第33話 思考停止
この世界が構築されるときに、神様はいくつかの制約を交わした。
【世界に干渉しない】
【行き過ぎた者には罰を】
【神は存在しない】
その制約通りに、世界は完成した。
現代になる何千年も前に、機械文明が発展したが、一夜にして崩壊した。一定の水準を超えたために罰を受けた。
それよりも前にも、何億もの人間が死に伏せた未知の病気に対しても、神は何も干渉しなかった。
そして、こんなにも魔術や魔法などが発達しているのにも関わらず、神を讃える集団や宗教はいない。
そう、宗教は存在しないのだ。
胡散臭い回復薬を配る人間も、神を信じない人間を侮蔑したり、亜人を嫌悪し差別する人間など、この世界には存在しないのだ。
それは、いくつかの国を回ったときに実感した事実であって、不変の真理である。
世界は全て、過去の遺物に管理されており、出生から死まで、監視されているのだ。
それにたどり着くまでに、人間は幾らの犠牲を払ったのだろう。
世界監視機関、そして世界統制機関の情報を盗み見れるアーティファクトは、現代にいくら残っているだろうか。
世界の全ての記録を見ることができる。人も、生まれも、育ちも、事件も、何もかも。
過去が全て管理されており、それを見ることができる。それに触れることも、改変することもできないが、なんでも知ることができるのだ。どんな監視カメラの映像も、衛星カメラであっても。
こんな機械、世界中どこを探しても、どこの国の王だって持っていないだろう。
全ては手中にある。
しかし、それは知っているだけで、それ以上干渉することはできないのだ。
この世界の神様と同じだ。
見ることはできても、それを手に入れることはできない。
《アストレア・コープ》
この機械をそう呼んでいる。いや、過去の誰かがそう呼んでいたのだ。それを流用しているだけ。
そのアストレア・コープが面白い情報をピックアップしたのだ。
「特Aランクのダンジョンが攻略された、ね」
暗い部屋の中、その「男」は面白そうに口角を釣り上げニヤリと少し黄ばんだ歯を見せた。
■
深層のダンジョンをクリアしたヨシヒトたちは、地上に戻ってきていた。
しかし、その地上は森の中である。
周りは苔むした祭壇があり、足元には掠れているが、少し発光している魔法陣がある。
つまり、古い遺跡である。
「は、はわわわ。こ、ここはどこでしょう!!」
目を輝かせたカノンは、ぴょんぴょんと跳ねながらヨシヒトの肩を叩く。
「まぁ、どこでもいいが、ダンジョンをクリアしても崩壊とかしないのか?
なんか、クリアすればモンスターが湧かなくなるとか、そんなの」
ヨシヒトの言葉に、ドラケンが目をまあるくして
「そんなことあるわけないじゃろ。そんなことがあれば、わしが世界を幾度か破壊してろうて」
「そんなもんか」
「そうじゃ。国営のダンジョンを片手では足りないくらいクリアしたわい。
こんなに深く潜れるダンジョンはなかったがの」
しかし、ヨシヒトにはこの国、いや、この世界の知識が何もない。最初の街に帰れるかもわからないが、一応聞いておこうとカノンに問う。
「ここは知っているのか? 興奮しているようだが」
「そ、そうです! よく聞いてくれました。
この遺跡は、ガーランドの遺跡と言いまして、この世界の三大不思議の一つとして数えられます!
そうなんです。この遺跡、なんと中に入ることができないんですよ!!
ーーーーーーって、あれぇぇぇぇぇ!?
私たち、中にいませんかあぁぁぁぁ??」
1人で興奮して、1人でツッコミを入れて、忙しそうだ。
だが、その言葉を聞いて、ヨシヒトは考える。
(あのダンジョンの出口が、ここにつながっているのか)
(まぁ、ここといっても、地理がわからんから街からどれだけ離れているのかわからんが)
そう、一段落したところでドラケンが言った。
「まぁ、いいじゃろうて。
ひとまずは、飯を食わんか。
どうせ、あの街に戻るにしろ、どこかへ行くにしろ腹が減っては動けんからの」
「そ、そうだな」
まずは、腹ごしらえをしながら、与えられた情報と、今から取るべき行動の指針を立てることにしたかったが。
「えっと、一緒に食べてもいいですか?
私のものもあるか知りませんが、ヨシヒトさんのを半分もらいます」
まぁ、別にいいか。
ヨシヒトは考えることを一旦保留にする。
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