第10話 LOVE IS BEAUTIFUL
リリスとの契約は、何も悪い事だけではない。
自動的に魔力が付与され、俺も魔法使いと同等の能力を有すことになった。
「……」
公休日。
暇潰しに魔術を作ってみる。
手の平で魔力を溜めて、火の玉を作成。
それで串に刺していた肉を
生焼けで無くなった所で、豪快に食い付く。
(……美味いな)
食べているのは、
暴行罪で死罪になった者ので、こういうものは、埋葬されず、食材に回される。
地球では、考えられにくいことだが、「犯罪者に墓は必要無し」という考え方が基になっている。
病原菌等の諸問題は、薬学系魔法使いが、処理している為、問題無い。
「主~♡」
涎を垂らし、くれくれアピールのフェンリル。
献上品の肉を爆食いするように、こいつは狼の顔を被ったフードファイターだ。
「……はいよ」
「有難う御座います♡」
右横のフェンリルは、一口で、焼き串にあった肉を食べる。
お前に「味わう」という楽しみ方っは無いのか?
左横のリリスは、生肉でも大丈夫なので、豚肉を食べている。
「……ねぇ、人間は、こんなのが好きなの?」
「まぁな」
「味付けとかしないの?」
「人によりけりだろうが、
「陛下は?」
「俺? 俺は、胡椒派だ」
「胡椒一択? 塩は?」
「塩分過多対策の為に余り使わないようにしているんだよ。好きだけどね」
「1回しかない人生をそんなに
「……まぁな」
一理ある為、否定は出来ない。
「あ、そうだ。陛下にプレゼントあるんだ?」
「ほぉ、有難いな」
「はい。これ」
リリアが出したのは、指輪であった。
「……これは?」
「結婚指輪。夫婦だから」
「……夫婦なの?」
「陛下の子供を妊娠する予定なのに?」
「……ちょっと待て。確定事項なのか?」
「だって、陛下と寝たんだよ。妊娠はいずれ―――」
「リリス?」
話を聞いていたフェリシアが犬歯を剥き出しにした。
「主を襲ったのね?」
「寝顔可愛かったし、ついね」
「……主、指輪下さい」
「はい」
「有難う御座います」
受け取ったフェリシアは、それを口に含む。
「あ」
リリスが声を上げた直後、フェリシアは飲み込んだ。
「……ふぅ」
満足そうに自分のお腹を撫でる。
「これで婚約破棄です」
「……」
ドン引きした顔のリリス。
俺も引いてはいるが、婚約破棄は嬉しいので、今回は、フェリシアの味方だ。
「フェリシア、有難う」
「えへへへ♡ 主~♡」
俺に抱き着いて、頬を舐めまくる。
こういう所は、狼(?)らしい。
「あーあ。折角、陛下と夫婦になるチャンスだったんだけどな」
と言うリリスだが、全然、悔しがる様子は無い。
ぴったりと、横に付き、離れる事は無い。
「何で俺に
「だって、預言書に書かれていた英雄だから」
「英雄?」
「うん。他種族が信奉する預言書の一節に、
『王歴118年6月に、恐怖の大王が下りて来る。
人間族は恐怖するが、他種族には、平和をもたらすだろう。
その大王の容貌は、黄色い肌に刀剣のような鋭い目でこの世の人間族とは程遠い黒髪を生やし、又、氷を彷彿とさせる冷たい心の持ち主である。
然し、温かい心も持ち合わせている』
って」
「……」
若干、『ノストラダムスの大予言』と被っている感が否めない。
又、心に関しては、冷たいのと温かいという矛盾性を感じる。
全体として、信用し難い内容だが、注目すべきは、容貌の所だろう。
それのみ、具体的に描写され、俺に共通している所が複数ある。
黄色い肌に、悪人のような目つき等がそれだ。
(そういえば、黒髪で黄色人種、見た事無いな)
首実検で1万人もの死体を確認したが、全員、コーカソイドで、赤髪や金髪等であった。
ジュゼッペも同様で、まだ分からないが、1万1人の内、黄色人種が居ない時点で、この世界では、黄色人種は超少数派なのかもしれない。
又、予言書にもわざわざ「黄色い肌」という記述が見られることから、少なくとも、予言書が書かれていた時点でも珍しい存在だったのだろう。
「……なぁ、この世界には、その俺みたいな黄色い肌で黒髪は、居ないのか?」
「居ないよ。皆、白か私のような褐色。これは、人間族の聖書にも書かれている事だよ」
「そうなのか……」
「あ、でも聖書の
「ふーん……」
色々と世界観が分かって来た。
聖書は、基本的に人間族しか盲信していない。
他種族は、聖書をファンタジーのように感じているようだ。
先のリリアの話からも、人間は、束縛癖の反自由主義で、一方、他種族は、牧歌的で自由主義な傾向がある為、両者は、まさに水と油のようである。
(そりゃあ、戦争も起きるわな)
開戦の契機が
「主、夢魔と話し過ぎ」
忠臣が嫉妬し、俺の首を引っ張る。
「ええっと、俺って、フェリシアの所有物だっけ?」
「違います。私の所有者です」
「……じゃあ、俺が誰と話そうと自由では?」
「そうですけど、駄目です」
明らかに嫉妬の色を見せて、フェンリルは、ギュッと力を込める。
んー、ちょっと重いかな。
まぁ、耐えれるけど。
「はいはい」
フェンリルの顎を撫でていると、リリスが不思議そうに尋ねた。
「2人は、結婚しているの?」
「はい―――」
「いいや」
フェンリルが肯定し、俺が否定する。
「え? どっち?」
「主?」
2人の疑問視に俺は、真っ直ぐな目で答える。
「フェンリルとは寝ていないし、結婚もしていないよ」
「じゃ、じゃあ、事実婚って関係?」
「リリス、残念ながら違うよ」
俺の答えにフェンリルは、最終回の矢〇丈みたいに真っ白になっていた。
「……あの、陛下」
「うん?」
「御言葉ですが、もう少し真面目に交際しては如何でしょうか?」
リリスは笑っているが、その額には、怒りマークが。
同性を軽視する俺に心底、軽蔑しているようだ。
「夜這いで俺の初めてを奪った癖に?」
「それは申し訳御座いませんが、話をすり替えないで下さい」
怒られた。
「……そうだな」
都合よく利用しているのは、俺も薄々、気付いていた為、これを機に向き合う必要があるだろう。
不適切な関係を続けて、伊〇誠のように刺殺されたくない筈だ。
フェンリルを抱き締め返す。
「主?」
「真剣に君と向き合うよ」
「! ……主ぃ♡」
泣きだすフェンリル。
俺の胸の中でわんわん泣く。
(狼なのに、わんわんとは)
「陛下?」
リリスに心の中を読まれ、ジト目を向けられるのであった。
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