第36話 王国へ

02




 この国の名前はロンデアリア王国。


 長い間、ロンデアリア王が治める王国の一つであり、世界の国が加盟している「アリアンロッド議会」の上位議員国でもある。




 つまり、世界的に見ても国力は上位であり、魔法技術を中心とした学校制度、そして幼年教育に熱心な先進国の一つだ。


 旅の情報サイトにはそう書いてあったので、そうなのだろう。




 実際のところ、興味がないのでその中でも塔のダンジョンに一番近いとされるロンデアリア王国の首都に宿を取ろうと乗合馬車に乗車した。




「ヨシヒトさん、大丈夫ですか?」




「あ、ああ。多分な。色々と考えて行動をしようと思ったが、そもそも、俺は考えられるような頭はない」




「そんなことはないです。ヨシヒトさんは、行き当たりばったりで何も考えなければそれで良いんですよ」




「そうじゃの。結果として、わしにエリクサーの一本や二本回ってくれば、何をしてもいいし、何もせんでもええ。


 ヨシヒトは結局ほとんど一般人みたいな身体能力じゃから、逆に何もせんほうがいいじゃろうて」




 ヨシヒトの能力は、アイテムボックスだけ。


 他の一般人のように、レベルも上がるし、その分能力も飛躍的にアップするが、それも一般人並である。


 英雄の素質を持った人間や、ドラケンのように長生きと、果てしなうレベルが高いのであれば、成長率が一般人並であろうと、その分強い。




 しかし、ヨシヒトはどこまでいっても一般人止まりなのだ。


 だから、アイテムボックスという他の人間にはない、特別なスキルが存在している。




 アイテムボックスから、水を取り出し、口に含む。




 それから、焼いた肉も取り出し、一人で食事を始める。




「あ、ずるいですよ。ヨシヒトさん。


 ご飯、私にも分けてください」




「わしにもビールじゃ。


 樽ごといれたじゃろ」




 そんな光景を見ていた、他の乗合馬車の乗客は、どこからともなく現れたビール樽やジョッキ。それにさらに乗った今出来立てのような湯気を立ている飯を見て驚愕していた。




 アイテムボックス。


 似たようなバッグが普及はしているものの、一般人が手が出る金額ではない。概念的に知っていたり、どこかで見たことはあったとしても、そもそもビール樽が入るくらいの許容スペースはない。




 それから、いくつか会話を交わし、二日が経つ。














 国境付近の町から、首都ロリンデに到着する。






「よし。まずは宿を探そう。中に置く荷物なんてないが、一旦はちゃんとしたベッドで寝たい」




「それも一理あるな。賛成じゃ。部屋割りはどうするんじゃ」




「別に何も気にしない。三部屋か、大部屋を一つでも取ればいいんじゃないか?」




「私はヨシヒトさんと一緒の部屋でもいので、シングルの部屋を二つでもいいです」




「お前は床で寝るんだぞ」




「えー。私が添い寝するんですよぉ」




「ベッドが3つ以上ある部屋でそんくらいで。じゃあ、適当に最初に見つけら看板があるところでもいいじゃん」




「わしの意見は聞かんのか?」




「聞いて通する」




「特に案はないがの」








 首都と言うだけあって、とても人が賑わっていることがうかがえる。


 国境付近の町は、商業地は人がたくさんいたが、それ以外の場所はガランとしていた。




 しかし、首都は区画整備が外周付近は行き届いてないようで、店や民家などが乱雑に建てられていた。




「ここは、外周区ですよ。一応42区画と名がありますが、基本的には首都の外です」




 商いをしている少年が教えてくれた。


 ヨシヒトは彼に10枚ほどの銅貨を渡した。




 国境で両替と換金をしたので、一応は今の国、ロンデアリアで使われている現成コインであろう。




「ちょ、見てください!!」




 カノンが元気よく指をさす先には、まんま日本人顔の男が立っていた。


 その身長は10mは超えるだろうか。その色は、足元は色があったが、それより上はくすんだ青色である。




 そう、日本人の銅像であった。




「趣味が悪いな」




「そうですね。正直キモいです」




「な、江津様を侮辱なさるのか、旅のお方」




「い、いや、そんなつもりはない」




 民家の一階スペースで八百屋を営んでいると見られる70歳台ほどのおじさんが言う。


 ヨシヒトも否定するが、訝しげな目を向けられる。




「旅の途中か、あのダンジョンでも攻略しにきたのか。


 しかし残念だ。あのダンジョンは、江津様がつい先日攻略してしまったのだ」




「へーえ」




 あまり興味なさそうに頷くと、八百屋のおじちゃんは警戒するような目を向けてくる。




「傭兵、か?」




「いや、冒険者? だ。


 この場合は違うが、それがどうしたんだ?」




「いや。この街ではあまり江津様のことを話さないほうがいい。


 賞賛なら大丈夫だがな」




 ガッハッハと大声で笑いながら、ヨシヒトたちはその場を後にする。

















「あ、れ?」




 おかしいなと、そのディスプレイをスクロールしていく。




 今、流れた通知を探しているのだ。




「あ、あったあった。 


 えっと、なになに。


 警察が観察している対象が入ってきた?」




 めんどくさそうに、彼は鼻をテッシュで取る。


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