第4話 怒る国王と無能な使者

 魔法使いに真っ先に頼んだのは、

・手榴弾

・拳銃

・日本刀

 等の作成であった。

「どうでしょうか?」

 魔法使いが恐る恐る問う。

 即位後、初めての勅令が意外な事だったから。

「うん。有難う。満足だよ」

 そう言って労う。

 魔法使いは、安堵し、最敬礼後、消えていく。

 今度は、フェンリル(美女ver.)が問うた。

「武器の専門家なんですか?」

「祖父が戦争の経験者だからね。家に古い武器は沢山あったよ」

 そういうのは、警察署で手続きし、処理するのが、妥当だろうが、祖父の武器の中には、恩賜の物もある為、逆に家宝となっていた。

 恐らく、今、世に出すと、貴重過ぎて、国立博物館行きかも?

 ラ〇ボーのように、手榴弾と弾倉マガジンを腰に装着し、日本刀も腰に差し、拳銃は、これまた魔法使いに作らせたホルスターに収める。

 拳銃の使い方は、祖父がグアムで教えてくれた為、問題無い。

 手榴弾は、父親が過激派専門の刑事だった為、これも彼から教わった。

 日本刀は、剣道部だったので、これも合法的に技術を習得したものだ。

「……主、何故、武器を?」

 訝しむフェンリル。

 怪物を蔑視する人間が武器を持つ。

 その結果が、どうなるか想像しているのだろう。

「生憎、怪物を排斥する気は更々無いよ」

「では、何故?」

「そりゃあ、自己防衛の為だよ」

「? 主は私が守りますが?」

「家臣にんぶに抱っこな国王は、国を亡ぼすのでは?」

「!」

「国民は、魔法や人間を凌ぐ力がある。だったら俺は、自分なりに身を守りたい」

「……崇高な考えですが、用心棒としては、少し寂しいです」

 しゅん、と項垂れる。

 ケモ耳があれば、垂れ下がっていたことだろう。

「解雇とは言っていないぞ? あくまでも念の為だ」

「! 本当ですか?」

「ああ」

 言いたくは無いが、フェンリルは美女だ。

 手放すのは、惜しい。

 こういう束縛は褒められるものではないのは、重々承知なのだが、こればかりは、仕方の無い事だろう。

「嬉しいです♡」

 抱き着いては、俺の頬を舐める。

 畜生、可愛いなぁ。

 こんな人と転移前、お付き合いしたかったぜ。

 頭を撫でてていると、

「陛下」

 人魚の女官が王宮に入って来た。

 いつも思うが、バルベルデの顔面偏差値高くね?

 異種族同士の交配が進み、美女が生まれやすい環境なのかな?

 白人とラテン系の混血が進み、世界的な美女大国の一つになったコロンビアのように。

「帝国から贈り物です」

「はい?」


 外に出ると、正装の使者が送付状を携えて、待っていた。

「帝国より参りました、フランソワです。以後、お見知り置きを」

「……はぁ」

 金髪の青年だが、少し棘がある雰囲気だ。

「……結界が張られていた筈だが?」

「敵意が無い事を示した為、入国出来た次第です」

「……」

 フランソワを見る集落の怪物モンスター達を見ると、彼等の視線は、

「「「……」」」

 皆、白い。

 好意的な人物ではないようだ。

「陛下の御即位を記念致しまして、我が国からの贈り物です」

「……はぁ」

 言葉の端々から、バルベルデを軽視するような感じが見受けられる。

「おい」

「は」

 使者が、顎で使う。

 従者は、カラカラカラとリヤカーを牽いてきては、俺達の前で停める。

 そして、一礼後、素早く荷台に飛び乗り、掛けていたシーツを剥がした。

「「!」」

 俺とフェンリルは目を剥き、

「「「あ」」」

 他の怪物達は、息を飲む。

 荷台に載せられた鉄製の檻の中には、襤褸ぼろを着たエルフの女性が棒で縛り付けられていたから。


 バルベルデは、怪物が国民だけあって、怪物には、寛容な土地柄だ。

 一方、それ以外の国々では、人間同士の争うもることながら、人間以外への怪物の風当たりも厳しい。

 人間が一等国民、怪物は二等国民と憲法上で定義する国もあり、中には、怪物自体を異端視し、積極的に虐殺を推奨する国もある。

 俺は、その事を報告書に書いてあったことを思い出した。

(……バルベルデは、怪物にとって最後の理想郷なんだな)

 転移してきたばかりなので、この世界の事は殆ど分からず、『郷に入っては郷に従え』の精神の下、学ぶだけで、然も「居るだけで良い」との話で矯正はしない方針だったのだが、これを見る限り、とてもじゃないが、黙認は出来ない。

「……」

 俺は下卑た笑みを浮かべたフランソワを、無表情で見詰めた後、感情を押し殺しつつ、尋ねた。

「……どういうことだ?」

 6秒待つ、アンガーマネージメントがあってて良かったぜ。

 もっとも、だが。

「どうもこうも贈り物ですよ」

 平然とフランソワは言う。

「……貴国は、エルフを奴隷にする制度があるのか?」

「制度ではなく文化ですよ」

 フランソワは、身振り手振り交えて答える。

「1日3食摂る。夏になれば蚊を殺す。それと同じことですよ」

「……」

 俺の横に居たフェンリルが、殺気を出すも、俺が腰に手を添えて、何とか抑え込む。

 戦争も外交の手段ではあるが、極力、採りたくはない。

 それでも、今の発言は、もう駄目だ。

 これ以上、話し合っても、こちら側が不快になることだけが分かった。

「……フェンリル」

「は」

小人ドワーフを呼べ。檻を解体し、助け出せ」

「! は!」

 フェンリルは最敬礼し、瞬間移動で消えた。

 羨ましいな、その能力。

 後で、魔法使いに頼んで付与してもらおうかな?

 出来るかどうか知らんけど。

「陛下?」

 俺の雰囲気が変わった事に、フランソワは気付いた。

 然し、怒気までは分かっていない。

 相手の感情の変化に気付きにくいのは、使者としては無能だろう。

「フランソワ殿」

「はい」

「貴国には、腹の中を見る文化はありますか?」

「……え?」

 直後、俺は前に出て、抜刀。

 フランソワの腹部を横一線に掻っ捌いた。

「「「!」」」

 俺の凶行に、怪物達は口をあんぐり。

「ひ、ひぃ……」

 従者は、失禁して逃げて行った。

 敵討ちしないのは、文官なのか、それとも忠誠心が薄いのか。

 逃げていく従者を追う、竜に向かって叫んだ。

「追うな!」

「で、ですが」

「敵です―――」

 空中停止ホバリングしつつ、竜達は目で従者を追う。

「責任を取るのが上の仕事だ。あいつは命令に従ったまでだよ。無益な殺生は厳禁だ」

「「「……は」」」

 勅令に竜達は、不承不承に頷いた。

 気持ちは分からないでは無いが、部下にまで責任を問うのは、流石に酷だ。

 然し、このままでは、竜達の気持ちも無駄にすることになる。

 俺は、辛うじて、息のあるフランソワの背中に座ると、

「皆の気持ちは分かった。だから、今回は、こいつに免じて許してくれ」

 半魚人マーマンが、その隠れた意味を汲み取った。

「! つまり、そいつには、何をしても良い、と?」

「そういうことだ。煮るなり焼くなり自由だ」

「「「!」」」

 恩賜の人間、という事で怪物達は、フランソワに殺到する。

 何とか、その人垣を抜けた俺は、生きたまま解体されていく人間を無視し、代わりに遠い目をするエルフに関心を移すのであった。

(しっかし、綺麗だな)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る