第6話 いい考え


 体は満身創痍。


 傷ついた全身。両手には力が入らない。


 吹き出す血はとめどなく流れる。




「ああ、死んだのか」




 ダンジョンの一角。


 間違えてはいった、その部屋。




 瀕死のモンスターではない。


 そこには、ピンピンに生きのいいヨシヒトを殺さんんとばかりに睨みつける、




 このダンジョンで初めて会った、戦闘不可避のモンスターだった。







 ステータスカード。


 言えば、この世界は、この神が作ったというカードで支配されている。


 そう言えば、このカードと宇宙のサーバは更新しているのだろう。




 このダンジョンの中でもそうだろう。


 ステータスは更新されている。


 ダンジョンでの位置ももしかしたら知れるかもしれない。


 マップのような、そんな機能はないのだろうか。




「それは、便利すぎるだろうか」




 探してみるが、ステータス以外、身分証明として使えますよなんて、そんな説明があるだけ。


 そうしているうちに、また瀕死になったモンスターの群れを見つける。




 先ほどのように、瀕死になったモンスターの頭上高くにアイテムボックスの出口を設定する。


 次は、【一角狼のツノ】ではない。


 【一角獣の幻角】という、ユニコーンのツノである。


 これも、今と同じように殺したモンスターから手に入れたものであるが、ユニコーンは他のモンスターと違い毛皮がすごく硬かった。


 結果、一角狼のツノはボロボロになった。何度も攻撃したのち、反撃なくユニコーンを殺したのはいい。


 そして、ドロップしたのは、毛皮とツノ。


 これはすごく高く売れるのではないだろうか。と、概算してみるが。別にどうでもいいのだ。




 モンスターの頭蓋を貫通して地面に突き刺さるユニコーンのツノと、ドロップしたアイテムを一緒にアイテムボックスの中に回収した。




「あ、これは」




 攻撃中でも、歩行中でもあまり注意していない。ステータスカードをずっと見ていた。


 死んだら死んだ時。


 そんな考えだからあまり注意を周りに向けていないのだ。


 向けていたとしても、あまり関係ない。


 目に見えないモンスターは見えないし、死角は死角なのだ。


 そんな人外のスキルなんて、異世界に来てすぐに持っているわけがない。




 そして、今見つけたのは、「踏破階層表示」というもの。




 ダンジョン毎に記録されるのだろうそれの、自由都市アーバンにあるダンジョンの欄。




「78階層。ほらね。結構歩いたと思ったんだよ」




 まだ、凄腕の冒険者とは会っていない。


 しかし、瀕死になっているモンスターは、最初に比べて少ない。


 おそらく、階層が深くなる毎に強くなっているのだろう。だが、入り口とここ周辺は、結構レベルが違う。




 最初にいた群れが50匹ほどの瀕死モンスターだったが、いまのモンスターは、群れてはいるが、10匹前後。


 5倍程度の強さになっていると言っていいだろう。




 単純計算、五倍ということは、レベルーーランクも五倍程度ということか。




「だったら、ステータスカードのランクは、いま70くらいないと危ないのか」




 そうやって、再びギルドカードを確認するのだ。


 探していた時にも見ていただろうが、如何せん覚えていない。


「レベルは、…………………50じゃないか」


ーーーーーー


ミウラ・ヨシヒト(20)


rank 50


HP SG124 


STR SF141


DEX SC208


VIT SH111


INT SE176


AGI SF150


MND SSA678


LUK SSC580


スキル:がwれh、アイテムボックス3、魔法適性、強奪者、虐殺者、観察者、射出4


ーーーーーー




 ステータスは、軒並み三桁にはなった。しかし、この世界の平均ステータスがわからない。


 受付嬢は、Dランクスタートが平均的とは言ったが、それは冒険者のランクのことだ。ステータスではない。


 まぁ、一回引き上げてもいいが、しかし、こんな機会はもう2度と訪れないのではないだろうか。


 こんなモンスターたちをたくさん放置している冒険者パーティはあまりいないだろう。




 今回がサービス回だとして、これを十全に活かせないなら、そのほかにあったとして、同じような失敗を繰り返すのではないだろうか。


 もう少しだけ、行ってもーーーー。




「いや、やっぱりやめるか。流石に欲をかきすぎるか。死んでもいいが、自分から死にに行くのは馬鹿らしい」




 その時、初めてヨシヒトは引き返すという選択肢をとった。


 それが「LUK」からくる直感ということに、気がつくわけがない。




 引き返すと行っても、それはそれで苦難だ。


 最初は、目印があったが、しかし、モンスターを殺したのち、その血も肉も全てが光となって消えて行くのだ。


 そこには何も残っていない。 


 結果、




「迷ったのか」




 どこに行けども同じような空間だ。


 そして、出口に行っているのか、はたまた深く潜っているのか、わからない。




「いや、何も考えなかったから、自分が悪いが。


 帰りにモンスターに遭遇しないと、誰がいった」




 行って帰るまでがダンジョン冒険。


 深く潜っても、帰りで殺される冒険者もたくさんいるだろう。


 疲労と、そして時間と、運と、それらを全てまとめて、実力だろう。


 その実力がないものが、その身よりも遥かに不相応な階層から、安全に生還できるわけがない。


 ヨシヒトは、戦闘をしたことがない。


 いや大学でも、スポーツは陸上のみ。


 走ったことしかない。


 喧嘩もしたことがない。




「これは、やばいかもしれない」




 護身用のユニコーンのツノを持って、前方に注意をしながら、来た道を引き返そうとする。


 まっすぐ進む。


 すると、そこには大きな宝箱が中心にポツンと置かれた部屋を見つける。




「あーこれは罠っぽいな」




 あまり近づきたくはない。


 しかしきになる。




「アイテムボックスで回収するか」




 アイテムボックスの効果範囲は、自分を中心として円状に半径5mくらい。


 確かではないが、その結果、その部屋に足を踏み入れることになる。




「あーなんか出てくるだろうなー」




 そうやって、フラグを構築して行く。


 ゴゴゴゴゴゴーー




 ダンジョンに響くその地響きの元凶。


 やはり、その宝箱。




 「これは、近づかないほうがよかったか」




 もう遅い。


 その少し広くなった部屋。その出入り口、通り道、全てに上から岩が落ちて来て塞いだ。




「これは死んだな」




 脱出不可能の、強化されたモンスターが出るような前兆。




「まぁ、これも人生だ」




 ズズズズズズーーーー


 地面から、「それ」が生えてくる。




 馬のような顔をした、人間の体を持つモンスター。


 ガチむちで、筋骨隆々としたその体躯。全長は7mを超えそうだ。


 人間のボディビルダーの全身と同じくらい太い両腕で抱える巨大な斧をもち、




 その目がヨシヒトを捉えると、馬顔モンスターは大きく吠えた。


 地面が咆哮で抉れ、ビリビリとヨシヒトの体に衝撃を与える。




 片手で握るユニコーンのツノを強く握る。


 手元には、ユニコーンの毛皮を巻いているので、最低限の滑り止め。全力で握ってもそれで手のひらが傷つくことはないだろう。




「初めての死闘が、誰も見ていないこんな場所で、人外の何かとは、ついてない」




 奇しくも、ヨシヒトの口角はにたりと釣り上がっていた。

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