第8話 同行者


 宝箱の中身。


 罠ではないだろう。いや、罠のわけがない。


 結構な苦労をして手に入れたのだ。




「これは」




 開けたその中。


 一つの布が入っていた。それ以外はない。


 取り出すと、入っていた宝箱が消える。




「なんだ、これは」


 マントのようだった。


 真っ黒の、体をすっぽりと覆うほど大きいマント。




「名前は…………アイテムボックスに入れたらわかるかな」




 そう思って、それを収納した。


 名前は【脱出と隠密マント(99/99】。




「ださいな」




 それは名前だけだろう。


 名前がその効果を物語っている。


 このダンジョンから向け出せるのだろう。


 アイテムボックスから取り出す。そして、そのままそのマントを被った。




「結構、付け心地はいいのな」


 絹のような肌触りと、羽のような重さ。全く重さを感じない。


 耐久性も結構ありそうだ。




「で、どうやったら脱出の効果を使えるのだろうか」




 念じて見た。


 頭の中で、いくつかの場所が候補として現れた。


【一階層:3番 二階層:1番 二階層:4番】




 出口に近いやつか。すると、誰かに見られる可能性もあるわけか。


 あまりレアなものかわからない。一般的なものなのかもしれないので、わからないが、それでも考えすぎではないだろう。


 すると、一階層では少し人が多いかもしれない。


 二階層の4番というところが一番見られる確率は低そうだ。選択肢の中で一番遠くにありそうだからだ。


 でも、それでも出口の方がわからないかもしれない。逆にまた奥に入っていく可能性を考えて、




「二階層の一番。だな」




 そもそも、そんな番号をつけられて、どこがどこだかわからない。


 というか、今の階層すらわからない。




 ダンジョンでは邦楽すら理解できない。


 そもそも、階層を降りた感覚すらない。


 横に、歩いていただけなのに。階層を移動しているなんで、どんなびっくり体験だ。




 選択した。瞬きしたとき。少しだけふわっとした感覚があって、それだけ。


 周りの景色は全く一緒。




 だが、違うものがあった。




「あ」




 そこに人がいた。


 少し若い女。軽装をして、少し身の丈より長い剣を持っている。


 そして、小柄な狼と対峙していて、しかし、その狼を一方的に叩きのめしていた。赤い血が、少女の顔にべっとりとついていたが、最後に剣を狼に突き刺した瞬間、その血糊も一緒に光となって消えた。




「え?」




 彼女が人の気配に振り向いた。


 そこにはヨシヒトがいる。


 二人は、お互いの存在を認識し、数秒の間動かずに、そのまま見つめ合う形になる。




「え? あの、いえ、違うんです。別に人がいて驚いたっていうか」




 少女が何か弁解を始める。


 ここに転移した光景を見られてはないのならそれでいいのだが、




「ああ。すまない。別に何をしていたわけではないんだ。迷ってしまってな」




 少女は、頷いて、


「そうですか。では、出口まで案内しますね。私もそろそろ切り上げようと思っていましたし」




「そうか。それはありがたい。頼んでいいか」




「ええ、もちろん。任されましたよ」


 胸を叩いて、片手で握っていた長い剣を腰の鞘に仕舞ってから、ヨシヒトの元に歩いてくる。


 ちょうど、目の前で止まると、片手もグローブを脱いで、手を差し出してくる。




「ん?」




「少しの間ですが、よろしくお願いしますね」




 握手を求めていたのを気づいたので美人は差し出された手を握る。


「ああ、外に出るまでよろしく頼む」




 そして、彼女は何かを思い出したように


「あ。さっき何もない場所に現れましたよね。何か、魔法というか道具を使ったんですか?


 それとも転移のトラップ?」




 バッチリと出現の瞬間を見られていたようだ。


 戦闘中だったので、見ていないだろうと思ったが。


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