第34話 秘宝《アストレア・スコープ》

「して、これからどうするのかの? 一旦帰るか?」




「いや、俺は帰らない。他のダンジョンというところも行ってみたい」




「別に、私はどうでもいいですよ。


 ヨシヒトさんについていきます」




 カノンは、ヨシヒトの出した肉にかぶりつきながら言った。


 その肉汁でベタベタな手で肩を叩こうとしたので、ヨシヒトはカノンから距離を取りながら答える。




「お前はついてこなくていいぞ。


 いや、ついてくるな。せっかく生き返ったのに、人生を無駄にするんじゃない」




「? 何を行っているんですかヨシヒトさん。


 私は別に、死んだことなんてないですよ」




「そうか。お前さんには記憶がないのかの。


 それだったらこいつも、死んだという記憶も……」




 あの、エルフ。その死体はヨシヒトのアイテムボックスの中にある。


 いつか、カノンを生き返らせたようなエリクサーが見つかればいいのだが。


 ドラケン曰く、このダンジョンほど深いダンジョンは別の地域では見つかっていないという。


 そうすると、ドラケンの望みを叶えるとすれば、今まで見つかっていない、未知のダンジョンかそれとも新しくできた新規ダンジョンか。そのくらいに限られる。




 しかし、この世界は不思議である。


 魔法というよくわからない技術が普遍的に使えて、さらに、過去のテクノロジーとして電子書籍も、通信端末もある。


 文明レベルは、地球をはるかに超えているように感じる。




 地球は、いまだに空飛ぶ車はないのだ。


 しかし、すでに移動法としてそら飛ぶ絨毯や、箒のような、魔法的な方法があった。




 それに、ダンジョンから外に出た時、行ったこともないようなところに転送されたことから、瞬間転移や瞬間移動的な技術もあっておかしくない。


 すぐにダンジョンに潜り、そしてカノンを殺してしまってそれ以降外に出なかったので、それ以上観察する暇もなかったのだ。




 カノンが集めているような、魔法の道具もオーバーテクノロジーに分類しても良さそうである。


 敵に隠れながら近付けるマントや、気配を隠すそれ。


 以外にも、ダンジョンでは沢山の魔法の道具を発見した。


 それら全ては今ヨシヒトのアイテムボックスの中にあるのだ。




 確認しようとすれば、何年かかかるだろう。


 ドラケンが使用法がわかるというものだけを使って今まで生きてきたのだから、入手した道具は万を超えている。ドラけんはいくら長寿の種族としても、その十分の一も使用法がわからないのだから、ヨシヒトには如何しようも無い。




「わしも潜ったことのないダンジョンが当面の目的になるじゃろうなぁ。


 ヨシヒトよ。最後まで付き合ってもらうからの。いや、わしが勝手についてくだけじゃ。


 最初のエリクサーはお前さんに渡したのだから、わしの世話くらいするじゃろ」




「ああ。その知識は有効に使わせてもらう」




「なんですか。そのオトコトオトコノユウジョウゴッコは」




 茶化すように言ったカノンにヨシヒトとドラケンは真顔で視線を向けると、「ヒィ」と背を向け肉をかじり始めた。











 一人の男が天の塔を攻略した。


 その男は天の男という。二つ名は「オレツエー」。理由は、ギルドで最初に問題を起こした時に叫んだからだ。それは、保管メンバーの冷笑とともに、その男を指す名詞に昇華した。




 夢の世界。


 男は思う。




 ゲームのようで、ゲームの中にいる。


 昔やったことのあるような、そんなオンラインゲームが再現されている。


 そう思ったが、細かい部分はやはり違う。




 もう何十年も前のゲームなのだ。覚えていないのだろう。




 天の塔には、冒険をサポートする便利アイテムが眠っていた。


 それの知識は、昔なんども挑戦して失敗していたことから覚えていた。




《アストレア・コープ》




 それは、過去改変能力を持つ道具である。


 未来を確定させる能力を持つ。




 つまるところ、その道具を使用することにより、




 過去も未来も全て思い通りに操作できるのだ。




 世界を形作るデータを思い通りに改変できるのだ。






 それを入手した男は思った。


 これには、そんな能力はなかった。




 自分の周りの事象は確かに改変することはできた。


 それに、手で触れられる範囲の過去には干渉できた。




 しかし、Wikiに乗っていたような、過去と未来を俯瞰できる能力は搭載されていなかったのだ。




 それもそもはず。長い時間をかけて《アストレア・コープ》はいくつかに分裂していた。


 いや、破壊され、能力がバラバラに区だけで独立してしまったのだ。




 そんなことを知らないこの男。


 それでも過去を改変する能力は便利であった。




 女に「自分が初恋の相手」という風に思い込ませることもできるし、いろんな事象も男がいてこその成果になった。この国の全ては、男がいてこそ完成したという事実が成立した。


 国王を殺し屋から守ったのも男だし。


 王女が恋をしたのも男だし。


 大きな戦争を、一人で食い止め敵国を滅ぼしたのも男だし。


 この国の、全ては男がいてこそ。になった。




 そんな能力を使っても、男にはなんの影響もなかった。


 全ては《アストレア・コープ》のなせる技。

















「おかしいな。年表が二つ存在している」




 もう一つの《アストレア・コープ》は、過去と未来を見ることができる能力を持つ。


 しかし、その過去と未来にはなんの干渉もできないのだ。




 つまり、過去と未来に干渉する能力。


 というのは、 




過去と未来を見る能力




過去に干渉する能力




未来を改変する能力




 の三つに分かれたのだ。




 しかし、そんな事実は《アストレア・コープ》を持つ二人は知る由もない。




 過去を見る能力は、興味のある過去を見ることができるだけ。


 人外のように、コンピュータのように全てを処理できるわけではない。




 あくまで人間が、情報を見るだけなのだ。


 全てを知っているわけではないし、全てを知ることもない。




 つまり、この《アストレア・コープ》がもともとどんな能力があって、能力が分裂した。 なんて情報を、なんの手がかりもなしに、見つけることなんて不可能に近い。






 だが、過去と未来を見る男は気が付いた。




 同じ人間に、同じ国に過去が二つあるということに。




 同じ世界線に、二つの過去が同時に存在していることなんてありえない。




 それは、世界の対消滅に繋がりかねない。


 しかし、それが事実として存在してしまっている。




「どういう、ことだ?」




 その過去に目を通していく。


 知らない男が、都合のいいような過去を捏造している。




 しかし、その男に焦点を当てても。




【男の過去を見ることができない。】






「誰だ。この男は」




 近い将来、二重の過去が世界全体に広がる光景をみた。




「このままでは、未来が。世界が危ない」




 過去と未来を見る男が、違うディスプレイに映し出される男を見た。




「こいつも、過去が見えない」




 そして、未来も見えないのだ。




 そこに映るのはヨシヒトであり、ドラケンであり、カノンである。




「こいつとあいつをぶつけてみたい」




 過去と未来がこの男にも見えないのだ。


 どうなってしまうのだろう。




 世界がどうこうよりも、興味が優った。




 そして、男は久しぶりに外に出た。






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