第7話 たくさんのドロップ
「ふぅぅ」
大きく息を吐き出す。これから自分よりも巨大な生物と命の取合いをするのだ。
緊張しないなんてことはない。
「さぁ、来いよ。初戦のお前は馬刺しにしてやる」
馬顔との距離は50mはあるだろうか。
それでも巨躯がその距離をそれ以下に見せる。
地面を一気に蹴り出し、その衝撃で地面が大きく削れる。
陸上部時代のそれとは大きく違う。一歩で数メートルは進む。
ユニコーンのツノを横に構え、そのスピードを維持したまま、すれ違いざまに一発切りつける。
馬顔の動きはそこまで早くない。すでにスピードではヨシヒトが優っていた。
ヒットアンドアウェイ。
斬り付けると、一発で馬顔の攻撃が届かないところまで走り抜ける。それの繰り返し。
「結構楽?」
体力が減った感じはしない。これなら何度でも動けるだろう。その動きの翻弄され、馬顔の巨体はヨシヒトを捉えるだけで精一杯な印象を受ける。
「でも、攻撃がかすり傷程度しか与えられていないな」
数十回は続けた攻撃だが、これと言って手応えはない。
敵から受けた攻撃は最初の咆哮のみであるが、しかし、これではジリ貧。攻撃手段がこのユニコーンのツノしかないのだから。
「止まってくれれば上から攻撃できるけど」
瀕死のモンスターにとどめを刺してきた、攻撃手段は、動いている対処にはあまり意味がない。しかも、斬り付ける足元の肉質は結構硬いので、一角狼のツノ程度では傷すらつかない可能性が高い。
かと言ってユニコーンのツノを大量に使うわけにはいかない。
「って、言ってもな。ここで死ねば関係ないけどね」
なんのために温存するのか。なんのために未来の心配をしているのか。
結局、この戦闘を切り抜けることが先決だというのに。
「何か有効な手段はないか」
アイテムボックスの中には、今までのモンスターがドロップしたアイテムしかない。
何をドロップしたのかさえ知らない。
もしかすると、何か攻撃できる武器などあるかもしれない。が、どう確認ればいい?
「リストとか出ないか」
口に出す。
その間もずっと動き続けている。最低限攻撃はしなくとも、敵からの攻撃を受けない程度に。
一発でも受けると死にそうだ。
ステータスの値が肉体にどう影響を与えているのか知らないが、それでもあまり痛そうな攻撃は受けたくない。
そう考えていたとき。
目の前に現れるのは、アイテムボックス内のアイテムリストが表示された半透明なディスプレイ。
「ちょお、待て。いま出るのはまずい」
視界が遮られる。
ただでさえ初見の舞台だというのに、そんな嫌がらせをされると死んでしまう。
「全部見れないし、どうせなら武器だけソートしてくれよ」
と、遮られた視界の中、あがいて、攻撃だけを避けて馬顔の方をみる。
半透明なディスプレイは、視界の真ん中に位置どり、カーソルがぐるぐる回っている。
OSの読み込み中みたいだな。
そう思う。
ぶぅぅぅぅぅん
巨大な斧が馬顔の頭上で振り回される。風が巻き、小さな竜巻が起こる。
小さな石から、結構大きな岩までもがその風で巻き上げられる。
「うおっ」
その場で踏ん張りながら、後ろに小さく下がっていく。
だが、その頑張り虚しく、いつの間にか足が地面から離れている。
「これは!?」
斧を回転させて巻き上がる竜巻。
その中に巻き込まれている岩などは、風の中にある斬撃により粉砕され砂となっている。
細かくなる。その光景はまるでミキサーであった。
ぽん。
読み込みが終わったようで、アイテムボックスの中にある、武器に分類されるものがその正面のディスプレイに表示される。
【聖剣:アロンダイト(レプリカ)
鉄の剣×101
魔法の杖×20
・
・
・
魔法のパイナップル×2(威力倍増)
マジックキャンセラー(49/999)】
焦る。
もう少しでミキサーの中に入り、この体は粉砕されるだろう。
少し、楽しくなってきたところなのに。
「マジックキャンセラー。名前の通りだと」
おそらく、魔法的な攻撃を無効化できるもの。
このミキサー攻撃は魔法攻撃か、それとも腕力的なものか。
どちらでもいい。マジックキャンセラーをアイテムボックスから取り出す。それは拳銃のような形をしている。
しかし簡素で、銃口には穴がない。トリガーを弾けるだけのおもちゃのようなものだった。
考えている暇はない。その効果が予想通りなら、これを向けて引けば、この攻撃は止まるかもしれないのだ。
「いけっ」
ぱしゅん。
馬顔に向けた拳銃を、なんのためらいもなく引いた。乾いた音がなる。
瞬間。視界が開く。半透明なディスプレはまだ開いたまま。しかし、その外を覆っていた竜巻は消え去り、馬顔が持っていた斧すら消えている。
ヨシヒトは空中で振り放され、結構な高さから、結構な速さで地面に叩きつけられる。
しかし、死んではなかった。
「まずは、一時しのぎ。これからどうするか。
この聖剣を取り出すか?」
と言っても、剣道なんてしたこともないので、振りは素人。このユニコーンのツノもちゃんと扱えていないのに、剣を使うのはもってのほかだろう。
魔法の杖の類も今は関係ない。魔法なんて使えないからだ。
「魔法も技術も関係ないもの」
銃とか、爆弾が欲しい。ロケットランチャーなどがあればいいが、しかしこの世界でそれはない。そもそもダンジョンでドロップアイテムしか持っていないのだから。
気になるのが、魔法のパイナップル。
爆弾のような気がしなくもない。
まず、アイテムボックスから出してみる。
「これは、手榴弾のような」
近代兵器図鑑などで見たそれ。
使い方は、ピンを引き抜いて、相手に投げるだけ。
「えい」
ちょうど、それは馬顔の足元に届いた。
それが地面と衝突する瞬間。
轟音と衝撃波がその部屋を吹き抜ける。粉塵と小石が巻き上がり、視界がふさがる。
炎がそれを燃やす。焦げとプラスチックが燃えるような異臭。
ゴォォォォォォ。炎上する音か、それとも生物があげる悲鳴か。
煙が開けると、爆発の中心は大きなクレーターが空いており、その中心で、巨大な生物が真っ赤な炎の中で動き犇めいている。
それを、ヨシヒトは見ていることしかできない。
徐々に、その動きは弱弱しくなり、次第に動かなくなっていく。
毛皮が燃え上がり、地肌がするりと溶け始めている。すでに骨が見えるまで爛れている部分もあった。
ゴォォォォォォ。
断末魔か。
その音を最後に、馬顔の巨体は大きな光なり、四散した。
それがいた場所には、宝箱が一つだけ不自然に出現した。
「終わりか」
長いように感じて、短かった戦闘が終了する。
相手からの目立った攻撃はなく、あまり大きな外傷もない。
自力勝負ではない。道具を使った勝負から正々堂々ではないが、結果的にヨシヒトが勝った。
しかし、それでもよかった。
どのくらいの力量があるかもわからない。この魔法のパイナップルがなければ、どうなっていたかわからない。そんな勝負でも。
「ああ。楽しかったな。死にたくはーーーーないな」
少しだけ心境の変化があったのだから、収穫だろう。
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