第2話 アイテムボックス

「喉が渇いた。これは死ぬかも」




 所持品には水がない。どこまで歩こうが、どこも同じ。前に進んでいるのかさえ心配になるレベルだ。


 しかし、進むにつれて、変わってきたことがある。


 喉が乾くが、体はあまり疲れないのだ。


 かれこれ、数時間は歩いていた。少しペースが早い。

 水を我慢しているが、どれだけ歩こうが、疲労が感じられない。


 しかし、喉は渇く。



「これは病気か」




 そして、歩くのが面倒になり、その場に腰を下ろす。


 所持品はない。この腰のポーチには筆記用具が入っているだけ。


 と、思っていた。




「本気で喉が渇いた」




 目薬があれば、それでも飲みたい。水に飢えていた。




「………………」




 ポーチを開けた。




『異世界の歩き方』




 一枚のパンフレットが入っていた。


 そして、丁寧に日本語でそう書いてあった。




「異世界ね」




 『ここは、次元の狭間。草原だけの空間。何をしても、何もない、ただの空間。今は魔力に満ちています。異世界に空気に適応してもらうためです。


 【異世界の歩き方1】


 ・異世界にはダンジョンがあります。


 【異世界の歩き方2】


 ・生命を殺すと、レベルアップして強くなります。


 【異世界の歩き方3】


 ・スキルというモノがあり戦闘をサポートします。




 さぁ、異世界に行こう!!』




 「なんだ、それ」




 異世界。ダンジョン。そんなの知らない。このパンフレットを作ったやつは、何を考えているのだ。


 そんな世界に、召喚されるのか、死んで転成するのか。


 そもそも、僕にそんなことをして何に得になるのか。




「僕はただの一般人だぞ」






ーーーーーー適合率70%。スキルを選んでください。




「あー、なんか聞こえる。幻聴やばい」




 実は、内心ワクワクしていた。漫画やラノベの世界。そんな、異世界ファンタジーが、始まると、この時は思っていたのだから。




【強盗:売っているものを奪いやすくなる。


 窃盗:人のものを奪いやすくなる。


 アイテムボックス:対象を収納できる。容量は使用者次第。


 モンスターハンター:異人種を殺しやすくなる。


 双眼鏡:目が良くなる。どの程度かは、使用者による。


 生成:素材を思うように加工できるようになる】




 目の前に現れる半透明なディスプレイに、書いてあるものはそれだけ。




「こ、これは微妙な」




 異世界無双できるかと思えば、とことん微妙なスキルばかり。アイテムボックスや、生成は後々有利にはなるだろうが、戦闘能力皆無な自分が持っていてもあまり意味がないだろう。


 異世界にはダンジョンというものがあるのだから、モンスターハンターあたりが使えるか。


 いや、幾つ選べるのかによるか。


【二つ、選べます。レベルアップや、そのほかでスキルを得ることができます。その時も同じように選び取得できるようになります。


 でも、スキル選択権は、「異世界の歩き方」を所持しているか否かです】




 答えてくれるその声。




「まぁ、アイテムボックスは重要だ。それを選ぶとして、もう一つ。モンスターハンターのスキルか。それが妥当だろう」




 努力したくない系主人公になれる僕は、このパターンを知っている。


 こうやってスキルを選んで異世界に行くパターンは、スキル無双で、肉体的強さではない。


 ステータスがあったとして、あまり強くないのだろう。


 少しでも、強くなれる手段があったほうがいい。




 まぁ、面倒なので、あまり考えていないが。


 人生なるようになるさ党の僕からすれば、実際どのスキルを選ぼうとどうでもいいのだった。




「じゃあ、その二つで」




 言いながら、デスプレイをタッチする。


 一回画面が発光したのち、画面が切り替わる。




【最初のダンジョン都市を選んでください】




【魔界都市ディーン


 戦場都市スカラハム


 自由都市アーバン】




 三つの都市の名前か。


 どこも知らない。資料すら無いので名前で選ぶしか無かった。


「自由都市、アーバンだな」


 それ以外考えられない

 戦場には行きたくない。

 魔界ってやばいだろう?


 あまり面倒ごとには首を突っ込みたくないのだ。


 自分が楽できれば、それでいいのだ。




「僕のために、人が全てしてくれればいいのに。結局、自分の意識があるが、何もせずにしたいことをする。そんな生活がしたいもんだね」




 独り言は、続く。




「これまでも、勉強勉強なんて面倒なことを押し付けてきて。


 結局、自分らが生み出したお金という概念で、それで縛られて行きているだけじゃないか。


 土地があれば自給自足で自分だけで生活できるのに。それすらもするスペースがない。いや、それを使用にもお金がいる。結局のこの世界はお金が全てなのだから、じゃあ、お金が欲しい。


 何もしなくてもお金が欲しい。


 それがダメなら、少しの努力で、何百倍のお金が欲しい。才能が欲しい」




 異世界。それは、現実逃避の場所。


 何も特殊な能力を持たずに行けば、日本人は誰でも生きられないだろうし、




 どうして、漫画の中の主人公は、自分から面倒ごとに首を突っ込むのか。




「僕は、異世界に行くのなら、欲のままに何もかもをしよう。したくないことはしない。


 したいことをする。


 もしもお金の概念があるのなら、一生困らない分のお金を稼いで、それから楽になりたい」




 ダンジョンがあって、いろんな生物がいる。


 それだけしか情報のない異世界で、そんな妄想を描く。




 もしかすると、すぐに殺されるかもしれない。


「それはそれでいいかもね」






 現実世界。大学を卒業したとして、仕事に就職して、同じことを繰り返して、結局お金を稼ぐ。


 別に、自分がいなくてもいいじゃないか。と、不安を持っているこの年頃。




 溜め込んだ欲望と不安。




 異世界に行けば、全て解消できる。




「いや、何かを食べるにも、対価がいるとすれば・・・」






 半透明なディスプレイ。戻るボタンがないか探す。


 左下に存在している。




「スキルのモンスターハンターを変更。生成にする。


 泥から白米でも作れば、お金がいらないよな」




 孤独は、幸せになるために欠かせない、必須材料。


 動かなくても食料さえあればどうにでもなる。




 異世界で、僕は幸せを探します。

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