第27話 忘れる

  540階層。特筆することはないが、キャンプ地点の一つである。


 そこにはいくつもの宝箱があった。




「こんな深い階層なんだ。何かいいものが入っていることを願うが」




 ヨシヒトがそう呟くが、しかしその願いは物欲センサーに引っかかる。


 よって、全てを開いても何もないのだろう。




「ドラケン。全部開けてくれ」




 ここで他力本願である。


 他人が引けばヨシヒトの物欲センサーに引っかかることはないだろう。結果、何かいいアイテムが出るのではなかろうかとそう思うのだ。




 ゆっくりと宝箱に近づくドラケンは何度かの躊躇いのうちその宝箱の一つを開いた。


「これは」




 ドラケンには少し小さい鎧が入っていた。


 しかし、それにはとてつもない魔力の本流を感じた。


 禍々しく輝く光。それをドラケンが鑑定にかける。




「なんだ。鑑定なんてスキルを持っているのか」




「簡易鑑定は持ってるがの。お前さんみたいに詳しくはわからんて。


 これは【呪い】の装備の一つじゃな。これを着れば不死になるそうじゃ。もちろん脱ぐことはできないがの」




「そんなものは要らないな。不死には興味があるけどな」




 そう言ってドラケンはその鎧をヨシヒトの方に軽く放り投げる。


 それは空中で消える。


 アイテムボックスの中にしまったのだった。




「そうだな。頭部分と腕部分と足部分を一緒に装備することで暗黒騎士になることができるそうだな。何千年前かに現れた最強の騎士らしいが。


 どうでもいいな。実際これより効果のいい不用品はボックスの中にたんまりとある」




 540階層。つまりこの階層に来る前の539階層までの全て。探索したアイテムやドロップ品、何もかもがアイテムボックスの中に貯蔵してあるのだ。装備できない装備品はそれはもう、数えきれないほどにある。


 売れば一財産になるほどである。




 もしも、地上に出ることがあれば。の話であるが。




「他も開けてみてよ、いっぱいるんだ」




 一つにこれだけ干渉していれば終わるものも終わらない。


 ここには30以上の宝箱が無造作におかれているのだから。




「それもそうじゃ。順に開けて行きたいが、気をつけることが一つだけある。


 ミミックと言ってな、宝箱に擬態するモンスターが存在するんじゃ。それは意外に強くての。


 噛まれたら痛いから慎重に開けたいんじゃ」




「それじゃあ」




 といった次には宝箱が消えていた。


 3つを残して全てがヨシヒトのアイテムボックスに収納された。




 しかし、宝箱には鑑定阻害の魔法が強くかかっているために、アイテムボックスない艦艇ができない。それらは「未開封宝箱」として表示されるのだから収納しただけじゃそれだけである。


「あの3つはミミックだな。それ以外を開けてくれ」




 ドラケンの真横に残り32個を並べた。


 規則正しく並んだ宝箱を見て、「ほう」と唸るドラケン。




「ミミックはな、結構いいアイテムを落とすこともあるんじゃ。


 例えば回復薬なんてな」




 その言葉を聞いたヨシヒトは、漆黒の鋭鱗を加工した「漆黒の流線矢」という弾丸を装填する。


 その狙いを乱雑にその場においてある3つの宝箱に定める。




 シュンーーーー




 一閃。


 黒い線が走ったその次に3つの宝箱の土手っ腹に巨大な穴が空いた。


 そこからはドス黒い内臓と流血があふれて来る。




 宝箱の蓋が自動的に開き、そこから泡を吹きだす。




「ミミックはとてつもなく硬いというのにな」




 そんなドラケンの呟きは聞こえないまま。




 ミミックの死体は光に包まれ、それらは何十、何百にも別れて弾けて四散する。


 光はダンジョンに吸い込まれるようになくなれば、別の壁から光が出現してそれがミミックが死んだ場所に集まる。




 それはドロップ品としては珍しい演出である。


 特に、ミミックなどレアモンスターを倒した時に一定確率で起こる現象であり、それを「レアドロップ」と呼ぶ。




「これは」




 アイテムボックスに素早く回収したそのアイテムは「叡智の結晶液」とあった。


 《叡智の加護「セフィロト」の加護を受ける。アクセス権レベル4を得る。同じものを二つ合成すると「叡智の結晶」が得られる。》




 ヨシヒトが欲しいアイテムではないが、それでも魅力的なものであろう。アクセス権レベル4とか、なんか凄いものなのだろう。


 それを得ることでどんなマイナス効果があるのか知らないが、つまりは頭が良くなる。と考えれば飲んでみることは結構良いことだろう。




「それにそのほかは、回復の魔薬と、ドレインパウダーか。この白い粉は」




《これを使った人間が触れた「  」に対してランダムでスキルをすば雨ことができる》




 なんと、使い方がシビアなアイテムだった。


 これは使うことはないだろう。白い粉を相手に擦りつけるのだ。相手を選ぶだろう。




「ドラケン、これをやろう」




 本当に要らないものをドラケンになすりつける。


 「回復の魔薬」は以外にも何十本も持っている。


 それは死傷までを一瞬で治すことができるという魔法の薬である。


 同じような魔法の薬はこれ以外にもたくさんある。


 この「回復の魔薬」は同じような効果のアイテムよりも劣るものである。


 それを何百も持っていても使うことはないだろう。




 接近戦のドラケンが持っているべきなのである。




「何本目じゃ」




 ドラケンも要らないようだった。




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