第20話 壊れる
「はっはっはっははっははは。俺は、間違っていない」
その光景は、まさしく悪魔か何か。
彼が通る場所には、生きるものは存在しない。
正面に存在する「生」なる存在を認識すれば、アイテムボックスから剣を上から落とす。
おおよそ、30階層くらいで大量に殺したスケルトンナイトがドロップした剣である。
それが、200本。とても多いが、それほどにまで大量発生していた。
結局、それはヨシヒトにとってはお得なバーゲンセールのように感じられた。
ツノを落とすのは、いい作戦だとは思っていたが、しかし、所詮ツノ。
動物は、そのツノで戦うというが、結局その目的は「刺す」ためのものではない。
現状「刺さる」だけのツノを使うよりも、相手を殺傷させるために作られた「剣」を使う方が、殺害効率は上がった。
だが、ヨシヒトがする動作が増えたわけでも減ったわけでもない。
結局は、感覚であるが。
今もまた殺したモンスターのドロップアイテムを回収して、そのアイテムを流し目で閲覧しながらダンジョンを進んでいく。
「復活の薬」があるとすれば、どこだろうか。
キリがよく100層のクリア特典でお望みのアイテムを配布してくれないだろうか。
そうすれば、そこまで行くだけでいい。
「今は」
ギルドカードをアイテムボックスから取り出して、階層を見た。
65層。
100層だとしてもまだ30階層は残っている。
昨日は、どこまで行ったのだろうか。
しかし、昨日ほどの疲労はない。
昨日ほどの疲労はないといえば、ほとんど疲労していない事になる。つまりはアドレナリンか、思い込みか。疲れることよりも、精神的な何かが、邪魔をして、体を疲れさせないのか。
「何を言ってるんだか」
アイテムボックスの中には、カノンの死体。
彼女が持っていたアイテムが全部ある。
カノンは運はいいみたいで、いろんなアイテムを持っていた。
例えば、「鉛玉」。これは銃弾のようだった。これが1000を超えていたりする。しかし本体はない。
他には、衣類系が多く、「隠密のマント」を始め、いろんな効能のある服があった。攻撃アップ。防御力上昇。魔法攻撃上昇。
それを売れば、冒険者でもある程度は食える奴になれただろうに。
しかし、それをせずにずっと馬鹿にされて冒険をしていたカノンは本当に馬鹿なのか。
ヨシヒトには、あまりわからない。
彼女の思考なんて、人間関係なんて、わからない。理解できない。
結局今は、カノンを生き返らせることが優先で、死んだという事実をどうしてももみ消すことが一番重要で。
それがダメなら、ここで死んでもいい。
面白そうな世界に来て、面白そうな設定を持ったダンジョンで。結局一人殺して、人間関係が破綻して、一人で生きて行くのか。せっかく面白くなって来そうだったのに。
何もしていないのに。
人生が、損した気分だ。
そうやって、また目の前にはモンスターがいた。
生きていた。
いや、今までのモンスターではない。
肢体ははっきりと動き、地面を捉えている。
顔ははっきりとヨシヒトをにらみ、グルルると吠える。
生きた、四つ足歩行のモンスター。
これは、デッドオルトロス。
そんな名前は知らない。しかし、一角狼よりもはるかに強そうで、そして、それはヨシヒトに今にも襲いかかろうとしている。
「これが、人殺しの末路か」
ここで死ぬのかとも思った。
けれど、全く死ぬ光景が見えなかった。
オルトロスが飛びかかる。
その牙を向けて、ヨシヒトはそれにたじろいで動けなかったが。
グサリ。
という、思い込み。
デッドオルトロスの牙。その攻撃を真正面から受けたはずのヨシヒト。
全くのダメージゼロ。
この階層で、「死ぬこと」はできないのだと思い知った。
「これは、罪か」
死ぬことができないというそれ。
一種の拷問か。
アイテムボックスから、一本の剣を取り出した。
聖剣カリバーン。
昨日手に入れていた剣。それをでたらめに振り回す。
それだけで、その犬は、消滅した。
コロン。とアイテムがドロップして、ヨシヒトの目の前に出現する。
次の瞬間に、そのアイテムは消え失せる。
ヨシヒトの自動設定をしていたアイテムボックスの自動回収システムが発動し、それが回収された。
回収された、デッドオルトロスのドロップアイテム。その名前は「呪いの首輪」。
半透明のディスプレイに投影された、そのアイテムの3Dイメージ。
その効果は、「使用者の命令を、被使用者に強制させる。しかし、使用者の力に依存」。というもの。
いろんな作品に出てくるような、奴隷の首輪のようなものか。それともなにか。ヨシヒトに対する嫌がらせか。
「俺は、どうすればいい?」
結局は人殺し。
このまま、願いを叶えられずに外に出ても、死刑か、奴隷か。
そんな未来がなくても、どんな刑が待っているのか。
罪人には明るい未来はないのに。
「早く、見つけないと」
盲目的に。それしかないように。
すがるように。
願いは、一つ。
どんな方法でもいい。
「俺を、人殺しにしないでくれ」
もがいても。足掻いても。
ヨシヒトを助けられる人間はここにはいない。
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