第31話 ヴァルヴ
『ヴァルヴとは、この世界の管理AIですね。そして、いくつかの世界生成シュミレーションを並行していくつも処理しているマザーAIであり、全能のコンピュータですね。
この私はそのヴァルヴの管理をしている人間ですよ。
結局ヴァルヴがどんな活動をしているのかという話ですが、主にこの「惑星くに」全体を保全していますね。それが一番最初の仕事になります。実はこの惑星外にも同じ人間が居ますから、そこから攻め込まれないように巨大艦隊の訓練、錬成、撃退、戦闘など色々と判断して居ますね。ほとんどがヴァルヴが判断して必要とするものを取捨選別してやって居ますね。
マルチバースって知ってますか? 宇宙はいくつも存在しているとか、そんな話ですがね、やはりこの惑星がある銀河には私たち以上の知的生命体が存在しておらず、別宇宙には沢山存在することを発見してからはそこに対抗するためだけに武力を磨いているんですよ。
それがヴァルヴとは何かという問いの答えです』
その答えは、納得してもできないような内容だった。
ヨシヒトにとっての世界と、このコンピュータが見ている世界は全く違っているのだ。そこに共感できるものなどあるはずもない。
そんな話を聞けば聞くほど自分とはなんなんだという矮小な存在が何をしているのかという疑問が出てくる。
『次ですね。このヴァルヴはコンピュータ上の仮想世界で住むこの世界の住人に対しての娯楽を作り出さなければならなくなりました。それがあなたたちの世界でもあります。
その娯楽というのは、えー。あなたたちの世界で言うようなオンラインゲームのようなものですね。人生ゲームです。
あなたたちの世界にも私たちの同郷がいまして、自由に遊んでいるのですよ。無限に遊べますからね。死んでも死なないですし。
すごく人口が多いので、何十にも何百にも世界を増やしました。それが「サーバ」という世界ですね。
全部で、ーーーー503124個ありました。実際全部把握してませんが』
地球と同じような世界を、宇宙を何個も何十も、何千何万も並列で稼働させてなお、マルチバース外の高度知的生命体からの侵略に対しての対策を常時稼働し処理しているといえば、それは果てしないレベルだろう。
ヨシヒトにはそんな感想しかない。
はっきり言って次元が違いすぎて何を言っているのかわからないのだ。
そんな世界の住人が自分の世界で遊んでいると。
はっきりと「神々の遊び」であろう。
隔絶した文明の差。
「どうしてそんな存在が俺のようなゴミに対して存在を認識するんだよ。それに会話ができているのはなんでなんだよ」
『それは、遊びだからじゃないですかね。
結局、所詮ゲームですよ。あなただって、ゲームに対してチート行為はあんまりいいとは思わないでしょ』
「な」
それだけで理解した。彼女らはヨシヒトたちになんら何も思わないのだろう。
ゲームの中のモブキャラクター。そんな立ち位置なのだろう。
「そのチート行為が、なんなんだ」
そもそも、ダンジョンというよく分からない世界の、そのよく分からないシステムの探索中であったはずだ。
そこで人を一人殺して、こんなに悩んでいた自分が馬鹿みたいである。
しかも、その人間は本当の人間ではないのだという。
その間の基準はなんだ。
このヴァルヴの世界の人間も同じバーチャルなのだろうが、そこと俺たちは何が違うというのだ。
『あー、はっきり言いますが、あなたの世界は色々と弄られています。
その世界には20万人の同郷の人間がプレイしていますが、結構苦情が来ていまして。なんか難易度がどうとか。
まぁ、それも今知ったのですが。
あなたが一人殺したとかどうとか言いますが、それを生き返らせることはできますが、私たちもあまり過度な干渉はしたくないのですよ。
では、簡単に依頼しますが、「ヴァルヴコンピューティングシステム回線」がつなげる場所はあと二つありまして、人工的に私たちが介入できるのはその回線からのみとなります。そのバランス調整もその回線からちょっとずつやらないといけませんが、いまの段階あなたが入って来た一つだけしか繋がっていません。
あなたのパートナーを生き返らせる代わりに、その回線を開いて来てください。
それが私たちがあなたに依頼することです』
それは、なんの話だ。
一気に話題がすり替えられたようにも感じる。
「は? それはーーーー」
『異論は許しません。あなたはヴァルヴに人権はありません。それにこの世界の人間ではありません。
元の世界に戻ってくださいね。
実際、あの回線に接続することは「ゲームクリア」になるだけで、この世界に逆に入ってくることはできないんですよ?』
これはわかった。出口しか用意していなかったのに、そこから入って来た。
そんな感じだろう。
その出口はゲームクリア用にアイテムでも渡す場所だったのだろう。
そこから入って来た。と。お繰り返したくなるわけか。
しかし、そのせいで、カノンを生き返らせる当てはついたのだ。
結局、ヨシヒトにはそれで十分であった。
この世界を理解するには、覚悟も頭も足りないのだ。
「わかった。元の世界に返せばいい。結局、意味のわからない世界に飛ばされたのは同じだ。
一つ前の世界に行ったって何も変わらない」
『そうですか。ありがたいですよ。では、またその世界で「ヴァルヴコンピューティングシステム回線」を開いたときに会いましょう。せいぜいあと二回程度の付き合いになりましょうが』
彼女が無表情でそう返す。それはもうただのAIにしか見えなかった。
そう返事した。そしてその世界がゆっくりとか澄んでいく。
彼女が送り返すプログラムを起動したようだ。
そこで思い出す。
「ま、待てーーーーー
もしかすれば地球に帰ることもできたんだよなーーーーーーーーーーー」
目が醒めるとそこは何も見えない真っ暗な洞窟であった。
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