生だ!」

 自治区の至る所で飲めや歌えの大騒ぎ。

 何せ、ここは、自治区だ。

 エルフ族伝統の言葉を話しても、伝統舞踊を踊っても、民謡を歌っても、誰も罰する者は居ない。

 それ所か、国王が「良いよ」と快諾しているのだ。

 これが、他の人間領だったら、「分裂主義者」の烙印らくいんを押されて、徹底的に弾圧されるだろう。

 吉報に大喜びする自治区において、1人、寂しく飲む少年が居た。

「……」

 ビクトル。

 王妃、シャーロットの弟である。

 姉の妊娠は素直に嬉しい。

 自分も輪の中に入って喜びたいのだが。

(……何か、気持ち悪いな)

 その理由は、分かっている。

 だからだ。

 以前の会食が、義兄が魔族に対して、一切の差別意識を持っておらず、又、姉も心底、幸せそうだったのが良かったが、内心では反対だ。

 他種族を軽視し、裏切り、食い潰す人間族が、エルフの美貌や長寿を狙って、介入してくるのではなかろうか。

 2人の結婚は、魔族と人間族の和解に一筋の光になるだろうし、賛成したい所だが、人間族の汚さを知っているビクトルは、現実的には、反対派であった。

 吉報に水を差すことになりかねない為、わざわざ、公言する事は無いが。

(……姉さん)

 前会った時、幸せな笑顔を見せた姉を想う。

 そして、グラスの中の氷を鳴らし、生まれて来るであろう、甥か姪を楽しみにするのであった。


 16で父親になるのは、転移前は、思ってもみなかった。

 魔法使いの産婦人科医が透視で、中を見て、診断を下す。

「御懐妊です」

 その瞬間、シャーロットが抱き着いた。

「オーノコドモ!」

 エルフ族と人間の混血児ミックスは、恐らく、レムリア大陸史上初めてのことだろう。

 シャーロットに顔中、キスされつつ、俺はそのお腹を撫でる。

「性別は、どちらになります?」

「女の子です。エルフ族の血が濃い為、将来、奥様のような美人になるかと」

「おお」

 自分の顔面偏差値が低い為、自分似だったらどうしよう? と一抹の不安を感じていたのだが、払拭された。

「そうかぁ。女の子かぁ。でも、嫁に出すのは、辛いな」

「まだ生まれてないっつーの」

 リリスの手刀が頭に叩き込まれた。

 風船並の大きな、たんこぶが出来る。

「でも、将来、他の男と結婚するんだろ? 俺より強くなければ許さん」

「何処で親馬鹿、出しているの?」

 呆れるリリスとは、対照的に、

「オー、オヤバカ♡」

 暴走する俺を見て、シャーロットが笑ってくれた。

 因みにマーシャはというと、

「先生、どうすれば妊娠しやすくなりますか?」

 と積極的に質問していた。


 魔族の妊娠は、人間のそれとは違って、何もかもが簡単だ。

 魔力次第では、出産時期を早めたり、遅く出来たりすることが出来る。

 当然、その消費量は激しく、場合によっては安産が難産になることもあるが、子供はその種族の存続に関わる後継者なので、生まれたら、種族全体で御祝いがされる。

 シャーロットの場合は、まだ妊娠の段階だが、国王との間に出来た子供だけあって、直ぐに自治区から長老等が来て、贈り物攻撃を行う。

「シャーロット、君は、種族の誇りだ。出産後は里帰りして皆に疲労してくれ」

「陛下、里に伝わる安産祈願のお守りです。どうぞ」

 長老がシャーロットと話す間、産婆(=助産師)達が、次々と贈り物を置いていく。

 狭い室内は、直ぐにぎゅうぎゅう詰めとなった。

「ありがとう……君達は?」

「同胞の出産には、我々が立ち会います」

「……何で?」

「分娩時、妻はその姿勢が恥ずかしいです。それを和らげる為に同胞の助産師が必要不可欠なのです」

「成程」

 魔族同士であっても、横の繋がりは薄く、ほぼほぼ赤の他人なので、確かに、分娩時、その姿を他種族に見せるのは、流石に羞恥心は否めない。

 無論、同胞であってもそれは変わりないのだが、他種族よりかは見慣れ、然も、一応は親族なので、他種族と比べると、心情的に楽な部分があるのかもしれない。

「では、こちら側の助産師をエルフ族の皆様に変更し、引継ぎしますね?」

 産婦人科医の言葉に、エルフ族は、笑顔で、

「感謝する」

 急な変更は、主治医側を混乱させる可能性があるのだが、この手際の良さからすると、よくある話なのかもしれない。

(平和だなぁ)

 魔族の知らない一面に感心しつつ、俺は、シャーロットのお腹に手を当てて、愛娘との対面を心待ちにするのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る