第13話 スマフォ
ギルドに入る。そして、そのままカウンターに詰め寄る。
その間も、後ろにはカノンがいるのだ。彼女はヨシヒトを引っ張って、「猫耳亭」へと帰ろうと努力しているが、少なくとも彼女の力ではヨシヒトを動かすことはできないだろう。
力的にも、ステータス的にも。
「宿を借りたいんだが、どこかオススメを教えてくれないか」
そのカウンターには受付嬢がいた。昼にヨシヒトの受付を担当した受付嬢。
彼女は、そんなヨシヒトに対して、虫を見るような目で眺めて来た。なんだかキャラが変わったような気がしなくもない。
「ああ、昼の冒険者さん。もしかして、その後ろの彼女は疫病神ですか?」
「疫病神とは? 彼女とはダンジョンであっただけだ。しかし、ずっとつけまわされている」
「へーえ。疫病神が自分から。珍しいですね。ところで、宿ですか? そんなの案内所にある端末で調べれば一発じゃないですか?」
ポニーテールを揺らして、その席から立ち上がる。「ちょっと待ってくださいね」と、カウンターから裏の方へ何かを取りに行ったようだ。
カノンは、無駄なあがきをやめ、ヨシヒトに横に並んだ。
「疫病神か。お前は」
「そんな風に呼ばれていますが、別に私は何も知りませんよ。どうしてそんな風に呼ばれているのでしょう」
カノンは、ずっとヨシヒトを見ている。
ところで、このカノンという少女。見れば、とても整った顔立ちをしている。
少女というのだから、あまり成長してはいない。せいぜい高校一年生程度の年齢だろうが、しかし、鼻筋は通り、瞳は大きい。髪は肩までのショートボブで、色は黒。よくよく見れば瞳の色はよく見なければわからない程度にオッドアイである。
背丈は、ヨシヒトの肩よりも低いくらい。
元の世界であれば、とても可愛らしく、モデルでも芸能人にでもなっても文句はないどころか、応援はしないだろうが、可愛いなと思うくらいには。
結局、彼女の頭はともかく、容姿はとても可愛いということ。
しかし。
「あ、でもお金がありません。よければヨシヒトさんお金を貸してくれませんか? どうせなら同じホテルで同じ部屋でもいいですよ」
この世界に来て早一日も立たないが、どうしてこんなに少女に懐かれてしまったのか。いや、違う。懐いているのではない。これはお金を節約するための技術なのかもしれない。
今までどれほどの男のお世話になったのか。
しかし、今のヨシヒトにとって、その提案は別に良いとも悪いとも思わない。
いまは一人になりたかった。
「あ、疫病神。冒険者さんに何を言ってるんですか。冒険者さん、いやミウラさん。その疫病神とは本当に関わらない方が身のためですって。いくらの人間がこの疫病神のせいで怪我をおったのか。正直、この街にはいないで欲しいくらいなんですよ」
「おい、少なくともこの業務中に言ってはいけない言葉だろう。お前の品性を疑うぞ」
これはサービス業。案内所というだけあって、あまり個人を貶す言葉を言う人間を信用はできない。が、それはカノン以外の人間に対しての話。あまりカノン自身にいい印象を持っていないだけに、別に許容の範囲内である。
「はい。すみません。今いうべきではなかったですね」
「そうですよ、そうですよ。疫病神さんに失礼です」
当の本人は、さっき確認したはずなのに、今の言葉を自身に言われたとは微塵も感じていないらしい。恐るべきそのプライド。それに対して、何も思うところもないようだ。
「ところで、ミリーナ。この偉大なるヨシヒトさんは深層冒険者なんですよ? あまり馴れ馴れしくするのもどうかと思うの」
「え? そうなんですか? ミウラさんは今日冒険者登録をしてギルドカードを発行したばかりなんですが?」
「そんなところは信じるのか? 受付嬢の名前はミリーナというのか。じゃあ、改めて、俺はミウラヨシヒト。深層冒険者ではないと思うぞ」
「そ、そうですよね。この疫病神、いつか殺す」
「そんなに疫病神を殺してもいい事なんてないですよ。もっとハッピーに生きましょ! ミリーナはいつも不機嫌なんだから」
「では。私はミリーナ・バンホーテン。このギルドの受付嬢をしています。改めてミウラさん、よろしくお願いしますね」
そういって、彼女、ミリーナは持って来た「それ」をカウンターに置いた。
それは、ヨシヒトにとっては短な存在である、「スマートフォン」だった。
「スマホか」
「? 知ってるんですか? このスマフォ。これはですね、スマフォですよ、スマフォ。ミウラさんの地域では少しなまってるんですね。可笑しいです」
ふふっとミリーナは可愛らしく笑う。
しかし、ヨシヒトも優しい表情をして、「スマフォっていうんですね」と返す。
どうしてか、最初の印象がこの世界のヨシヒトの価値観を左右するらしい。
よって、おそらくだが、カノンの評価は今後一切変わることはないだろうと思われた。
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