第37話 異世界人


 ロンデアリアの冒険者ギルドを見つけた。


 特筆すつような特殊性を持った建物ではない。単純な豆腐建築様式で、その中には、いろんな種族のギルドメンバーが滞在していた。




 その入口をくぐると、一同の目線がこっちを向いた。




「あいつは、ドラケンじゃないか」


「ドワーフだぜ?」


「相当老人だが、冒険者か?」




「おい、ドラケン、お前有名人か?」




「ヨシヒトさん、忘れたんですかぁ? ドラケンさんを追いかけてダンジョンに入ったんじゃないですか」




「そうだっけか」




 何も覚えていない。


 正直、自分の行動原理は何を基準としているわけでもない。よって、その場その場のノリで変わってくるのだが、そもそもこの物語が始まった理由すら覚えていない。




 すると、受付の奥から数名の人が出てくるのが見える。




「あなたは、かの有名なドラケン様まではないでしょうか?」


「この国の王が呼んでおります。どうか一緒にきていただけませんか?」




 3人。一人は、分厚い胸板を堂々と晒しているライオンのたてがみのような髪型をした男。一人は聖職者のような豪華絢爛な服を着ているクレリック。一人は、スーツに七三分けをした、いかにも詐欺師のようなサラリーマン風の男性。


 彼らは、ドラケンを囲むようにヨシヒトたちとの間を埋める。




「止せ止せ。わしは国王なんぞとは縁を持ちたくない」




「そこをどうかお願いします。ここの王様は良くはあまりないのですが、その分一度望んだことは叶うまで行動を始めるのです。


 今回は、ドラケン様と一度話しをしたいと言い出しておりまして」




「すると、王様がこっちに来ればいいじゃろう。わしは、冒険者ギルドのメンバーではあるが、この国の国民でもないぞ。


 税金も払ってないわしを、勝手に呼びつけるのは無礼じゃろうて」




「すると、こちらから少しのお礼があればいいのでしょうか。


 この国に伝わる秘薬のありかをお伝えしましょう」




「秘薬? そんなものがあって何になるんじゃ。


 そんなよりも金じゃ。食料じゃ。酒を出せ」




 不機嫌になるドラケンにそれ以上気分を悪くされる前にと、スーツの男はあれよ来れよと注文をするが、結局この滞在期間のすべてでドラケン含めヨシヒトたちパーティがする食事代をすべてこの国が持つ。という条件でドラケンは一度国王の元へ訪れることになった。













 ギルドでの騒動から数時間後。


 城下の門から貴族外へと入り三度目の門を入ったちょうど、この国の中心である城。


 国にある天へと伸びるダンジョンよりは低いが、それでも高層マンションより高く見える。


 白を基調とした色で、所々黒くくすんだ部分はあるにしろ、とても巨大な城はこの国の国力を表している。




 そんな建物へと案内された一行は、国王との面会に向けて身だしなみを整えていた。




「ヨシヒトさん、似合ってますか?」


「別に、顔が良ければ何を着ても様になるだろう」




「え? ヨシヒトさんに褒められてますか?」




 カノンたちは国王と面会するドラケンについて来て、一旦正装に着替えた。


 呼びつけておいて、服装を正させるとは、鼻につく奴ではあるが、一応国王ということであまり話題にはしない。




 しかし、まあ有名ではあるが、ただの冒険者であり冒険家であるドラケンとどうして話すことがあるのか。


 しかも、関係のないヨシヒトも呼ばれ、カノンはこの城のメイドたちに餌付けされているようだ。




「あー。ヨシヒトさん、このお菓子美味しいですよ! パサパサしたお肉とかよりすっごく美味しいですぅ」




 ニコニコととても美味しそうに食べるカノンに、給仕のメイドたちは喜んで次のもの次のものを運び、食べさせる。




 丁寧にメイクをされたカノンは、レンタルしたドレスも相まって、姫のように見えた。 


 その食べっぷりからは品性を感じることはできないが、外っつらはとても姫である。




「ヨシヒトよ」




「あ?」




「ここの別に居心地が悪いものでもないな。


 国王次第では少しこの国に留まって、冒険のホームにしてもいいんじゃないかの?」




「知らん。エリクサーが手に入るのならそれでいいんじゃないか? 


 ここに居たって、あのエルフが生き返るわけでもないしな」




「秘薬、というのが気になりはせんかの? わしもあまり聞いたことのない噂じゃし」




「それも、聞いてみればいいんじゃないか?


 俺はお呼ばれしてないみたいだしな」




 なぜか、メイドも執事もヨシヒトだけにはやけに冷たい視線を送っているのを感じた。




 厄介者扱いというか、目的の人物に寄生している虫を見るような。そんな風である。






「ここからは、王の間に入ります。


 もう一度確認しますが、武器や刃物の類は持っていないですね」




「何じゃあ。わしらを呼んだのはお前たちじゃろうて。


 どうしてわしらが色々と準備をせにゃならんのじゃ」




「申し訳ないのですが、望んだのは王であっても、その責任を持つのは私たちですので。


 万が一があれば、私たちも罰を受けることになるのですよ」




「そんなの知らんわい」




「え? このパンケーキもくれるんですか? 嬉しい!」




 一人だけ、メイドと親しくお茶会をしているやつを放っておいて移動が始まる。




 王と謁見するのは、ドラケンとヨシヒト。カノンはこの場でお留守番をすることになる。






 ガチャリ。




 その準備室の扉が開いた。


 そこから顔をのぞかせたのは、趣味の悪いキモい人。




 銅像になっていた日本人である。




「ここに、国王から呼ばれた人間がいると聞いたが」




 彼の名前は、江津礼央。


 この国の重鎮の、異世界人である。

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