第15話 きぞく
ギルドには喧騒に包まれている。
そこには、色々な人種の冒険者がたくさんたむろしている。
「これはどうしたことか。超級冒険者の二人がこんな所にいるなんて、素晴らしいことだ」
「これはこれは、伯爵様ではありませんか。自由都市にわざわざどうしましたか? 足を運ばれる理由があったのですかな」
鼻の下のヒゲを伸ばしている、偉そうな、派手な色を使った服を着ている彼は、ミリーナから写真を見せてもらった、今代のギルドマスターである。
そして、彼と話しているのが、自由都市アーバンより、少し離れた場所にある、ガバディ伯爵領を収める、ガバディ伯爵だった。それを知っていたのは、カノンである。
「このアーバンでは、最近面白い事件が起こっていると言う。その調査をしに来たまでよ」
もう一人のヒゲは、顎を中心に伸ばしており、そして彼は冒険者のような、能力値を高く評価し、見た目は伯爵とは思えない、そんな格好をしている。それに、彼に付き従う従者たちも、執事やメイドなどではなく、冒険者をそのまま雇い入れたような、野蛮で極まりない、そんな服装と、武器を携えているのだった。
結局は、ガバディ伯爵は、本当に、ダンジョンの何かを調査しに来たというのは本当らしかった。
「その面白い事件とはなんですかな。私めにはあまり学が無いようでして、最近『面白い』と言える事件は報告されていませんよ」
「そんな謙遜をしなさんな。ギルドマスター。その事件のために、その二人の冒険者を雇い入れたのでは無いのですか? いち早く、その事件を解決するために」
「いえいえ。かの超級冒険者の二人は、そんなことで動いてくれる人では無いのですよ。この私が一番に知っていますとも」
「しかし、それ以外には考えられませんな。どうして中の悪い二人が、同時にここに来たのでしょうか」
「それも、私には分かりかねる質問ですな。伯爵、あなた方も、あまり招待された客でも無いでしょう。あまりにもここは場違いな所でしょう」
「それはそれは、心配をしているのですか? ありがとうマスターよ。しかし、そんな心配など無用。彼らも並の訓練を積んでいるのでは無いのです。あそこにいる少年より強いですよ」
伯爵が指をさすのは、ヨシヒトである。
あまり強そうには見えない。それは当然である。何も武器を持っていない。それに、格好は黒の膝までの長いマントを着て、それだけでは、何も判断できなさそうであるが、しかし、その歩き方から、気配の消し方や、その他すべての点において、「素人」であるのだ。
「いえ、彼は、昨日冒険者になったばかりの新人でして」
つかさずミリーナがフォローする。
「素人では無いと言っているのだよ」
「はあ」
ヨシヒトは、微妙に頷いたのだった。
しかし、伯爵の視線は、ヨシヒトのすぐ隣に移る。
「それは、君の連れかね?」
彼女は、カノンという。とても、容姿だけは一流の「馬鹿」である。
「いえ、別にそんなのでは無いのですが」
「じゃあ」
伯爵は、こちらへ歩いてくる。
その間、人混みは伯爵を避けるように道ができるのだ。
ミリーナは腹黒い笑みを見せる。そして、カノンは、引き攣った笑顔を見せた。
カノンの前まで来て、止まる。
しかし、カノンは、ヨシヒトの後ろに隠れる。服をしっかりとつかんで、頑なに、伯爵に姿を見せないように。
「どうだろう。君を私の妻にしたいのだが」
「え、ええええ。いやです」
顔を見せないまま、カノンは断る。そして、ヨシヒトの背に顔を埋める。
「そこをどうか。私はガバディ伯爵。アーバンの外の周辺一帯をまとめる領主だ。
生活には、全く苦はないだろう。幸せな生活は保証しよう」
必死な伯爵に、ヨシヒトは
「はい。貰ってやってください。こいつも幸せでしょう」
「いや、嫌ですよ、いや、本当に嫌ですから」
カノンは、ヨシヒトに抱きつく力を強める。
あまりうれしくはないが。
「お願いだ。話だけでも聞いてくれないか」
詰め寄る伯爵。
しかし、カノンは顔を見せようともしない。
「マスター、俺たちはもういいよな」
「いや、どうでもいい。貴族なんぞに関わるとロクな目に合わん」
「もう行かせてもらう」
そんな話が、聞こえたとか聞こえないとか。
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