第7話 奢りと末路

 ゴブリンは難なくバルベルデ領内に密入国し、守備兵の魔法使いと戦闘を始めた。

 魔法使いは、ほうきに跨り、空を飛び交いつつ、迎撃する。

「《稲光ブリッツ》!」

 手の平に魔力を溜めて、野球の投手ピッチャーのように腕を振り下ろす。

 1万V《ボルト》もの雷が、ゴブリン達に直撃した。

 地面は抉れ、大木は燃え、ゴブリンは文字通り炎上していく。

 守備兵は、魔法使いだけでない。

 竜も居る。

「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」

 雄叫びを上げつつ、超低空飛行。

 口を大きく開けて、逃げ惑うゴブリンを口内に入れていく。

 鯨が魚を食べるかの如く。

 他種族ということで共通点はあるものの、ゴブリンは、ぶっちゃけ他種族からも嫌われている。

 平気で裏切り、金に目が無く、自分よりも弱いと判断したら相手を徹底的に痛めつけるのだ。

 例えそれが社会的に守られる子供や赤ちゃんであってもだ。

 そういう事もあって、他種族の中でも嫌われ者である。

 魔法使いの長は、考える。

(ゴブリンが帝国についていたとはな……すぐに陛下に御報告せねば)


 魔法使いの報告に、俺は、黙って聞いていた。

『―――500人ものゴブリンは全て殲滅せんめつしました』

「……ふむ」

 報告は、宝玉ほうぎょくを通して行われる。

 水晶玉のような綺麗な宝玉の中に、魔法使いの長が居た。

 瞬間移動で来る事も出来なくは無いのだが、第2波の可能性もある為、前線から離れないのが、実情だ。

「よくやった。引き続き、竜と連携し、警戒に当たってくれ」

『は……その陛下』

「うん?」

『国境線を一部、焦土としてしまいまして……今後、農作物の栽培や収穫に悪影響があるかと』

「ああ、構わんよ」

『え?』

「想定外だったんだろ? そんな中で最善の手段を採ったなら、責めん。今後も思う存分やってくれ」

『……』

 叱責を覚悟していた魔法使いは、数秒間、言葉を失った後、今日1番の笑顔で、

『……は!』

 最敬礼で応えるのであった。


 報告会後、フェンリルが抱き着いた。

「主は名君です♡」

「そうか?」

「国土は、陛下の私領であり、農作物の収穫が悪ければ、直接、陛下の私生活にも影響が出ますから」

「あー……全然。今のままで十分だし」

 豪華な食事やブランド品を買い漁る趣味は無い為、俺は現状で満足している。

 転移前、実家が名家なので、そういう誤解も多かったが、1日の食費に上限があった為、俺は外食を極力せず、自炊したり、家庭菜園で出費を抑えていたものだ。

 それはここでも同じで、倹約家は変わらない。

 人によっては「レベルにあった生活をしなさい」と言うのかもしれないが、それは人それぞれであって、俺は、今の生活で満足している為、今更、生活レベルを上げる気は1mmも無かった。

「主~♡」

 膝の上に乗って甘えるフェンリルの顎を、安〇先生のようにタプタプする。

 然し、を感じた。

(帝国がゴブリンを利用したのは分かる……でも、魔法使いと竜の守備力は高い……敗北は分かっていた筈……)

 常に冷静たれ、を信条にしている為、戦勝に浮かれることなく、俺は熟考を続ける。

 そんな俺を益々気に入ったのか、フェンリルは、俺の胸板に埋め、甘えて来るのであった。


 数分後、考えた後、俺は、一つの結論を導き出す。

「……フェンリル」

「はい?」

 俺の胸板を枕にする狼は、眠そうな顔で見上げた。

 甘えるのは良いが、仕事しろ(定期)。

「守備兵って若しかして、国境線に集中している?」

「? はい。そうですが」

「……じゃあ、そういうことだな」

「はい?」

「陽動作戦だよ。ゴブリンは、捨て駒にされたんだ」

「! では、海から?」

「そう言う事だ」

 フェンリルが、口笛を吹く。

 奥からメイドの人魚や執事の半魚人マーマンがやって来た。

「如何しました?」

「御用件は?」

 俺は、フェンリルに頬をキスされつつ、告げる。

「帝国が海から攻めて来る可能性が高い。戦える水系魔族を総動員し、警戒に当たれ」

「「!」」

「もう一つ、これは出来れば、なんだが……」

「「……!」」

 俺の提案に、2人は真剣な顔で聞き続けるのであった。


 1万人もの兵隊を乗せた木製の大型船は、バルベルデ沖に入った。

 遠くの方では、竜が飛び回り、ゴブリンを根絶やしにしているが、向こうの方が忙しい為、こちらに気付く様子は無い。

「はっは! さぁ、攻めるぞ! 野郎共!」

「「「応」」」

 兵士達は、上陸の準備を始める。

 侵攻部隊には、士気を保つ為、あらかじめ戦争犯罪許可の通達が出されていた。

・虐殺

・暴行

・強奪

 等の類は全て帝国黙認だ。

 何せ相手は、他種族。

 人間とは違って、殺傷するのに良心の呵責は無い。

 時期も良かった。

 現在は、禁漁期。

 沖合に出る漁船は居ない。

 その為、露見する可能性もほぼ無かった。

 前線を魔法使いに頼りっきりにしていたである。

「……ん?」

 甲板に居た兵士の1人が、物音を感じて、手摺てすりから身を乗り出し、音源であろう場所を探った。

 ……

 何も異状は無い。

(空耳か?)

 首を傾げて作業に戻ろうとしたその刹那、船底が爆発した。

「!」

 身を乗り出していた兵士は、爆風をもろに受け、首と胴体が離れる。

「「「!」」」

 突然の事に動揺する兵士達。

 爆発は1回だけでなく、何度も起きる。

 船底の至る所で。

 やがて、船は航行を止め、傾いた。

 船底に穴が開き浸水したのか、或いは座礁したのか。

 とにかく、兵士達は大パニックだ。

「なんだ! 何が起きた!」

「大変だ! 浸水してる! 汲み出す為に来てくれ!」

「食糧庫もやられた! 畜生、飯が無いぞ!」

 余りの事に歴戦の猛者であるジュゼッペも狼狽する。

「一体、何が起きている……?」

 こういう場合、最もちゃんとしなければならない現場の最高責任者である将軍が、このザマなのだから、帝国海軍の練度の低さが分かるだろう。

 種明かしをするが、景虎が行ったのは、『機雷』のばら撒きであった。

 海上用の地雷である機雷は、接触するだけで爆発する。

 この世界には、元々無かった武器であったが、試しに子供の魔法使いに作らせてみた所、良いのが出来た為、即採用し、これまた、子供の竜に海上にばら撒くように指示したのである。

 子供を戦争に参加させるのは、余り褒められたものではないが、こちらは国家存亡の危機である為、そこらへんは、御容赦して頂きたい所だ。

 兎にも角にも、未知の爆発物に木造船は、成す術も無く沈んでいく。

 遠くの方で爆発、炎上、沈没の3工程を見守っていた人魚や半魚人は歓声と共に動き出す。

「人間だ!」

「今夜は、大漁だぞ!」

「おにく♡ おにく♡」

 そして、争奪戦が始まるのであった。

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