第14話 ホテル


「ここが、この街1番のサービスを誇るホテルなんです。値段は少し高いですが、朝食もついてくるです」




 王手ランキンングサイト。この世界の誰かが管理しているそのウェブサイト上で、ミリーナとヨシヒトは唸っていた。


 あまり所持金がないということをミリーナに告げると、ギルドが発行する割引券をくれた。


 これで、2割引というのだ。


 2割引はとてもすごい。1000円のものが800円で買えるのだ。途轍もなく、果てしない。(語彙不足)。




「でも、私はヨシヒトさんにお金を借りるので、あまり高いところは強請れませんよ」




 なぜか、このカノンはヨシヒトにお金を借りる前提でこの会話に語ってくるのだ。すごく、鬱陶しい。この町に住んでいるのであれば、家はありそうな気がするのだが、しかし。




「この街に家はありませんよ。ミリーナに追い出されてから、いろんな宿を転々としてますよ」




 と返ってきたので、もう、何も期待しない。


 そもそもなんでカノンはヨシヒトについてこようとするのか。鬱陶しい。




「じゃあ、この宿ですね。私もたまに温泉を利用させてもらってるんです」




 そこは、この街で源泉が湧いている唯一の宿である。


 いろんな効能があるというのだが、別に興味はないので覚えてはいない。




「料理も、このダンジョンから取れる新鮮な素材を使っているので、とてもおすすめです。


 それに、今なら私もついて行きますよ」




 ミリーナはサムズアップして、ヨシヒトにいう。




「それはどうして?」




「今日は丁度温泉の気分なんです。ミウラさんいい人そうですし、これから活躍しそうなので私のオススメ料理を奢っちゃいますよ! 今後の投資です。


 だから、明日から頑張ってくださいね!!」




 ミリーナは笑いかけてくる。それは天使のようだった。


 最初の目付きの悪い、そんな印象を払拭できるほどの。


 もしかしたら、彼女は二重人格のような、そんな正確なのかもしれないと思ったが、しかし、この笑顔を見れば、騙されてもいい。


 詐欺で全てのお金を取られてもいい。


 結局、ミリーナに貢ぎたい。




 そんな心情にかられる。




「また、ミリーナが同じこと言ってる。何人目だよー」




 疫病神のカノンがそう言った。


 ずっと無視していたのだが。




「別にいいじゃないですか。いい男さんには、いっぱいサービスしなくちゃいけないんですよ」




 ミリーナは不敵に笑った。


 頬を赤らめて、そして、少し熱っぽい。


 そんな目で、見つめられて、悪い感情はないだろう。




「よし行こう。早く行こう」




 その日、稼いだ一日分のお金は、ギルドカードの口座から消えた。




 89000J。実は、この街の一ヶ月の平均収入と同じかそれより少し多いくらい、らしい。








 朝起きると、ミリーナは宿にいなかった。


 ミリーナは、夜の間に家に帰ったらしい。しかし、その宿の同じ部屋にはカノンが一緒に寝ていたのだった。


 しかも、浴衣は半分はだけていて、大事なところすら見えている始末。


 夜の記憶はほとんどない。


 しかし、そんな過ちを仕出かした事は、神に誓ってないと言いたい。




「こうして黙ってみれば、カノンも可愛いよな」




 疫病神。どうしてそうやって言われ始めたのか、少しきになる。


 でも、これ以上、カノンに関わりたくはないのも事実。




「はぁ、でも起こさないといけなんだろ。これは」




 実は、チェックアウトまであまり時間はない。


 もうすぐ昼になる。




「おい」


 カノンの上に布団をかぶせて、それを軽く蹴りつける。


「起きろ、なんでここにいるんだ」




「ふぁぁぁぁ」




 大きなあくびをするカノンは、同じ部屋に男が居てもなんら警戒することをしない。つまり、彼女はそう言ったことに慣れているのか。しかし、ヨシヒト自身、そんな記憶はない。やましい事はない。




 結局、彼女を蹴って起こすのだ。




「おい。本当に起きろ。ここの宿代を全て持ってもらうぞ」




「ふぇぇ、お金はないのです。許してください」




 飛び起きるカノンは、そのはだけた浴衣の最後の砦の帯すらその場で外してしまい、そのあまり成長をしていない肢体をヨシヒトに晒すことになる。




 ヨシヒト自身、そんな気分ではないにしろ、しかし、目の前に異性の、それも好みの容姿ではないにしろ、一般的に可愛いと言える女性の裸を見て、何も思わないわけがない。




 ヨシヒトは、そのまま、その部屋を出て行く。


 その扉の外から。




「準備をして早く出てこい」




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