第9話 夢魔の微笑み

 祝勝会が終わった後、俺はベッドに入った。

 久々に安眠出来る。

 この所、2~3時間くらいしか眠れなかったな。

 安眠出来そうなのは、この国で根を生やす、という自信が出来た為だろう。

 枕に後頭部を預けると、の〇太並の速さで眠りにつく。

 1秒以内に夢の中だ。

 相当、ストレスが溜まっていた、というのもあるのかもしれない。

「zzz……」

 こうして、俺は恐らく転移後、初めての安眠を楽しむのであった。


 夢の中で、明日香と永久子と再会する。

 場所は、何処かの国の城っぽい所で、『女王様』という明日香の肖像画が、壁に飾られていた。

 2人も又、無事だったようで、俺とは違う国で王女と秘書官として生きているようだ。

「景虎の馬鹿は、何処に行ったのかな?」

「さぁ? 皆目見当もつきません」

「何処なの?」

 泣いているが、余り琴線には、響かない。

 昔なら同情していたが、こっちもバルベルデの国王、という立場上、余り動けないのが、現状だ。

「済まんな」

 聞こえているか聞こえていないのかは分からないが、取り敢えず誤って、部屋を出ていく。

 2人には、俺が見えていないようで世間話を続けている。

 部屋を出ると、次は新樹の森であった。

 夢である為、匂いは感じられないが、居心地が良い事のが、直感的に分かる。

 そこでは、エルフ族が飲めや歌えやの大騒ぎをしていた。

『人間族戦勝記念祝賀会』

 との垂れ幕の下、長は仲間達と踊り狂っている。

 そんな中で一際ひときわ、琴線に引っ掛かったのが、踊り子の1人だ。

「……」

 俺の視線に気付いたのか、ダンスが妖艶なものになる。

 肩や太腿ふともも、腹や背中を少し見せ、チラリズムで攻める。

 この他、

・パンチラ

・ブラチラ

・胸チラ

ベロチラ

 等を俺の前に来ては行う。

 嬉しい事だが、俺は、その積極性を逆に怪しむ。

「……ああ、女夢魔サキュバス?」

「! ひっどい! 貴方の性癖に合わしたのに!」

 エルフのダンサーは、地団駄を踏む。

 直後、その体が変化へんげし、布地の無いマイクロビキニを着た褐色の人型魔族になった。

「リリス、だったか?」

「あ~も~チョベリバ~!」

 名前を当てられて、リリスは、更に悔しがる。

 言葉のセンスが、平成初期っぽいのが、不思議なのだが。

 サキュバス族の現地語なのかもしれない。

 意味は知らん。

「何故、分かったの?」

「勘だよ」

「じゃあ、これは当てられる?」

 リリスは負けず嫌いな性格なようで、俺に抱き着くと、顎にキスした。

「?」

「……今のはどういう意味か当ててみ?」

「う~ん……愛情?」

「8割正解かな?」

「じゃあ、残りの2割は?」

劣情れつじょう

 俺の体を熊式鯖折ベアハッグで固定すると、リリスは、早業で脱衣。

 褐色の肢体が、俺に押し当てられる。

「リリス、説明してくれ」

「だ~か~ら~惚れちゃったんだよ」

「俺に?」

「そう言う事♡」

 俺の首筋を舐めつつ、リリスは、誘惑する。

「初対面だけど?」

「ひっどい! 最前線で戦ったのに?」

「まじ?」

「まじのまじ。マジノ戦線よ」

 誰が分かるんだ、そのネタ?

 あと、正確には、マジノ線だけどな?

「逃げていた残党を、私達一族が誘惑して、一か所に集め、竜が焼き払ったのよ」

「……連係プレー?」

「そう言う事。だから褒めて褒めて♡」

 竜や魔法使い等、攻守に特化した種族以外には、動員命令は出していない為、知らなかったが、夢魔のような志願兵も居たようだ。

 頭を撫でると、リリアはにへら、と笑う。

(フェンリルみたいだな)

「あ」

「うん?」

「今、他の女、考えたでしょ?」

「うん。そうだよ」

「誰? 誰?」

 雰囲気が変わった。

 リリアは、魔法で腕を刀に変える。

「何で嘘吐かないの? 私の事舐めてるの?」

「いや、正直者なんだよ。嘘だったら許してくれた?」

「嘘でも殺す」

 理不尽だな。

 呆れつつも、俺は、リリアに刺されないように自分の方から密着する。

「嫉妬深いのか? 夢魔ってのは?」

「知らない」

 ぷいっとへそ曲げた。

 ちょっと可愛い。

 俺は、反撃とばかりに耳朶を噛んだ。

「ひゃ♡」

 甘い声と共にリリアは、腰が抜けたようで倒れこむ。

「おいおい、大丈夫か?」

「もう、陛下ったら♡」

「ぐほ」

 抱き上げた途端、リリアが足払いして、俺を倒す。

 後頭部を強打し、俺がたん瘤の心配をしていると、リリアが腰部に跨り、

「陛下の味、どんなのかな?」

 獲物を見付けた獅子の如く、舌なめずりを行うのであった。


「……ん?」

 目覚めると、目の前にフェンリル(人間ver.)が居た。

「主~♡」

 俺の顔面を胸部に押し付けて、寝ている。

 一応、フェンリル用のベッドあるんだけど?

 窒息死しかけている為、何とか離れるも、

「……ん?」

 一難去ってまた一難。

 今度は、腰部に誰か抱き着いている事に気付いた。

 布団をめくると、

「えへへへへ♡」

 リリスが顔を埋めていた。

(正夢だったか)

 夢魔の存在は知っていたが、交流が無かった為、放置していたのだが。

 まさか、向こうから来るとは思ってもみなかった。

 フェンリルとリリスは、挟撃された俺は、トイレに行く事も出来ない。

(二度寝っすか)

 2人の美女に挟まれつつ、俺は、再度、毛布を被るのであった。


 結論から言うと、俺はリリスと契約したらしい。

 夢の中だった為、感覚が曖昧なのだが、リリスは俺と交わり、契約を結んだそうな。

 元々、断られても襲うつもりだったらしく、夢魔の性欲の強さが実体験で分かった。

 高い勉強代である。

 それに怒ったのが、フェンリルだ。

「……主、この馬鹿を食い殺したいのですが?」

 契約を知った直後から殺意を放っている。

「フェンリル、その時は俺も死ぬらしいからやめてくれ」

 リリスに抱き着かれつつ、俺は、手で制止する。

 関係を結んだ以上、俺とリリスは一心同体。

 リリスを殺せば、俺も死ぬらしいのだ。

「で、でも……それって事実かどうか分かりませんよね?」

「じゃあ試したらいいじゃん?」

 ケラケラ、とリリスは笑う。

「!」

 フェンリルが助走の準備を始める。

 リリスの挑発は、続く。

「でも、死んだら、あの世でずーっと、陛下とイチャイチャするのは私だからね?」

「!」

「脳筋でドジな狼―――子犬さんには、分からない話だったかな? クークスクスクス」

 独特な笑い方だ。

「……」

 フェンリルは、数瞬、迷った挙句、

「……主」

「うん?」

「私も夢魔になります」

「いや、何でだよ」

 フェンリルの夢魔化を防ぐ為に俺は、彼女を抱き締めて何とかなだめるのであった。

 俺、王様なんだけどなぁ。








 

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