第17話 死

「本当について来るのか?」




 カノンに問いかけるが、「はい」の一点張りなので、もう気にしないことにした。


 それに、カノンについてはどうでもいいので、どこか、浅いところで振り切ればいいだろう。


 あまり、「ハイエナ行為」というものを見られたくはない。最低でもその程度の恥じらいと常識はあるつもりだ。


 いや、今のヨシヒトの能力、スキルをみれば、ハイエナ行為と言えど、あながち犯罪、間違い、咎められるものではない。


 【強奪者】。その能力は、アイテムボックスに入れたものは自分のものになる。というもの。


 結局、それの効果はあまり実感はない。それが誰のものか。それはなんなのか。


 現状でそれが気になる、気にしたことはないからでもある。




「ところで、ヨシヒトさん。武器って何を使っているのですか?」




 痛いところを最初について来る。




 ギルドから出て、ダンジョンへ向かう道。


 あまり人通りが少ないのは、今日もエルフとドワーフの抗争があったからか。


 しかし、昨日に比べては、遥かに活気があるのは確かだ。




 流石に、2日連続で冒険者業を休むわけにはいかないのだろう。


 結局、入り口についても、順番待ちで少しだけ時間を使った。その間に、カノンの質問に答えたのだった。




「そうだな。武器か。あまり考えたことはないな。言っただろうが、俺は昨日冒険者になったばかりで、それ以前は戦闘をするような職じゃないんだ」




 当然だ。そもそも、この世界にきて、ギルドに入って冒険者にはなったが、実は職業は


「大学生」のままなのだから。




「そうですか。でも、どうして深層に行けるんですか? 実はトラップに引っかかったのは嘘なんですか?」




「そうだな。嘘でもあるし、嘘ではないとも言えるな。結局、お前は俺の何なのかによって、応えられる範囲が決まるが」




 そうだ。異世界に来て、何が変わったわけでもない。こうやって、言葉が伝わればそれだけ詐欺に引っかかる可能性だって、犯罪に巻き込まれる可能性だって上昇する。


 結局、言葉の伝わらない地方の方が、身に感じる相対的な危険性は低い気がする。


 理由は、わからないから。




 危険が認知、察知できなければ、それは無いと一緒なのだ。


 無いものに注意を向けない。それをわずかながらに感じられるというのは、やはり言葉が通じるからだろうと考える。




「私は、ヨシヒトさんの何のか。深い質問ですね」




 何を考える必要があるのか。結局、昨日あったばかりの関係だろうに。


 それに、一晩を過ごしたと言えども、言葉以上でも以下でも無い。一緒の部屋で寝ただけ。


 それで、何を感じろとでもいうのか。




「私は、ヨシヒトさんの何なのでしょうか。あ、次は入れますよ。ギルドカードの準備してましょう」




 そうやって、カノンは答えをはぐらかした。


 別に、カノンがどう考えようと、どんな答えを出そうと、ヨシヒトから見れば、邪魔な存在である。昨日会って、ずっとついて来る、うざいやつ。




 順番が回って来て、ダンジョンに入る。


 昨日はすぐに二人の冒険者が通った後がわかった。理由は、そこにモンスターが瀕死状態で倒れていたから。


 それを伝って、深い場所へと降りて行ったのだ。




 しかし、そこには人間の集団がいる。


「あー、今日は多いですねー。昨日は少し弱ったモンスターがたくさんいて、美味しかったんですが」




「昨日? 昨日行った場所に案内してくれないか?」




「そこも多いと思いますよ?」




 カノン。二層の一番。


 出会った場所はそこだ。




冒険者の簡単な力関係をまとめると、ミリーナ曰く




1〜20層 下級冒険者


21〜30層 中級冒険者


31〜45層 上級冒険者


46〜80層 深層冒険者


81〜150層 超級冒険者


150〜   Sランク冒険者




 とまあ、そんな感じ。


 この中にもランク分けがあり、それは細かくなるので割愛。


 簡単にはこうやって、分けてあり、カノンは下級冒険者に入る。


 下級冒険者の割合は、半分を超えている。




 それは、新人が多いためでもある。


 時が経てば、深い層を探索する冒険者は死んで減り、低い層を探索する冒険者は地上で人間が繁殖するほど多くなる。


 そういう理屈で、冒険者の数は減っていくが、増えていく。


 しかし、圧倒的に減ったり、増えたりの上下はあまりしない。




 理由と言えば、何かが管理しているのか。神の干渉か。


 よって、その割合は、細かく見れば変動はしているが、大まかには変わっておらず、だいたい6.5割が下級冒険者としてその生涯を生活する。




 中級冒険者になれば、一気に減り、2割ほどである。


 上級冒険者が1割ほどおり、0.5%がそれ以上である。




 結局、エルフとドワーフの冒険者は、その0.5%に入っているのだ。


 下手をすれば、ヨシヒト自身も。




 今日、ダンジョンに居るのは大半が下級冒険者。


 エルフとドワーフの狩場が深層よりも深ければ、決して邪魔になることはないのだ。




「こっちですよ」




 カノンは、ヨシヒトが言ったように、最初に会った部屋まで案内することになる。


 が。




 數十分して思い出す。というか、身を持って確信した。




「こいつは、方向音痴だったか」




 それは病的なものだ。


 少ししか歩いていないのにもかかわらずに、理解できないほど遠くに来てしまった。




「知ってますか、ヨシヒトさん? ギルドカードには、今の階層情報と、今までの踏破階層が見られるんですよ」




 ふふんと、彼女は先輩ズラをして、ドヤ顔を向ける。


 そんな顔がしたいなら、ここがどこかを判明させてからにしてくれ。




 ギルドカードを取り出す。




「7階層の45番」




 目的地を大幅にずれていた。




「でも、一度もモンスターと遭遇しませんでしたね」




 それもそうだ。昨日は、いない道を選んで進んだが、今日はそうでもないだろう。


 瀕死で動けないモンスターは、通り道では発見できなかった。




「あ、ヨシヒトさん。見てみて。


 モンスターがピクピクしてます!」




 そこには、モールラビットの集団が横たわって居る。


 カラフルな毛をして居るので、買取金額は結構あると、昨日ミリーナが言っていた。


 モールラビット専属の冒険者だって居るそうだ。


 その肉も鳥のササミのような味らしく、結構な利回りがいい優良モンスター。




 それが、數十単位でそこにいた。




「とどめを刺すか」




 昨日と同じだ。




 モールラビット。その首付け根、頭。即死する場所に落下位置を決めた「ユニコーンのツノ」を排出するアイテムボックスの出口を設定。


 それは、ダンジョンの天井ぎりぎりに出口を定め、落下する重力と自重で加速させ、ツノで刺し殺す。




 昨日の探索で確立した、ヨシヒトの回収パターン。ルーティーンの一つ。




 そのまま、的を定めて、落とした。




「これは、大量ですね」




 そこに、カノンがいた。


 カノンは、モールラビットを一匹、自分の持っていた短剣で一突きし、それは命が途絶え光となり四散する。そして、そこにはドロップアイテムがの残るのだ。




 ドロップアイテムを拾うためにその場にしゃがんだカノン。




 上空に注意なんて向けて居るはずがない。


 下級冒険者が、ダンジョンの上から落ちてくる物体に気付けるはずがない。




「あ」




 それしか言えなかった。




 落下した、そのちょうど真下に、人がいるなんて想定していないから。


 そこがアイテムボックスの範囲内とは言えど、瞬間に回収できるほど反射神経が優れているわけではないから。


 事前に何か注意をしたこともないし、行動を起こしもしなかった。




 つまり、その「ユニコーンのツノ」という、尖った、鋭利な、殺傷能力が極めて高いそれは。






 カノンに深く突き刺さった。




「うごっ…………っぷ !?!?」








おおよそ、女性が出すようなうめき声ではないそれを、吐き出し。 


 血液が地面を濡らす。


 そのツノは、地面と体をつなぐように。


 無慈悲に。




 カノンの意識は、途切れる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る