第12話 おごり

 カノンは、顔をヨシヒトに向ける。


「そのマント。私いっぱい持ってるんですからね!」




「マント?」




 予想外のそれに、ヨシヒトはたじろぐ。転移して来た魔道具のような、そんな存在をカミングアウトされるかもしれないと思って、身構えていただけに、そんなどうでもいい事を勿体振るように言われて、少し安心したかもしれない。


 でも、それでもだ。




「このマントは、そんなに出回るものなのか? まぁ、ただのマントだ。別に対した能力はない」


「そうなんですね。私がたくさん持ってるマントは隠密のマントって言いまして、30分隠密が発動します。どの程度かは知りませんがいっぱいあります。よって、このマントは安いんです。


 深層冒険者なのに、そんな低いランクのクズ防具を使っているだけに、もしかしたらそんなに強くないのですか?」




 多少マトを得ているから少しムカつく。


 しかし、その程度の情報を、勿体振る程度で、もしかしてあまり頭がよろしくないのかもしれない。


 いや、それは、この猫耳が言っていたか。




「もしかして、ヨシヒトさんはカノンちゃんの彼氏ではないのかしらぁ」




 猫耳母が言う。


 母というが、しかし彼女の別にそんなに老けているわけではない。どちらかと言えば、カノンよりもヨシヒトに年齢は近いのかもしれない。


 そして、猫耳母は




「別に、カノンちゃんに悪いことしないほうがいいわよぉ。見ての通り頭がよくない事を察したようだけど、カノンちゃん、悪運強いから」




「目の前で言うのかにゃ。聞こえていないようだけどね。で、どうするの?」




 もう一人の猫耳がヨシヒトに尋ねる。


 別にそれ以上に、ここに留まる理由はないが。




「俺は帰らせてもらう。宿がないからな」




 のほほんと笑う、猫耳少女は


「ここに泊まればいいと思うのぉ」




 ニコッと笑いかけるが、しかし。




「ここは居心地が悪いから」




 カノンはそれでも、ヨシヒトの腕を離さない。むしろ強くなったようだが。


 それでも、ヨシヒトはこの店を出て行く。猫耳の二人は止めようともしない。笑って眺めているだけ。あまり興味を持っていないようだった。


 いや、興味はあるのだろう。しかし、カノンの保護者のような存在から、カノンの変わる姿を見たいのかもしれない。


 しかし、その「悪運が強い」と言う言葉に少しだけ気になったが。






 その店を出る。


 引っ張られるように、カノンも一緒にその店を出るのだった。


 カランカランと、扉のベルが鳴る。


 やはり人通りの少ないその道は薄暗く、そして、ほんのりと光る「猫耳亭」の看板が目立つ。




 カノンの体重が引っ張ってもそれでもヨシヒトは気にすることはない。その程度には筋肉量も強化されていたし、それ以上にカノンは体重があまり重くはないのだろう。




 裏路地から、大通りに合流する、そんなところで後ろから声が聞こえるのだ。




「カノンちゃん、これはツケよぉ」




 大声ではないだろうが、よく通る声だ。




 「ーーーーお」




 カノンが、何かを口にする。


 それでも、そのまま道をまっすぐ道を進む。


 ギルドの方へ歩くが、カノンは、足を動かそうともしない。ずっとヨシヒトに引きずられている形から動こうともしない。しかし、そんなにずられて靴は磨り減りそうだ。




「お金を払ってくださいね。これは、奢りって話をしたじゃないですかぁあああ」




 まぁ、いつか。な。

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