第11話 国王と2人の新妻

 バルベルデは、多夫・多妻が認められている複婚制導入国だ。

 尤も、一夫一妻制も認められいる為、全国民が複婚している訳ではない。

 新王・景虎が、用心棒であるフェリシアと、夢魔・リリスと同時に結婚したのは、直ぐに国内全土に拡散された。

「はぇ~。やっと結婚か」

「本当だよ。何もしないから、かと思っていたぜ」

「用心棒は良いとして、夢魔と結婚するのは、苦労するぞ? 腹上死ふくじょうしとか大丈夫かな?」

 夢魔と人間が結婚する例は、非常に少ない。

 これは、人間が精力旺盛な夢魔の体力に耐え切れないからである。

 国民が不安視するのは、当然のことだろう。

 然し、国民の不安を他所に、景虎は、ピンピンしていた。

 ベッドの上で2人を侍らせつつ、朝を迎える。

(……朝か)

 枕から身を起こし、大きく背伸びする。

 声を出したい所だが、2人が眠っている以上、控えなければならない。

「「zzz……」」」

 幸せそうな笑顔で眠る2人。

 こんな美女達が妻とは未だに信じられない。

 2人を起こさぬよう、そっとベッドから出ていく。

 

 増築工事された王宮は、掘っ立て小屋から一軒家にバージョンアップした。

 それでも、地球に居た時のイメージからすると、しょぼい感は否めない。

 朝から既に動いている、コボルト等の職員に会釈しつつ、俺は外に出た。

 外はまだ薄暗いが、それでも走るのが、俺の習慣ルーティンだ。

 こっそりなのは、フェンリルに気付かれないようにする為である。

 忠臣(若干、ストーカー兼ヤンデレの気があるが)は、俺の単独行動を好まない。

 風呂でもトイレでもついてくるほどだ。

 孤独感が無い為、それはそれで良いのだが、流石に常に傍に居ると、公言しにくいが、鬱陶しさも否めない。

 だからこそ、朝早く起きて、少し走るのだ。

 防犯用に、

・手榴弾

・拳銃

・日本刀

 も忘れない。

「……よし」

 広場の噴水で顔を洗って、眠気を吹き飛ばした後、俺は、走り出した。

 最初は、ゆっくりと。

 徐々にスピードを上げていく。

 この世界には、ジムというものが存在しない為、鍛えたければ、独自で訓練法を考えなければならない。

 その為、安直な俺は、真っ先に考えたのが、「走る」ことであった。

 王宮前広場を後にし、森林に入る。

 早朝の森林は、滅茶苦茶寒くて、霧がかかり、その癖、何処か神秘的だ。

 鳥居もあれば、より聖域な感じが出るだろう。

 言及はしていないかったが、バルベルデは、精霊信仰が盛んだ。

 森林や山、海等に精霊が宿る、として信仰している。

 特定の物ではなく、数多あるものに精霊が居る、というのは、八百万の神々を連想させる為、日本人が転移しても、すんなり受け入れる事が出来るかもしれない。

 森林の中を走っていると、噂をすれば影が差す。

 その精霊達が飛んできた。

『あ~。へ~かだ』

『おはよう~』

『きょうもがんばるね~』

 幼い口調で話しかけてくる。

 こういうことがある為、森林を走る時に作業用BGMは必要ない。

 精霊達は、光っている為、その姿形を視認する事は出来ない。

 ただ、視える人には視えるようで、単眼サイクロプス系魔族等は、視認出来るらしい。

 ちょっと、羨ましいな。

「おはよう」

『きょうはどのくらいはしる~?』

「う~ん。1時間くらい?」

『すっご~い』

『えらいね~』

『よしよし~』

 頭上を飛び交い、頭を撫でられる。

 王様に対する行為ではないだろうが、相手は精霊だし、俺も問題視していない為、無問題だ。

 二つの光が、俺の両肩に乗る。

『へいか~、きをつけてね~』

『じょなんのそ~、でてるよ~』

「女難の相? 何で?」

『しらな~い』

『かいしょ~なし~』

 2人も娶った直後にこの言われよう。

 予想外に精霊は、毒舌だ。

 両側から頬を抓られる。

 ただ、痛みは無い。

 精霊なりに手加減しているのかもしれない。

『あ、うわさをすれば』

『じゃあね~』

 言うだけ言って、精霊達は、何処かへ飛び去って行く。

「うん?」

 直後、視線を感じ、俺はペースを落とす。

 急停止したい所だが、生憎、それは危険な事だ。

 徒歩くらいの速度になった頃、

「ヒュン!」

 何かが、頬を掠めた。

 数瞬後、振り返ると、後ろの大木に矢が刺さっていた。

 頬から血が垂れる。

(……らしたのか、れたのか)

 魔力が自動で発動し、俺の掠り傷が塞がれていく。

 ある意味、チートだ。

「……」

 周囲を伺うと、魔力の御蔭おかげなのか、木の枝に意識が奪われる。

(……あそこか)

 弓兵は、八つ墓村のように頭に巻いた鉢巻きに枝や花を挿し、体は迷彩色にペイントしている。

 ギリースーツで偽装カモフラージュした地球の狙撃手スナイパーを連想させる。

 俺は、拳銃を抜き、狙撃手に向かって構えた。

「……?」

 見知らぬ武器に狙撃手は、戸惑いを隠せない。

 然し、次の瞬間、自分に銃口が向けられている事に気付き、慌てて、弓を構えた。

 が、慌てた事で、足の踏み場がおろそかに、ずり落ちる。

「!」

 そのまま枝から落ちた。

 地面までは、10mくらいだろうか。

 当然、落下すれば、一溜まりも無い。

 俺の体は自然に動き、落下地点を目測で図り、その付近にスライディング。

 狙撃手は、そのまま落ちていき、俺の腕に収まった。

 凄まじい衝撃だが、俺の腕が折れる事は無い。

 何せ魔力が活きているから。

 ミシミシと軋む音がするも、何とか耐え抜いた。

 そのまま俺達は、草むらに突っ込んだ。


 暫く気絶した後、俺は、意識を取り戻す。

「……ん?」

 手の平に柔らかい感触。

 最初は、肉まんを連想するも、肉まんよりも柔らかい。

 それも昨晩、堪能したばかりのような……

「……!?」

 揉みしだいていたのは、胸であった。

 おお、なんというT〇 L〇VEる。

 結〇梨斗になるのが、夢の一つであったが、まさか転移先で叶うとは。

 神様様様かみさまさまさまだぜ。

 居るか知らんけど。

「……」

 相手は、エルフの女性であった。

 いや、間近で見ると、マジで美人な。

 こりゃあ、人間族(俺もそうだが)の男が、家庭崩壊覚悟でみつぐのは分からないではないな。

 ってか、気付いた。

「……シャーロット?」

「……うん?」

 名前で起きた。

「……」

 シャーロットは、目を凝らして、俺を見る。

 そして、未だある胸の感触と、それから吸盤のように離れない俺の手を見て。

「……!」

 タコのように顔を真っ赤にさせて、里〇智のようなアンダースローのように振り被っては。

「シネ!」

 パチンと、平手打ちを炸裂させたのであった。

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